表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

1-4

遅くなって申し訳ないです











そのまま街をブラブラして、西に行くならばと必要なものを買い込んだ。


西方の国、バッカスは温泉地としても有名だけどその特有のガスと高温地帯に耐えることのできる魔物が多くいることでも有名だ。備えあれば憂いなし、と言うだろう?

保存食はもちろんのこと、解毒薬やら治癒薬やら火薬やらとにかくいっぱい。ちょっと必要ないかなと思う痺れ罠とか麻酔弾とかも買い込んで荷物は膨らんだ。

元々俺はそこまで慎重な性格じゃなかった。石橋は全然心配にならない。

少なくとも1人で旅をしてた時はこんなに買わなかった。中程度の魔物なら余裕綽々だし、ちょっと強いのも骨折以上の大怪我はしたことがない。じゃあなんでこんなに買うのか、それは単にイザクがいるからだ。

あいつはほっとけば襲ってこない魔物に手を出すわ、無駄に危険地帯に行くわ常日頃から死に急ぐわで、装備がいくらあっても足りない。

しかもあいつ自身薬を作るのは苦手で(俺も苦手だ)、既製品を買うしかないから薬代だけで金が飛ぶ。

本当、勘弁してほしい。


にしても俺とイザクの調合の下手さには程が有る。

ただすりつぶしていろんなのと混ぜればいいだけなのに、なぜか毎回爆薬が生成されるんだ。これにはさすがの俺も参ってしまう。師匠は当代随一だって言われてたんだけども。


なんでなんだか、ため息をついて、気がついた。



「あ、しまった」



そう呟いて腕の中の紙袋を見る。



「睡眠薬切れてたんだっけ」





□□□□



「遅かったなぁー。どこまで行ってた?」



〈ギルド〉に帰るとカウンターにイザクの姿はなく、ナターリアが「寮に行ったわよ、何だか嬉しそうだったわ」と鍵を渡された。

俺とイザクはこの〈ツァイカ・シティ〉を拠点にしていて、帰るべき家(・・・・・)もここにある。それは〈ギルド〉裏手の小さな寮でここの管理もナターリアがしていた。俺たちみたいな流れ者はかなりいる。そういう奴らに格安で部屋を貸してくれてた。

根無草にそれはとても嬉しいことだった。

帰る家もなければいるべき居場所もない。だけれどナターリアはそれを、たとえ擬似的なものだったとしても与えてくれて見てくれる。俺はこの古ぼけた鍵の何代目の主人かなんて知らないけれど、この傷の数だけ大切にされてきたのかな、と。

最近少し考えた。

その鍵をドアノブの下の鍵穴に入れて回しドアを開ければ、気づいたイザクが酒瓶を投げてよこしつつどこに言っていたのかを聞いてきた。



「買いだめ、あとリーんとこに」

「あー、ナルホド、あいつ元気だったか?」

「相変わらずだ。今日も殺されかけたよ、新聞紙で

「そりゃあ…なんと言うか、ご愁傷様だな」



そういって笑う。あいつ仕方ねぇなぁと嬉しそうだった。

酒瓶のコルクを外し一気にあおって口を離す。キュポンっと音がして俺はまた栓をした。いい酒だけど少し古いな…酸っぱい。

ラベルを見ると製造年月日のところに20年近く前の日付が刻印されてた。この酒のこの年のは確かレア物のはずだ。酒好きの俺が言うんだから間違いない。


…嬉しいことって、これか……


俺は簡素なテーブルに荷物を置いてベッドに腰掛けた。これも随分古ぼったくて、勢いよく座るとギシと大きく鳴いた。



「どこで手に入れた?こんな滅多出回んないのをよく見つけたな」

「あれ言ってなかったか?前の街で買ったんだよ。いい酒だったからお前にあげようと思ってなー、ゼン、酒に目ぇないし」

「うっせぇ。だけど…本当、なんでこんなん…記念日レベルの酒だな」

「じゃあ今日はゼンくん3ヶ月ぶりにおかえり記念日にしようっ」

「はぁ?ガキかてめぇは」




もう一回ラベルを見る。鈍色の瓶に入った酒は酸味と特有の喉を焼く熱さがミスマッチだった。ここの酒はこんな味だったかと思いつつ、そういえばテオバルトが街を出て行くことを思い出した。

イザクに言えば少なからずやっぱり驚きはあるようで、へぇ、と興味深そうに頷いていた。



「またどっかで会いそうだけどな。イザクはあいつのこと嫌いだっけ?」

「ちょっとねー、なんか、よくわかんねーし。俺ああいうタイプニガテ」

「ま、俺もだけどな…てかちょっと、またどっかで会いそうで怖い」



俺が言い終わるのとほぼ同時に、イザクは「あ」と声をあげた。あ?と聞き返せば窓際の机の引き出しから一枚紙を取り出して、突きつけてきた。顔に近づけられすぎて逆に見えない。その手から紙を取ると、目を落とす。それは新聞の切り抜きで、大きな字で



「『遺跡地下から発掘、古代の王家の墓か』…こりゃ…」

「漁るのに手頃、だろ?相棒!」

「…イザク、荷物をまとめとけ。今夜行くぞ。で、明朝出発して売り捌くぞ」

「りょーかいっ!!!俺お前の即決大好きだぜっ!!!」



言っておくが、俺の本業は傭兵じゃなくトレジャーハンターだ。

決して、泥棒じゃあない。






□□□▷


「今回はうまく行くといいわね?」



その呟きに対してうーん、と唸る。

うまくいくかどうかなんて、どうせあの子次第なのだから尋ねられても困るというものだ。


夕暮れの陽が木壁を照らし始める時間。

彼らの世界と我らの世界が繋がる時間。

我らが最も好んで行動する時間。


目の前の女が魔に変わる時間。


古いこの建物の奥に女はいる。鋭い目つきはこちらに向けられていて、尚且つこの建物内全ての武器が切っ先を我に向けられていた。だからゆっくりと肩をすくめてたっぷりと余裕を含んだ笑みで答える。



「仕方ないネ。準備に手こずっただけアルよ。見つけるのに8年、準備に2年…そう、魔法が解けるのに10年。長い道のりネ」



左手首の刺青トライバルを見る。未だ色濃く残っているそれは、あいつが我にかけた呪いの証だった。それを解く

にはどうしても”アレ”の”知識”が必要で。


だから笑った。


仄暗くなっていく建物に、女が映える。立ち上がると何かを投げて寄越してきた。パシと受け取ればそれは修繕と魔法の付与を頼んだ二本一対の我らのエモノ。



「寂しくなるわ」

「嘘つくいいないネ。あんた、そんな眼して言う言葉違うヨ」

「…あんたの嘘くさいトューリ訛りも聞けなくなるのね」

「その綺麗な顔壊すいいカ?」



そう言えば冗談?と返される。呆れて出口へと向かった。



「気をつけて。彼女、手強いわよ?」



ひらひらと手を振ってきた、振り返す。

後ろを見つつ扉を閉めた。

最後にこの店で目に入ったのは丸められた跡のある新聞紙だった。












怒涛のフ○○ラッシュ。

ちょっとでも続きが気になっていただければ幸い。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ