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「でぇ〜?今回はどこを壊したのかな?刃こぼれ?柄がもげたのかしら?それとも刃が折れた?」

「…物騒だな…まぁ、そうだ、刃こぼれしたんで直して欲しい」



 背の革鞘から剣を取り出す。俺の背丈よりも少し小さい程度の大きさのそれは、男の俺でさえ片手で持つのは難しい。だけどリーは軽々とそれを扱う。精霊のおかげだなんだ言ってるが信ぴょう性は低い。精霊がいないとかそういう信ぴょう性じゃなくて、精霊のおかげ・・・・・・ってところがだ。


 …このクソ怪力娘なら片手で余裕だろうからな


 こんなことを言ったら殺されるか地獄行きかのどっちかなので、悟られないように無難に店内を物色してるフリをする。



「あんたほんっっと扱いが雑よね。確かに操るのはうまいけどさぁ」

「刃こぼれする剣が悪い。てか伝説の剣なら刃こぼれすんなよって話なんだ」

「そりゃ無茶な話でしょ。剣は剣ですもの、刃こぼれくらいするわ。でも…そうね、確かに一理ある。どこが伝説の剣なのかイマイチわからないもの」

「ま、あの祠の状態で使える状態で残ってたのは伝説って感じはするけど」



 掲げ、見る。

 きらりと窓から入る朝日を反射する分厚く広い刃。

 泥や汗が染み込み使い込まれた革の巻かれた柄。

 ここまでは普通の剣。まぁ確かにかなりデカイけど、普通だ。


 普通じゃないのは、俺の血が刃に触れると一瞬だけど文字が浮かぶとこ。


 そこは伝説の剣って感じで…俺以外のには全く反応しないんだよなぁ…

 とりあえず俺は剣をリーに託す。

 やっぱり片手で持ったリーは奥の工房へと引っ込んだ。仕上がるのは一刻か一刻半後だから、店を見るなり街に行ってるなり好きにしろと声が飛んできた。

 俺はどこかに行くのも面倒なんで、店にいることにした。どうせ予定もないし。

 しばらくは店内をグルグル見ていた。けど早々に飽きてスツールに腰掛ける。

 少しもしないうちに眠気が襲ってきて船を漕ぎ出した。いい感じに微睡んでカウンターに背中を預けた時だ。



「よー!リーはいるアルカ!?」



 クソうるさいのが入ってきたのは。しかも変な訛りのあるその声は聞き覚えがある。

 閉じかけた瞼を開き声のする方を見れば、予想通りの人物がそこにいた。

 糸目の、バカみたいに丈の長い服を着た男、



「おっ、ゼンじゃないか!久しぶりネ、元気だったカ?」

「テオバルト……うるさいぞ」

「うーん、調子はいいみたいネ。で、リーはどこアルカ?姿見えるないヨ?」

「…奥の工房、俺の剣を直してる」

「それじゃあ時間かかるネ…仕方ない、私も待つネ」



 そう言うと、軽い身のこなしでカウンターにひらりと座る。独特の香が匂って来て俺はつい鼻をつまんだ。

 こいつはいっつも変な香を焚いて変なことをしている。この間は何やらよくわからない文字が書かれた札をそこら中に撒き散らしてたし、変な絵を描きまくったりとまぁ奇行の多いやつだった。

 その代わり、とでも言うように、こいつの予言はよく当たる。


 雨が降るといえば雨が降る。

 火事が起きるといえば火事が起きる。

 人が死ぬといえば人が死ぬ。


 いつもそうだった。


 そしてたまに俺に会うと何か言って来る。

 この間は洞窟に行くと落盤するだったし、その前は盗賊に殺されかけるだった。

 …しかもやっぱり当たるっていう……


 特に興味はない。だけどその妙な確率の高さは不思議だ。

 そのいつも笑った口と細められた眼が、その占いと良く合っていて。

 得体の知れない何かがある。



「あ、そーだ。ゼン。言とくことがあったネ」



 ぼぉっと考えていると急に声をかけられた。思わず肩がビクつき、「なんだ」と言った声も若干上ずった。



「東に行くよくないネ。どうしても行きたいならしばらく待つヨロシ」

「あぁ、それなら大丈夫だ。今度は西に行くつもりだからな。余計な心配をありがとう」

「可愛いない奴アルネ。人がせっかく忠告してるいうのに」

「はいはい…それはそうと、お前は何の用なんだ?街に降りて来るなんて珍しい」



 俺がそう聞けばテオバルトは腰に刺さった剣…と言うよりも刀を見せて来る。

 柄の尻に赤い紐がついていて、それはもう一本の刀と繋がっている。

 確か刀の種類はククリ刀で、テオバルトはそれを手足のように使った。



「ちっとばかし修理ネ。もうそろそろここ出るから、リーの修理もしばらくできないのヨ。しかも色々買わないといけないもの沢山ネ」



 少し驚いた。何でかって、テオバルトは前にこの街は気に入ったとずっとここにいるつもりと言っていたからだ。そりゃ、出てく留まるは人の好き勝手だけど、あの時のこいつの様子からはここに骨を埋める気満々って感じで…出てくなんていう雰囲気はこれっぽっちもなかったのに。



「そうか…なら今度飲み行くか、お前が忙しくないなら。この街に来た頃にはかなり世話になったしな」

「うーん、遠慮しとくアル。ちっと急がないといけないネ。お誘いありがとヨ」

「そうか…もう会わないかもしれないんだな」

「お、残念アルカ、残念カっ!?これはしつこくしてた甲斐あったネ!でも心配するないネ、どうせまた会えるアルヨ!お前と私運命の糸で繋がってるネ!」



 いきなり抱き付いて来てそんなことをぬかしやがる。気持ち悪りぃと腕を振りほどこうとしてもなかなかどうして力が強い。


 …何でこんな奴酒に誘ったんだ。自分を殴りたいね。


 だいたい俺はこいつが嫌いなんだ。いちいち面倒な喋り方するわいちいち声はでかいわで、面倒しかない奴だ。

 とにかく、俺はテオバルトを引っぺがす。その反動でぶん投げると若干キレた顔で「やり返す問題ないカ」とククリ刀を構える。

 俺は馬鹿野郎と諌め、ため息をついた。



「ここはリーの店だぞ。少しでも店壊してみろ。二度とに日の目見れないぞ」

「そぉよ、その通り。だからちょっと静かにしてくれるかしら」

「…リー…随分と早いな。もう終わったのか」

「まぁね。思ったより酷いものじゃなかったし、私の手にかかればこんなものお茶の子さいさいよ。で?何でテオが床に伸びてたのかしら」

「それは、テオバルトがひっついて離れないからで」

「店内で喧嘩は禁止って言ったでしょぉぉぉ!!!!」

「グハァッ!!」



 じゃあお前が俺を殴るのは禁止じゃないのか。

 ああ、確かに喧嘩じゃないな、一方的なリンチだ。理不尽。

 俺が腹を押さえてうずくまっている隙にテオバルトはリーに刀を預ける。お前のせいでこうなってるんだがな。まぁいい。俺はリーから剣を受け取り礼を言う。そして鞘にしまいつつ店の扉のドアノブに手をかけた。



「ゼン、東、行くないヨ」


 店から出るその瞬間。妙に冷静な声でテオバルトがそう言う。




「行かねぇよ。お前がそう言うならな」

「ふぅん、ならいいネ。達者でやるアルヨ」



 ひらひらと手を振って来たんで、俺も振り返す。これくらいは別にしたっていいだろう。

 俺は店を出て大通りを左に行った。何となく、だった。













テオバルトのフルネームはテオバルト・シェンクヮンと言います。

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