0「君のため」
よろしくお願いします。
知ってるのは
自分の名前がゼンだということ
記憶がなくなるということ
男だということ
忘れるのは
背の高い女のこと
この心地いい居場所のこと
今まで覚えてきた全てのこと何もかも
暗い視界は何も映さない。
光はない。
何もない。
けれどどうしてだろう。
目を開けて
拳を握り
歩かなきゃいけない。
ずっと前から決まっていたことのようだ。
「探さなきゃね。散らばってしまったのなら、集めなきゃね」
そう笑った
だから
手を伸ばした。
「お前がそれを全部集めたなら。少しは世界が変わるかもしれない。少しはマシになるかもしれない」
「でも」
「変わらないかもしれない。ならないかもしれない」
「それでも」
「集めなきゃ」
「見つけなきゃ」
「じゃないと生きていられない」
「わからないまま」
わかっているのは
それが使命だということ
やらなければいけないということ
やり遂げれば記憶が戻るということ
だから俺は言葉を紡ぐ。
消えていくその中で、必死にかき集めた言葉を
忘れていくその中で、寄せ集めの言葉を
「シェディン、俺は、君を思い出してみせる」
「シェディン、思い出したら、約束を叶えてみせる」
「絶対だ」
「絶対よ」
「約束を違えることはない」
「「だってこれは、そういう物語なんだから」」
始まりの音は泡の消える音。
始まりの色は輝く光の白。
始まりの声は歌を紡ぐ君のもの。
「あなたから記憶を獲るわ、そして与えるわ。失うことを」
かくして記憶を求める旅が始まる。
何もわからないまま。
それが何を示すか忘れたまま。
運命を変えるとも知らずに