プロローグ
「なんか窮屈だな」
黒を基調とした部隊制服に堅苦しさを覚える青年は顔をしかめながら呟いた。新品独特の堅さに体を馴染ませようともそもそ動いている青年の横で少女はため息をついた。
「ユイス、あんた緊張感なさすぎ……」
「いや、リーナもそう思うだろ?」
「しょうがないでしょ。まだ支給されたばかりなんだから。これから馴染んでいくわよ」
「まあ、確かにこの制服だけだったらまだいいんだけど……全体的にもそう思わないか?」
「……まあ、確かにね」
青年――ユイスと少女――リーナがいるのは大きな講堂の中だ。約千人を収容している講堂にはあらかじめ言い渡されている場所に人々が整列させられていた。厳しい視線で列を整える監督官のいる手前、背筋を整えピンっとした姿勢を維持しなくてはならなく、また人と人との間隔はせまく、籠った室内に生じる独特の熱気、さらに制服の堅苦しさも合わされば……窮屈に思うのも仕方ない。
「それにしても…」
一体いつになったら始まるのか。
数分前から足音の動きが小さくなっているので整列はほぼほぼ終わっていると予想できる。となるともうそろそろこの静寂に終わりを迎えさせてもよいのではないだろうか。
重苦しい空気の中ユイスはただただ早く帰りたかった。
一刻も早くこの空気から逃れたい。体を動かしたい。というかこの服を脱ぎたい。
「――ッツ」
そんな思考の強さが大きすぎたのか体現するように体をもぞもぞし始めたユイスの足を大人しくしてろという意を込めて踏むリーナ。
踵を的確に相手のつま先に落とす技術は流石の一言だ。学園トップクラスの成績を収めただけのことはある。
痛みによって反射的に出そうになった声を唇をかみしめて抑え、目には涙をにじませながら背筋を伸ばしたユイスは心の中で称賛した。
リーナはあきれたような表情をしていたが、何かに気付いたように顔を引き締めた。
「そろそろ始まるみたいよ」
その言葉を聞き姿勢を整え視線を壇上に向ける。
ほかの人たちも気づいたようで空気が一気に緊張感を帯びた。
「それではこれより対悪魔戦戦闘部隊『アイギス』の入隊式を始める!」
男の腹の底から引き出された声が講堂一帯に広がる。
これからようやく始まるみたいだな。
ユイスは周りにいる千人と同様に姿勢を崩さずこれから口にさせる言葉を一言一句逃さず耳にしまった。
平和だった世界が崩れたのは今から14年年前のことだ。
突如現れた未知の生物が大陸各国に襲い掛かった。
その生物は様々で動物のような獣のような体躯をしている種もいれば人間のように二足歩行に知恵を携えている種もいる。そして総じて奴らは人間よりも、ほかのどの生き物よりも圧倒的な身体能力を持っていた。
教会が保管している太古の文献と照らし合わせ奴らを『悪魔』と呼ぶことになった。
悪魔たちの猛威は凄まじくたった14年で大陸の六割を、五大国のうち三国を侵略されてしまった。
しかし人間たちは負けてばかりいなかった。
14年間ただ負けるだけでなくわずかな勝利を含め研究に研究を重ねある武器を開発する。
悪魔の力を付与した武器。
その名を『エレジオ』。
そして同時に人間たちは立ち上がった。
悪魔から国を取り返すべく、悪魔の侵略を止めるべく、悪魔を根絶やしにして平和を実現させるべく。
それは対悪魔戦の戦闘技術を持つ部隊。
対悪魔戦戦闘部隊――『アイギス』だ。