夏の日に
どうも、SaLaです。
拙作を予め読んでいただきたく思います。
また、次作予告的な要素もあります。
フォロワー200人突破記念はまだ考えていません。ご意見いただきたく思います。
小さなヒトビトのハナシは次回ともう一回で完結の予定です。
ザザー、ザザー。
波の音が心地よく、日頃のストレスを洗い流すように思える。
だが、そのストレスの発生源がこの場にいれば流しても流しても流し切れない。
南方特有の広い葉の高層樹木が日差しを幾分和らげるが、砂浜照り返す日差しは如何ともし難く、噴き出る汗を抑えることができない。
「あっついなあ…」
などと、詮無いことを口走ってしまうことも暑さのせいだと思いたい。
しかし、なぜこんなに暑いところに座り込んでいるか。
理由は、人を待っているからだ。
「遅えしな…」
もう帰ってもいいかな、遅いしと思った頃、
「セイトー!お待たせー!」
ようやくお出ましのようだ。
「遅えよ」
クロハを筆頭に、遅刻組がやってくる。4人のうちに野郎が1人混じっているが、それを差し引いても麗しい水着姿の女子勢が眩しく日光を反射させる。
「…何してる、リュザ」
その野郎に声をかける。
「…いや…。鼻血が…」
フハハ、馬鹿め。そこまで水着に興奮したか。苛めたくなった俺は、
「そうか、暑いもんな。止まるまであの岩の向こうで涼んだらどうだ?」
と、にやにやしながら提案してみる。その提案を聞いたリュザは
「はあ!?ふざけんな!俺が鼻血如きで諦めると思ったか!?」
何を諦めると言うのか。
だが、普段とは違う雰囲気はなんとなく心を躍らせた。
「セート、誰かくる」
「は?」
この領外の小さな入り江に誰が遊びに来るのか。それに、ここはセイトのお気に入りの場所だった。人が来て、嬉しいものではない。
「誰が来るんだ?シュエ」
「わかんない。この辺りの人じゃないかも」
なんだそりゃ。
だが、次第に話し声と、藪を歩く音が聞こえる。
「--こんなところになんで来たのよ」
「--我慢しろよ。もうすぐだ」
ガサガサと砂浜に出てきたのは、5人の男女だった。
「…何が秘密の場所だ、イアン」
「…いや、誰もいないとは言ってないぞ」
大柄な男と普通サイズの男2人、小柄な男1人に背の高い女が1人。
「…知り合い?セイト」
「さあ。見たことないな」
見れば見るほど不思議な人たちだ。どの種族でもない感じがする。
「まあ、気にする程のことでもないだろ。遊ぼう!」
なんかテンション上がってきたぁぁああ!って感じだったのに、
「なんでセイトだけ水着じゃないの?」
それを聞くか?チスタよ。
「なんでもいいだろ!ほら早く行こうぜ!」
俺が走り出すと、結局みんな走り出した。
わー、と走っていく謎の5人を見ながら、
「暑いわね。私も入っていいかな?」
「勝手にしろ」
「クレルはどう?」
「…暑い」
後ろから馬鹿なやりとりが聞こえる。
「何のために海まで来たんだよ」
む、とリクヤがこちらを向く。俺とアテネはニヤリと笑うと、
「遊ぶためだ!」
と叫んで、海に向けて走り出した。
**時間経過**
「…どうしてこうなった」
今は、水から上がって身体を暖めたのち、砂浜に木の枝を2本突き立ててそこからそれなりに離れたところに俺たちはいた。
「よっしゃー、1人ずつ出し合って、勝ちが多い方が次の種目を考えよう!」
俺の感化しないところで、ビーチフラッグが始まったようだ。
「イアンは最後でいいな」
「…異議なし」
「そうだな」
「そうね」
というか、なんでこんなに仲良くなった?
「最初はリクヤね」
「いいだろう」
一番手はリクヤが行くらしい。向こうは優しそうな女の子だけど、軍人対一般人で勝負も何もあったものじゃないと思うんだが。それも女の子相手だ。
「頑張れ〜、シュエ〜」
「任せて、セート」
シュエと言うらしい女の子とリクヤがフラッグとは反対を向いてうつ伏せになる。
「ヨーイ、スタート!」
こういう遊びが好きなアテネがスターターをやっている。ホント好きだな。
「…早い」
リクヤは全力なのか?シュエとほぼ互角だぞ。
「…解放!」
何時もののんびりとした声ではない強い声がシュエから発せられた。
「…あれはアリか?」
「シュエ、それはダメでしょ」
そんな声が向こうから聞こえるが、その意味を理解するのにはそんなに時間は必要なかった。
シュエの背中から、緑色の光が出て、その光の帯を引くようにシュエは飛んでいく。
--そして。
バシュ‼︎という炸裂音と共に、
「うお!?」
リクヤが飛んでいった。
「ああああああ!?」
ドッバーン。着水。
「シュエ!それはダメだろ!」
「えへへ。負けそうだったからやっちゃった」
シュエは他の4人からの批難の嵐を笑顔で乗り切っている。
「……なんだありゃ」
「知らないな」
さっきまで乾いていたリクヤがずぶ濡れで帰ってきた。
「次はお前だな」
「ん?俺か?」
そう言ってリタが行った。さっきの不可思議な光の帯を見ても怯まない辺り、流石だな。
「リュザ、行ってこい」
「え〜、俺あのお姉さんとがいいな〜」
「早く行け、馬鹿」
文句を言いながらも、次はリュザという男が来る。
「男には負けねえ」
そんなに女が好きか、リュザ。
「ヨーイ、スタート!」
またもアテネの号砲でスタートした2人だが、リュザは足が早くなかった。リタは、そんなに早くない印象だが、その分リュザが遅いらしい。
「フハハハハハハ!やっぱり遅えな、リュザ!」
向こうも、それを知っているらしく大笑いしてからかっている。
「うるせぇ!」
よっぽど恥ずかしいのか、リュザの顔は真っ赤だ。
「次はあたしでいい?」
「ん?いいぞ」
「頑張ってね〜、チスタ」
今度は、どちらかと言えば小柄な女の子のチスタが出るらしい。
「クレル」
「……」
黙るなよ。
ヨーイ、スタート!
もうそろそろ聞き飽きてきたアテネの号砲で、両者小柄な少年少女はスタートした。
「…早いな」
クレルは、小柄だが男の中でもそれなりに足が早い方だ。そのクレルと互角に渡り合うチスタはかなり早いのではないか。
だが、クレルも男で、女には負けまいと一段スピードを上げた。流石にチスタはついていけなかったらしく、少しづつ離されて行く。チスタの顔が悔しそうに歪むが、勝負は最後までわからないものだ。
「…む」
どうやら、自分の制御できるスピードを超えたらしく、足が絡まって…。
ドテーン!
派手にやらかした。
その間にチスタは枝を掴み取り、見事勝利。
「やっぱチスタは早えな〜」
「チスタカッコよかった〜」
と、向こうではクレルのことは触れずに、賞賛を送っていた。が。
「……クッ、ククッ…」
誰もが腹を抱えて笑いを噛み殺していた。
普段失敗をしないクレルの珍しい失敗を誰が予想できただろう。
「…不覚」
先程のリュザと同程度かそれ以上に真っ赤になったクレルは、そのまま木の陰に座り込んでしまった。
「…ククッ、次は私ね」
ようやく笑いが収まり、アテネが勝つ気満々で行った。あれ?俺は最後?
「クロハ、いってらー」
「頑張るよ、シュエ」
さて、そのシュエの気のない号令でスタートしたが、アテネの女離れした走りに対して、クロハも女離れした走りだった。
先程のような面白さもなく、辛うじて先んじたアテネが勝利。
ここまで2勝2敗。
「負けたらウェイトトレーニング3倍な」
などと、リクヤが言うので
「自分も負けたくせに?」
と突っ込んでやると、
「ランニング量を倍にしてやろう」
と返された。藪ヘビだったか。
向こうも残った男が出るらしい。だが、2人ならんだのを見たみんなは、
「なんか似てないか…?」
とかなんとか。そんなことないと思うんだけれど。
「単純に走りで勝負しよう」
向こうが、ええとセイトだったか、がそう言うので、
「もちろん、そのつもりだ」
当たり前だ。誰が不正なんかするもんか。
またも気のない号令でスタートしたが、
「スタ〜ト〜」
うつ伏せから、起きるのももどかしく、セイトが起き上がるのを邪魔する。が、セイトも同じ考えのようで、
「んが!」
2人で組み合う形になった。体術では負ける気がしないので、押してくる力をそのままに、座った状態から、バックドロップ。
「おわ!」
決まったはずだが、どうやらセイトは頭がつく前に足をつけたらしい。簡単に言えば、ハンドスプリングのような感じになったということで。身体が起き上がる腹筋の力で、俺が持ち上げられる。
「んが!」
だが、宙に浮いた時、自由になった両手でセイトの肩を掴んでセイトの上半身を重力の助けとともに曲げる。そして--
「イアーン!」
その声で俺は動きを止めた。すると、何かあると察したのか、セイトも組み合いをほどいた。
「なんだ、ヒエラ」
つか、お前どっから来たんだ。ここは内緒の場所のハズだが。
「すっごいのがいる!」
何が?と言いかけて、やめた。音がしたからだ。
藪をバキバキと破って、姿を現したのは、異形の生物だった。
「…なんだありゃ」
と言って、クレルに救いを求めるも、クレルさえも知らないらしい。
白い体は羽毛に覆われ、顔も白いが目から嘴にかけては鮮やかな赤に彩られている。細い足はゴツゴツと固そうな皮膚に覆われ、手の類は見当たらず、代わりにデカイ翼が畳まれている。
「…グルーア!」
どうやら、この怪物はグルーアというらしい。
「下がってて」
セイトが言うが、一般市民にどうかできるとは思えない。
「いや、問題ない」
俺の代わりにリクヤがそう言って、俺の剣をくれる。
黒く鈍い光を放つふた振りの剣は、俺の両手に馴染んだ。
「じゃあ、頼むよ。俺たちも戦うから」
セイトも剣を持った。一体彼らはなんなんだろう。
「クロハ!」
セイトがクロハの名を呼ぶと、まるで呼ばれるのを予知していたかのように、紫色の光がクロハの手から放たれた。
それは、グルーアの目の前で強く光った。が、その光には指向性があるらしく、こちら側は眩しくない。
「今だ!」
セイトとリクヤの声がかぶって、一時合唱。
俺はいつも通り全力で飛び出す。しかし、セイトは翔んでいた。
一体なんだ。しかも、斬る直前に、刀身が光る。そんなに光るのが好きか。
ババババババッ、と銃声も聞こえる。
グルーアの動きは単調で大きく、大したものではないが、図体がデカイので、少し時間がかかったが、音もなく消えた。
「あ!」
耳元でリクヤが叫んだ。
「うるさいよ」
文句を言ったが聞こえてないみたいだ。
「太陽があんなに…」
第2小隊の表情が凍りついた。
ヤバイ。時間が。
「飯が逃げて行く…」
「戻るぞ!」
総意一致。早く帰る。
あ、そうだ。
「今日は、楽しかったぜ」
何が起きたかわかってないセイトたちだが、表情を柔らかくして、
「こちらこそ。そうだ、飯が心配なら、クロハ」
「うん、いいよ。はいこれ」
そう言って、クロハが差し出したのは大きな箱だった。しかし、微かに漂う香りは、俺の胃袋を締め上げた。
「すまん、恩に着る。代わりといってはあれだけど」
俺は腰に吊るした剣を外し、セイトに差し出した。
「これ、使いなよ。俺たちには使う機会がないから」
あの腐った軍には、こんな剣は必要ない。剣には使われる環境にいて欲しい。
その願いを汲んだのか、
「受け取るよ。こんないい剣使いこなせるかわからないけどね」
にこりとして、受け取ってくれた。そして、どちらからとなく、手を握り合う。
「またいつか」
「そうだな。魔法使い」
あてずっぽうだったが、外れてはないらしい。少し驚いた風に目を見開いたが、柔らかな表情は崩さなかった。
「よし、帰るぞ!」
リクヤの言葉に頷くと、もう一度藪に入る。
夏の夕焼けに映える魔法使いたちは、幻のように陽炎に揺らいだ。
そして、俺はもう二度と振り返らなかった。
そんな、夏の出来事。