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バルガク。  作者: ホワイト大河
第二章 気づいてしまえば、戻れない
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黄色と緑色(7)


朝の光はなんであんなにも強いんだろうか。

一歩外へ出ただけで、その光を全身に浴びた弱き僕は、

たちまち消えてしまいそうになる――。



「おっすテル!」


前を歩く洋次が振り返った。

いつもの朝と同じくして、洋次と達也に合流する。いつもの朝。


「なあテル、なんか達也が元気無いんだよ。」

「そうなんだ~。」


確かに達也はうつむき気味に歩いていて、

洋次が横でそんな事を言ってても反応が全くない。

どうせ中二病独特で非現実的な妄想にでも浸っているのだろうけれど。


「そういや昨日久々に良助と帰ったぜ。」

「へ~。」


無論その報告は良助から既に受けていた。

とりわけ会話の中で、僕との関係に突っ込んだらしいけれど、

「上手くいってる」と洋次が言ったらしい事も聞いている。


それは強がりなんだろうか。それとも本心なんだろうか。

少なくとも僕から見たら、今は上手くいってない。

やはり僕の考えすぎなのだろうか。

洋次からしてみればある一人の友人との再会、というレベルなのか。

その友人が元恋人だから困っているわけなのに。

――太陽に雲がかかって、少し黄色が消えかかる。


「……ふーむ……」


達也がつぶやいた。

こういう構ってほしいアピール全開なところが幼く感じるけれど、

素直な洋次はそんな達也に声を掛ける。


「どうした達也?」

「いや……ちょっとな……」


構ってほしい男というものは、何を悩んでるか聞いてほしいくせして、

なかなか核心を明かさないものだ。本当に面倒だ。

達也の目線が突然僕に向いた。

一瞬、本心で達也の悪口を考えていたのを見透かされたのかと思ったが、

達也に限ってそれはない。またうつむきがちになった。


「やっぱ剛司だな……」

「え?」

「いや……何でも無い。くそっ、俺は今まで邪魔ばっかしてたわけか……」


しばらく達也の表情を見つめていた洋次は、

本腰入った中二病は、全くその悩みの種を明かす気がなさそうなので、

少し諦めたような雰囲気で、こちらを向く。


「そういや今日テスト最終日だけど、準備はちゃんと出来たんか?」

「……うん、まあぼちぼちかな~。」


昨晩も悩みに悩んでほとんど勉強が出来なかったのは言うまでもない。


そこからは大した会話も無く、達也も悩んだままで、

下駄箱に着いて、急に立ち止まった達也を放っておき、

洋次と肩を並べて階段を上がる。


「なんか達也悩んでたな。」

「……そうだね~。あんな人のどこが良いんだろ。」

「お、何だ?達也の事好きな奴でもいんのか?」

「ちょっとね~。落合っていうクラスメイトがね~。」

「へー、そいつは知らんかったわ。いよいよ達也にも彼女が出来るってか!」

「……あ、彼女っていうか~。」

「それじゃあな!」


……あらぬ誤解をしたまま洋次は教室へと入っていった。

ところで当たり前の様に、僕は落合恒太の名前を出したが、

別に洋次がそれを知った所で何の不都合も無いだろう

今後洋次と落合の接点があるはずもないし、

そんなに空気の読めないわけでも無い洋次が、

変に動いて達也に迷惑かける事も起こりえないだろうから。

……そもそも迷惑をかけたとしても、僕にはどうでも良い事だけれど。

まあちょっと落合に迷惑をかけるかもしれないのは気が引けるかも……。



「……あ、テル君……おはようございます。」


純真な落合恒太の瞳と目が合った。

彼は冬に差し掛かってのびてきた坊主頭を掻きながら、

もう片手で参考書を持って暗記に臨んでいる。


「おはよ~。なんか出そうなところ教えて~。」

「あ、えーっとこの公式を覚えたほうが良いかもしれないです……」

「sinθ……何これ読めないよ~。」

「……!?えっと、え?しばらくずっと三角比の授業でしたよね?」

「そうなの~?知らないよ~。」

「……あの、読めないとなると……。ま、まあ読めなくても良いのでこの公式を覚えておいた方が……」

「ありがと~。」


その公式を覚えれば、この漠然とした不安は取り除かれるのだろうか。

そんなはずもない、ただの気休めなのは分かっている。

公式をしばらく見つめた後、僕は椅子に座って頭をもたげた。

何事にも純粋に取り組む落合に比べ、僕の何と歪んでいる事か。





そんなこんなでテストが終わった。

普通に三時間目までテストをやった後、四時間目に授業が入って、

本気で嫌だなと思ったけれど、それが終わったらもう今日は終わり。

ただ、部活があるから残らなきゃならなくて、

僕は昼の弁当を広げ始める。

横の落合も同じ理由で昼を食べるらしく、こちらを伺いながら、

僕に近づこうとした。その時、教室のドアが無造作に開く。



「ハロハロー。恒太、お昼一緒しよーよ。三組で席作ってる。」

「おっ、テルお前も部活か?」


達也&お友達。落合恒太を誘いに来たらしい。

分からないくらいほんのり顔を赤くした恒太は、「あ、じゃあ……」と言い、

弁当箱を手に席を立った。その時僕を見る。


「テ、テル君も一緒にどうですか……?」

「……大丈夫だよ~。楽しんできてね~。」

「あ、じゃあまた……」

「じゃあなテル。」


そのまま鞄も持って、恒太は達也らと三組へと歩いて行った。

……形式的な気遣いなんていらないし、

知らない人間の居る所に首を突っ込もうなんて僕は思った事が無い。


ただ、何となく……久々に落合の居ない空間を味わうと共に、

どこか言いようのなく、心の奥底にポツリと、寂しさを感じた。



「おっすテル!たまには昼食おうぜ!」


反射的に横を見た。紛れも無く洋次が横に立っている。

……珍しいこともあるものだ。――昼に見える月の様に。


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