黄色と緑色(4)
一部BL描写が濃いので、閲覧注意です。
昼時の道を、二人で歩いた。
平日の真っ昼間というのは、住宅街がいつも以上に閑散としていて、
お互いの足音と、息遣いが空間に溶け込んでいく。
そのまま僕の家に到着した。
僕の勉強はまだまだ終わりが見えていないので、
当然僕に付き合って洋次も中に入ってくる。
両親が家に居ない日が多いのはもう確認しなくても分かっている事だし、
姉和佳子も今日は出かけているらしい。
それに気付いた時、僕の体の中で血液がスピードを増した。
階段を先に上がって行く洋次の肉体に、意識が囚われてしまい、
自然と身体が熱を帯びてくる。駄目だ。今日は勉強をするんだ。
しかも、こんなに迷った状態で、ただ身体だけ重ねたいなんて。
実に愚かだ。それならば身体だけの関係で十分だったじゃないか。
たとえお互い踏み込まれることを嫌う同士といえども。
今回の事件をきっかけに、踏み込まなければいけないんじゃないのか。
部屋に入って教科書を机の上に広げる間、沈黙が続いた。
いつもずっと喋ってはないけれど、沈黙がいつもより長いと感じてしまう。
洋次も何か考えてるんだろうか。カナちゃんから来たメールの事だろうか。
優しい洋次の事だから、何かやんわりと伝えようとしているのかもしれない。
そうなってしまったら僕は、この場にいる事すら耐えられない。
おもむろに教科書を広げて、お互い読み始める。
文字が全く入って来ない。心臓の音が徐々に高鳴っていく。
「……なあ。」
「……なに~?」
「数学続き解いてみろって。暗記系は俺おらんでも大丈夫だろ?」
……なんだ。いよいよ何らかの告白をされるのかと身構えてしまった。
しぶしぶ僕は数学の準備をして、ノートに問題を解き進める。
さっき色々教えてもらって、少しは出来るようになったけれど、
果たして明日の朝まで脳が覚えていてくれるだろうか。
「あ、テルそこ違うって!」
「え~?」
洋次が僕の手を取って、その手からペンを奪い取った。
それからスラスラと正しい答えを書き始めたが、もう僕には耐えられなかった。
熱い僕の手を取られた時、洋次はどう感じ取っただろう。
いやと言う程洋次の感触が伝わってきた、その瞬間を。
「ん、テル?」
僕は固まっていた。意識が飛んでしまいそうになるほど、心臓が高鳴った。
洋次が両肩を掴み、グッと僕の顔を引き寄せる。
それは単純に僕のぼーっとした意識を取り戻す為だったんだろうけれど、
今の僕にはそういう意味にはとらえられなかった。
自分からぐっと唇を近づけて、その切っ先で触れ合う。
洋次はキョトンとしている。それはそうだ。
僕から誘う事なんて今までたったの一度も無かった。
僕の肩にこもっていた洋次の力が抜けた時、僕はバランスを崩した。
そして洋次の方に倒れ、その身体に抱きついた。
……洋次の両腕が僕の背中にまわる。もう、何者も止められない。
「……するか?」
「……うん。」
自然ともう一度唇を重ね、お互いの内側に舌を入れた。
僕の口の中を這いまわる舌の感覚が、身体の一部分へと迸る。
体勢を立て直した洋次は、僕をベッドに優しく押し倒した――。
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12月17日(月) 17:34
窓の外はすっかり薄暗くなった。空の色が時間の経過を教えてくれるはずなのに、テルの数学はほとんど進歩が見られなかったのは残念だ。昨日も結構長居してしまっているので、今日はそろそろ帰ろうと思った。
片づけを始め、「行為」の前に脱ぎ捨てた上着を羽織る。ほんのり赤みがかったテルの横顔を見ると、どうしても苦笑してしまう。
「帰るの?」
「後は出来るだろ!」
「……うん」
何となくすぐに帰るには惜しい気持ちになって、部屋を徘徊してみる。ベッドの前で思わず立ち止まり、数分前の「行為」を思い出しかけたので、ちょっと焦る。下品な話だが、今日のテルは……良かった。あんなに積極的なテルは初めてで、恥ずかしながら興奮してしまった。
が、それと共に今日のテルはいつもと違う、本当のテルじゃない事にはとっくに気づいていた。どうやらテルは隠しているつもりらしいが、俺から見ても全然隠しきれていなかったようだ。もう一度テルの横顔を見ると、さっきよりずっと赤くなっていた。……我慢しなくたっていいのに。
俺は色々考えていた。今言っておくべきか、黙っておくべきか。きっとテルは聞きたがってるんだろう。だが俺が自分から言うのは違う。テルが聞いてくれるなら俺は素直に答えられる。しかし、そうもいかないらしい。
……さすがにグルグル机の周りをまわり続けるのが不自然なので、諦めて帰る事にした。鞄を手にしてテルの後ろ姿を見る。振り返ってはくれない。じゃあな、と声を掛けて戸を閉め、家を出て行く。
冷たい風を身に受けながら、家路をたどる俺は、ボーッと色んなことを思い出していた。「いつも上の空だし、月山君の事ばっかり心配してる」と言われて、去年カナとは別れたんだった。当たってるよ、と言えばスッキリしそうだが、ちょっと悔しい気もする。カナの言うとおり、俺はテルに友情以上の感情をその時から抱いていたのだと、今ならはっきり自覚している。
携帯を見て、昨日の晩に来た長文メールを開く。受験の相談がメインだったが、後半はいきなり俺を振った事への謝罪だった。あれから時間は経ったし、もはや傷ついてなど居ないが、まあ謝られて悪い気はしない。とりあえず受験のアドバイスだけ送ると、ありがとうございます、という感謝のメールがすぐに届いたものだ。
と、携帯画面を眺めていた時、ちょうどメールが来た。さっき出てきたばかりだからテルかな?と思ったが、偶然というものは恐ろしいもので、カナからだった。
『こんにちは!先輩のおかげで、だいぶスッキリしちゃいました(笑)
今日はなんとなく勉強頑張れてます( *´艸`)
それから……色々考えたんですけど、
私が一番信頼できるのわ、やっぱり洋次先輩かもしれません……。
周りの男の子達わ子供っぽいし(笑)
これからもしばらく、相談しても良いですか?』
……正直に言うと、あの日見たカナは、付き合ってた頃よりずっと可愛くなっていた。そして、自惚れではなく、付き合ってた時と同じような目で、俺のことを見ていた。彼女は俺の事を、部活で「住田先輩」、二人の時は「洋次君」と呼び分けていたものだが、今のメールでは「洋次先輩」となっている。
ただ、どれだけ可愛くなっても、俺はテルを切ってまでカナとよりを戻そうとは思わないだろう。変な話で、初め俺はカナへの愛情をテルへの愛情に無理にでも置き換えようと思ってたくらいなのに、今ではずっとテルの方が大切な存在になっている。昨日カナからのメールを見てわずかに心が揺れ動いたが、今日テルと会って、話して、やっぱりこいつを大切にしたいと確認できた。
問題なのは、この事をどう片づけるべきか分からないって事だ。聞かれても無いのに、俺はカナよりテルの方が大切だ、なんて言うと言い訳がましいし、かと言って、黙ってこのままメールのやり取りを続けている事を、テルは決して良くは思わないだろう。
カナを突っぱねる事が出来ない俺にも問題がある。こうして迷いながらも、カナへの返事は打ってるわけで、ただそれは何と言うか先輩後輩としてであるが、テルの前で面と向かってそう言えるかというと、恥ずかしながら、少し自信が無くなってくるものだ。
この気持ちはハッキリさせて、テルに言葉にして伝えた方が良いのかもしれない。ちょっとずつではあるが、俺の決心は固まり始めていた。
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