幼なじみの衝撃(9)
9月 4日 (火) 12:23
最初はテルとヨウジの話、って事すらも隠していた気がするが、
大っぴらにテルとヨウジがセフレって言ってしまった。
自分がいかに口が軽いか思い知らされたよ。まったく。
……こいつらだったら言わないよな?な?
「ふーん、セフレだったのか。ま、男子校あるあるじゃん?」
「……いや、その男子校あるあるっていうのがよく分かんない上に、バルガクは一応共学なんですけど……」
そこまで驚愕な発言だとは捉えられなかったらしい。
俺は随分頭を抱えたものだが、こいつらにとっては他人の話だからか。
「けどBLに染まってるじゃん、タツヤの周り。」
「その様だな。俺自身気づいたのは最近なんだが。」
「BL」には少なくとも縁がないだろうと第一話で公言していた俺を、
今ここに連れてきてやりたい。この気持ちを味わわせてやりたい。
「タツヤはどう思ってんの?」
「いや、まあ俺が男を好きになる事はないと思うが。」
「そうじゃなくて。テル君とヨウジ君がそういう関係って事に対して。」
難しい問題を訊いてきたものだ。俺はどう思ってるか、ねえ。
今までの俺とテル達の朝のやり取りを考える限り、
二人が付き合っていようがセフレでいようが、俺にはあまり関係ないようだ。
それは今朝も実証された。悩んでいる俺の傍らで、二人はいつも通りだった。
まだヨウジの口からは、二人がセフレの関係にある事を聞いていないしな。
関係ないからこそ、別に二人で好きに何でもやったらいいと思う。
しばらくの間、男同士の恋愛に困惑していた俺だが、その点ではもう納得した。
というか、この学園では納得せざるを得ない。
しかし……テルがついた嘘が気になる。
セフレとは快楽を求めるための関係ではないのか。
テルの言った「快楽」が嘘なら、一体何なのか。
「……色々あるみたいなんだよなあ、あいつら。上手くいってるんなら気にはしないんだが。」
「セフレって割り切れる関係って少なそうだし……色々あるのは仕方ないんじゃないんですかね……」
「……そうかも知れないんだけどな。」
ずっと喋りっぱなしだった俺はようやく弁当に手をつけた。
上手く俺の言いたい事がまとまらない。
テルが前髪を弄りながら答えたあの姿が、また脳裏に浮かぶ。
「あんまタツヤが首突っ込まない方が良いんじゃね?そーゆー難しい問題は、本人たちが解決するじゃん。」
小さいサイズの豚カツを咀嚼しながら、ハロハロツヨシがそう言った。
ネガティブコウタは黙ってツヨシと俺の顔を交互に見ている。
俺は何と言うか、またテルの表情を思い出していた。
「……しかし幼なじみとしてだな、あいつらを放っとけないしな。」
「その幼なじみも成長して高校生になってるわけじゃん?逆に珍しーと思うよ。未だに小学校からの付き合いが続いてるってさ。」
「そうかもしれんが……テルがどうも何か隠してるようでな。」
「テル君も隠してるからには、何か考えがあるんじゃね?」
「……そうかもな。」
テルはどんな事情で、あの時嘘をついたのだろう?
しかも「気持ちいから」なんて嘘を。
リョウスケにあの話を聞いて以来、ずっと俺を悩ませているテーマだ。
テルは、あんまり良い思いをしてないんじゃないか?
強引なヨウジの事だから、色々なパターンが考えられるが、
それでもテルはNOと言えないような奴だ。
そこに至るまでの経緯は俺には分からんが、きっとそういうわけだ。
俺はしばらく無言のまま、ひたすら食べる行為のみを行っていた。
その間にもツヨシとコウタが世間話をし始める。
俺が真っ先に食い終わった所で、俺は早々と弁当箱を片づけた。
その行為を不思議に思っただろうコウタが尋ねる。
「あれ、何か用事でも?」
「やっぱ俺、訊いてみるわ。」
そう言って俺は立ち上がる。テルの嘘の正体を知りたい。
ツヨシは呆れ顔だった。さっき止めようとしてたからだろう。
「テル君、またホントの事言わないんじゃね?」
「それでも行くだけ行ってみるぜ。」
今日の帰り、またテルと時間を合わせて帰ろう。
不透明なままじゃ、少なくとも俺は気持ちが悪い。
ツヨシ&コウタを置いて、一年五組の教室へと、俺は走った。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「結局俺の意見は関係ないんじゃん。」
「まあまあ……タツヤさんらしいですよ。」
「俺は止めたからね。どうなるかは分かんねーけどさ。」
「……好転すれば良いね。」
「多分逆効果じゃん?突っ走るねータツヤは。」
「……そういう奴だから。常に真っ直ぐだから裏表ないし、お節介なほど友達思いな人ですよ。」
「そーか、コウタはそこに惚れたんじゃん?」
「…………」
○ ○ ○ ○ ○ ○
「ようこそ一年五組へ。本日の受付の瑠璃でございます。」
さて、ここはどこだ。
一年五組にたどり着いたものの、扉は堅く閉ざされていて、
その手前に長机とパイプ椅子、そこに瑠璃という女子が座っていた。
「……何だこれ?」
「一年五組を訪問する方は身分証明等が必要となっております。失礼ですが、学生証をお持ちですか?」
「え、はい……あ、長瀬達也と申します……」
「かしこまりました。」
名簿のようなものを取り出したこの女は、すぐに俺の学生証と照らし合わせ、
俺の名前のチェックを行った。さすが変人クラス一年五組。
「認証成功致しました。それでは本日はどういったご用件でしょうか?」
「あ……その、月山に会いたいんですけど。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
傍に置いてある電話を手に取った瑠璃は、手慣れた動作でボタンを操作する。
え、何?個人の電話でもついてんの?ここは企業なの?
思わず心の中で、ツヨシのようなツッコミをしてしまった。
ああくそ、このやり取りのせいでスペースが足りなく、じゃなかった、
昼休みが終わってしまうじゃないか。
おまけにのんびり屋のテルだから、出てくるのに時間が掛かるものだ。
「お待たせ~。」
五分も待たされた。もう少しで第九話も終わるというのに。
じゃなかった昼休みが終わってしまうというのに。
「今日お前吹部の練習あるのか?」
「いや、今日はお休みだよ~。」
「じゃあ帰ろうぜ。良いな!よし解散!」
俺はあわてて約束を取り付けたのだった。