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バルガク。  作者: ホワイト大河
第二章 気づいてしまえば、戻れない
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黄色と緑色(1)

第五部「追憶の彼方に」を読むとより理解が深まります。

――イルミネーション。



普段目に留まることのない緑の木に、

黄色の装飾が施され、光の当てられる季節。



けれど住宅街は、いつもと同じ暗闇に包まれ、

そして僕の部屋の中は、荒い息遣いと熱気に満ちている。



鍛えた肉体は僕の上に重なるけれど、

彼なりに気をつかっているのか重みは感じない。

その温もりと、優しさと、……痺れるような痛みが時折、体を突き抜ける。

いつしかそれは快楽に変わって、絶頂と共に感情にも似たそれを吐き出す。




「テスト勉強あんま進まんかったな……」


行為を終えて、服を着ながら洋次はつぶやいた。

僕はまだベッドに横たわったまま、ゆっくり洋次の方を向く。


「どうでもいいよ~。」

「赤点ヤバいんじゃないか?」

「数学と理科はどうせ引っ掛かるしね~。」


洋次と会うという事だけで、その最初の目的が勉強だったとしても、

その意味はすっかり変わってしまっているのだから、

初めから期待はしていないし、洋次がみっちり教えてくれたのだとしても、

それが僕の悪い頭に入っていくはずもないじゃないか。



「この後勉強するよ~。」


前髪が気になった。この後勉強なんてするはずもない。

そんな簡単にできたら苦労はしないのだから。

今の言葉の嘘くささは、洋次にも伝わっていたようだったが、

あえて彼はそれを口にしなかった。


「またノート貸すからそれ見といたら?」

「……じゃあそうする~。」


毎回僕を救ってくれようとするのはありがたい。

けれど僕は救いようがないんだよ。留年が回避できればそれで良い。

補習はちゃんと出てるし。ずっと別のことを考えてたとしても。



「じゃあ、俺帰るわ。」


洋次はそういってベッドから起き上がった僕の方に一歩近づいた。

ジャンバーのジッパーまで閉めて、もう出れる状態の彼が、

僕の前に黙って立っている。

思わず毛布を手に取り、裸を隠すために僕は体に巻きつけた。


「あ……」


彼は間違いなく何か言おうとしているが、言葉にしそうにはない。

その内容が僕には分かっているし、それも洋次は分かってるはずだ。

僕は少し微笑んだ。気にしてないよ、とでも言う顔で。

彼は何も言わない代わりに、僕に口を近づけた。

唇が触れる程度のキスをして、僕の肩を一度つかみ、すぐ離して、

じゃあなと言って部屋を出た。



――体を重ねていれば、どうしようもないほどの不安を、

かき消すことができるのだろうか。




その日、昼はデートだった。

気分転換で、場所を変えて勉強することにした。

とりあえずカフェで。静かで人の少ないカフェで勉強。

キリがいいところでウチに場所を移すことは決まっていたので、

僕は早くそうならないかなーと望みながらも、

洋次の話をなるべく一所懸命に見えるように耳を傾けた。



「自分の勉強は大丈夫なの~?」


会話の切れ間に質問を入れ込んでみた。

僕ばっかり教えてて、上位を維持しているのはすごいと素直に思う。

どうして公立高校を目指さなかったんだろう。

僕みたいに近場の私立であるバルガクに、何とか合格したのとはわけが違う。

受験勉強を教えてくれたのも洋次だった。


その理由が、僕と同じ高校に行きたいからだったら、

そうだったら嬉しいなとは思った。

……こんなどうでも良い事を考えるほど、僕は甘かった。


「テルに心配されない程度には大丈夫だって!」

「そうだよね~。」


そういってまたシャーペンを手に取る僕だったが、

すぐにあくびしてしまったのを見て、洋次は時間を見た。


「もう少ししたらテルん家行くか。」

「そうだね~。今すぐ行こうよ~。」

「それはナシ。数列のとこ全然終わってないだろ!」

「え~?」

「え~とか言うな!」


こういうちょっとした言い合いも、僕は僕なりに楽しんでいた。

付き合う前はもっと殺伐としてて、義務的で表面的な会話しかしなかったから、

冗談の言い合いだとかが、僕は好きだ。

洋次の隣に居ることが、何となく安心感をもたらし始めたこの時期に、

僕たちを、いや僕を、悩ませるあの事件が起きた。



夕日が落ち、我が家に場所を移すことになって、

なるべく身を丸くして冷たい風から身を守りながら、

洋次の貸してくれたコートも着て、少し大きな通りを歩いていた。


何を話していたかはあまり覚えていないけれど、

本当にたわいもない話で、そういえばテストが終わったら何するか?

とか、そういう楽しみな話だったかもしれない。


クリスマスは確実に迫っていて、今年は今までのそれとは違うクリスマスに、

きっとなるだろうと思った。

そんな言葉はいまだに洋次の口からは出てないけれど、

何かまた特別な日になったらいいんじゃないかと、

自分の感覚は依然よりずっと呑気で気楽なものになってたんだなと、

今さらながら思ってしまう。

それが、たった一人の人物によって覆されることも、

その時は分からなかったのだけれど。

いつかそれが来ると、危惧しておくこともできたのかもしれない。


僕たちは肩を並べて歩いていた。

歩道は決して広くはなかった為、本当に肩を並べてという表現がピッタリで、

一人の女の子とすれ違う時に、洋次が肩をぶつけてしまったのだ。


「あ、悪い。」

「……えっ……住田先輩?」


相手の顔を見ずに謝った洋次が、ようやく顔を見る。

……僕すらも、その相手がだれかは知っていた。

洋次はすぐに、思い立ったその名前を口に出す。



「カナ……?」



ネオンが黄色く不安げに光る――。


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