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バルガク。  作者: ホワイト大河
第二章 気づいてしまえば、戻れない
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ようこそ!生徒会執行部(4)

 12月10日(月) 17:48


目も耳も疑わなければならなかった。

あと記憶も。この人は生徒会長に立候補した人のはずだ。

前図書委員長の推薦を受けた人のはずだ。

ケラケラと笑っている渋谷先輩に、あたしは口をきく事が出来なかった。


「……おいアンタ、それが本性だったんすか?」


翔ちゃんが臆することなく尋ねた。

渋谷先輩は一度軽蔑した目を彼に向けた後、ゆっくり口を開いた。


「ラブホって高いんだよ。」

「……え?」

「ヤりたくても場所がねェの。外はこの時期寒いだろ?だから良い環境ねェかなって考えてたわけよ。」


「それで図書室を見つけたのけ?」


まだ肩で呼吸している後藤先輩が尋ねた。

……まさか、そんな理由で。

渋谷先輩は火の点いてない煙草を口にくわえながら、小さく口を動かす。


「俺はあんま人にこの性格を見せてねェんだわ。ま、口説きまくった女子たちは除いてな。それで図書委員長に真面目に頼みまくって、推薦を得たってわけよ。」


……この人が狙っていたのは、最初から図書委員長?

そんな下らない理由で図書委員長を務める人間が居るとは、

あたしには想像も出来なかったが、実際に目の前にいるのだ。


「会長なんてクソくらえだぜ。ずっと図書委員の代表をやって来たのも、全部図書委員長の信頼を得る事だけが目的なんだよ。そんな事にも気づかず俺を選んでくれて、堂々と図書室の占領権を得たってのが今までの筋書きさ。」


菊池先輩はいつも通り睨みを効かせながら、黙って状況を見守っているが、

後藤先輩はまた渋谷先輩の方に二、三歩踏み込んで言い放つ。


「お前に図書委員長させれねえ!罷免だっぺ!」

「おいおい後藤。俺より真面目な奴は何人もいるかもしれねェが、俺より図書委員の仕事が出来る奴は他に居ないんだぜ?」

「……それでもお前がやるよりマシだっぺ!」

「目先の事に拘りすぎんなよ後藤。俺を解任したとなると執行部の面目は丸つぶれ、だろ?安心しろ、図書委員長の仕事はちゃんとやってやるからよ。」


後藤先輩が言い返せなくなったのを見て、出口に向かって歩き出す渋谷。

……言ってる事とやってる事が違ってる。それを言ってくれたのは翔ちゃんだ。


「帰るんすか!早速仕事を捨ててるじゃないすか!」

「……おいおい俺がやるのは「図書委員」の仕事だけだ。こんな真面目くさった書類整理、やるわけねェだろ。こういうのは俺が居ない方がはかどるぜ?そんじゃ、セフレ待たせてるからまたな。」


……確かにこの男に協調性があるとは全く思えないし、

渋谷のスタンスを変えるのは困難だ。

情けない事に、渋谷先輩のいう事全てに筋が通っているのだ。

ドアに手を掛けた渋谷先輩が振り向き、あたしを真っ直ぐに指差した。


「アソコがうずいたら、いつでも相手してやるから俺に言えよ。」

「…………!」

「じゃァな。」


ドアは勢いよく開き、そして彼を通してすぐ閉まった。

あの人いつかメタメタにしてやりたいわ。


「博明、どうすっぺ?」

「……今度の会議で花園に伝える。」

「次会ったらただじゃおかないっぺ……!」


……問題は解決しないままだけど、今のあたしに出来る事は何もない。

月山先輩たちに仕事を託してきてる事に気づいたあたしは、

若干の不安と焦燥を抱きながら、とりあえず戻る事にした。






「綿華ちゃんオツカレー。」

「遅い!罰として今度私の買い物に付き合いなさいよ!」


飯島先輩と月山先輩に迎えられる私。

思わずため息をついた。……問題は山積みだ。


「サユ、なんか不幸せそうじゃないの。人の不幸は蜜の味ね。」

「……お前性格悪すぎっしょ。ところでどうだったの?どうせ渋谷だろ?」


…………!

飯島先輩は渋谷先輩のあの本性を知っているのだろうか。


「……なんか元々図書室を自分の物として使いたいだけだったみたいで、執行部は興味ないとかなんとか……もう仕事せずに帰っちゃいました。」

「あー、アイツ変わってねーんだな。頭は良いから、そのサボる理由も論理的だったろ?」

「…………」

「まあ綿華や翔希君で何とかできる問題じゃないからさ。気にしなくて良いと思うけどねえ。アイツの事は。」

「私も放置で良いと思うわ。面倒だし。花園君に報告しとけば?」


二人とも、どうやら渋谷先輩の本性は知っていたらしい。

知っている人は数少ないと、彼は言っていたが……


「よく知ってましたね、渋谷先輩の本性……」

「私は口説かれたの。当然断ったわ。釣り合わな過ぎ。私がかわいすぎて。」

「俺は……まあ妹と似たような事やってるから、情報が入ってくるわけよ。」

「……なるほど……」


妹と似たような事。妹の飯島光ちゃんは同学年向けに相談所を開いており、

そのおかげもあって情報は彼女のもとに集まりやすいのだ。

飯島先輩も、同じように二年生の情報を把握しているのだろうか。

最後に飯島先輩が付け足した。


「でも花園も知ってるはずだけど?桜塚はバスケバカだから知らねーけど、花園は全部知った上で、図書委員長にアイツを推したんだろーよ。」





帰り道。薄暗く肌寒い道を、神様と肩を並べて帰る。

神様はご機嫌で、さっきから勝村君に勝った話を永遠とし続けている。


「ハッ!奴も所詮人の子よ。人がどれだけ力を尽くしたところで、神には遠く及ばん。」

「…………」

「まあ神とは数えられる程度の差しか無かったから、彼も人の子としては頑張ったほうだけどな。」

「……ちょっと神様静かにして。」

「フハハハハハハハ!神の優秀性が客観的に認められた今日この日、歓びを謳わずに何時謳うと言うのだ!フハハハハハ」

「うるさい。」

「はい。」


一緒に仕事してた菊池先輩の苦労が思い知れるわ。

後藤先輩の件でも呼んじゃったし、あの人何の文句も言わないけど、

今日はあたし達以上に疲れたんじゃないかしら。

……寮に帰ってオチ君がイジめられないか心配になってきたわ。

神様がうっとうしく何度も髪を同じ方向にかき分けながらこちらを見る。


「どうしたんだね綿華君。何か悩んでいるのかね?」

「……こっちはこっちで今日大変だったのよ。まあ神様や勝村君が加わった所で、解決できる問題じゃないと思うけど。」

「それは心外だぞ綿華君。神は全ての課題を乗り越えて神になったのだ。」


「……神様今日なんかウザいんだけど。自信にあふれすぎ。」

「フハハハハハハ!今の神は無敵だ。何者も全て神を阻む事は出来ぬぞ!」

「ならばあたしを阻んでみよ!!ホアアッ!」

「ぐあああああああああ」



……冗談はさておき、どうしたものかしらね。

最初だから仕方ないのかもしれないけど、みんなバラバラでまとまりが無くて、

執行部の先行きが怪しくなってきたものだわ。

どこへ行っても困難はつきものね……。


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