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バルガク。  作者: ホワイト大河
第二章 気づいてしまえば、戻れない
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ようこそ!生徒会執行部(2)

 12月10日(月) 17:04


花園先輩達Sチームが三階に下りて、

今使われてない三年会議室で話し合いを進めるという事で、

それから神様率いるBチームが渡り廊下を渡って、

わざわざ北校舎の二年会議室で作業を進めるという事で、

さらに後藤先輩達Cチームが、西隣の隅の多目的室に移ってくれて、

あたしたちAチーム三人が生徒会室に残った。


皆がどんどん移動していく間、三人は無言でそれらを見送っていたから、

やはり移動が終わると数秒間の沈黙が続いた。


飯島先輩はさっきも思ったけど、やっぱり飯島光ちゃんに似てる。

あの頼らしい性格に頼れるおっぱいを持つ光ちゃんのお兄ちゃんよね。

ふんわりした茶髪に173㎝くらいのそこそこ高身長。

縁なし眼鏡に少し着崩した制服。

うーん、あんまり男には興味ないんだけど、

それでも同学年のおイモさん達よりは全然マシというか、

そもそも身の回りの男たちはたっちゃんうのぽんオチくんと、

揃って身長があたし(169)以下だからやっぱカッコイイって思った事無いし、

執行部は揃って飯島先輩くらい身長あるけど、それが当たり前よね?


で、月山先輩はなんというか身長の話をすると165超えてないと思うけど、

演劇部のエースで新部長務めてるだけあって、オーラで高く見える。

テル君の柔らかい茶髪と対照的に主演女優の美しい金髪。

顔もキッチリ化粧してあってまつ毛もアイシャドーもバッチリな、

ちょっと取っつきにくそうな印象を受ける人ね。


と、会話が無さ過ぎて、二人の顔を見て私がいろいろ考えてたところ、

飯島先輩がその気まずさを見計らって、最初に声を発した。


「……とりあえず、自己紹介しといた方が良いっしょ。俺は飯島聖也、綿華さんのために言っとくと、俺は一年の飯島光の兄……」


「良いわよやんなくて。アンタのキモイエピソード誰も興味ないし。」


月山先輩が遮る。彼女は片手で配られた書類をぺらぺらとめくっていた。

……何となく知っていたけど本当に口が悪いのね。


「それより帰る事が優先。私なんかすっごい大事な用事があった気がするから帰るわね。」

「ま、待ってよ月山ちゃん、さすがに仕事は終わらせとかないと。」


慌てて引き止める飯島先輩。一瞬どうしようかと思った。

勢いで立ち上がった月山先輩は、そのまま書類を手にする。


「じゃあさっさとやるわよ。一週間毎日ここに来るなんて地獄過ぎるから、そうね……二日。二日で片付けましょ。」

『二日!?』


思わず、飯島先輩と揃って、あたしの声が出てしまった。

この量を二日って……この人両極端なのね。

月山先輩は一度も私や飯島先輩を見る事無く、話を進めていく。


「アンタ達は知らないのよ、これくらい花園桜塚ペアにやらせたらどうせそれくらいで終わっちゃうって事。あの二人には散々馬鹿にされて頭来てるから、そろそろ見返してやりたいわけ。」


……月山先輩は、動機はともかく、悪い事は言っていない気がする。


「そのためにはこの三人で、分担・協力する事が必要なの。絶対終わらせるわ。」

「……思ったより燃えてるねえ、月山ちゃん。」

「うるさいわね。だって今日月曜でしょ?明日までに終わらせないと、水曜デートなの。今度のデートはイケメン金持ち大学生。絶対モノにするわ。この私の高等テクニックで!」

「は、はあ。」

「さて……綿華さんだったっけ?」


既に書類を一枚一枚横に並べて、準備に取り掛かっていた月山先輩が、

急に顔を上げてあたしを凝視した。ちょっと慌ててうなずく。


「めんどくさい名前よね、下の名前は?」

「……さゆりです。」

「じゃあサユって呼ぶから。サユ、そこに「謹賀新年」って書いてくれる?そうね、飯島、一応アンタも!」


……謹賀新年?

ちなみにあたしは同級生からはよく慕われ(半分怖がられ)、

上級生からも優等生として見られることが多いので、

「綿華さん」とほぼ必ずさん付けで呼ばれる。

下の名前で呼ぶのは、神様がたまに呼ぶくらいのものだったけど、

それがこんな初対面で崩されるとは思わなかった。

そんな事を考えていた所で、あたしと飯島先輩が字を書き終えた。


「……サユ、あんた綺麗そうに見えて豪快な字を書くのね。」

「え、それ褒めてます?」

「褒めてないわよ!飯島は論外。何よその象形文字!」

「ぐ……」

「というわけで、確認するほどでも無かったけど、書類の清書は私がやるわ。この書類と似た書類が、過去の執行部のファイルにあったはずだから、サユはそれを探して。で、飯島はそれを片っ端から見ていって。サユは探し終わったら飯島に必要な情報を伝えてもらってそれを簡単にまとめて。そしたら私がそれを清書するわ。この流れが最も確実で早いわ。質問は?」

「……月山ちゃんさあ、」

「無いわね。じゃあはじめなさい!」


あれ程不真面目そうにしていた彼女が、自ら手綱を握り、

忽ち、こうも劇的に人を、的確に操るなんて。

良い意味で彼女は人を道具として利用する事に天才的に長けていて、

演劇の中で人を魅惑する時のように、絶対的な自信に満ちている。

のんびり屋なテル君の実の姉とは思えない行動力。


飯島先輩が重たい腰を上げ、不満げな表情で作業に取り掛かったので、

あたしも月山先輩の指示通りにそのそばについた。

飯島先輩は重たいファイルを手に取り、パラパラとめくり、

茶髪がふわりと動く風を起こす程のスピードで、パーッとページをめくった。

彼の眼はせわしなく上下し、まるで読書の早送りがなされてるようだった。

終わりのページにたどり着くと、飯島先輩は、

風で崩れた髪を少し直した後、その前年度生徒会ファイルを机に置いた。

それから飯島先輩が伸びをして、あたしの顔をじっと見た。

あたしは今飯島先輩が何をしたのか分かっていなかったが、

彼は首を様々な角度に傾けた後、また真っ直ぐあたしを見て訊いた。


「最初に必要なのは?」

「……えっと……」


手元の書類を見る。体育祭関連のものだ。

現三年生の体育委員のリストを書き出さねばならないようだ。

ちなみに二枚目は全く別の書類で、とにかく色々なものが混ざってるようだ。


「えっと三年生の体育委員のリスト……」

「一組平田晋平、二組中村優斗、三組古田信一郎、四組夏目索人、五組村岡司。漢字は……」

「あ、え?……お、覚えてたんですか?」

「ん?いや、覚えた。」


すぐには飯島先輩の言葉の意味が理解できなかったが、

別の書類の署名欄の所を作っている月山先輩が、こちらを見ないまま言った。


「飯島気持ち悪いでしょ?ものすごい記憶力なのよ。今見たファイルの内容、全部覚えてるってわけ。ちなみに121ページは?」

「……七月十日の執行部会の会議録。主な議題は二学期始業式の役割分担と、夏休みのボランティア活動の計画。一応書かれていた事全部覚えてるけど、話さなくていいっしょ?」

「ええ結構よ。キモイからもう喋んなくて良いわ。」

「へいへい。ってなことで俺は超短期記憶が得意なんだ。けど、三十分もすると全部忘れちゃうから気を付けてちょ。」


……開いた口がふさがらないとはこの事だろうか。

妹の光ちゃんは、人から相談された内容をいつまでも覚えてるらしく、

その兄にも似た特徴があってもおかしくは無いが、ここまでとは……。

固まってしまったあたしを不思議そうに見つめる飯島先輩。

……この仕事の出来る有能な二人に挟まれて、あたしは冷や汗をかいていた。


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