俺の嫌いな引っ込み思案(9)
12月 5日(水) 11:18
体育館にて
そんなこんなで期限当日が来た。
当然落合に勉強会の事は伝えていないままだ。
……達也もずいぶん適当な奴だ。
水曜日に勉強会がしたいならそれまでに伝えておくのは当たり前だろ。
色々な事を考えていると、高く上げられたボールをスパイク出来ず、
ボールはどっかへ飛んで行ってしまった。
「……ハッ、集中力が足りないぞ。」
ペアの上川が呆れた目で俺を見てくる。
……どうでも良いが何でこいつは人を見下した態度なんだ。
「そろそろ試合始めるぞー。」
浅田先生の呼びかけで、ペア練習していた面々が集まっていく。
体育館の舞台を見ると、見学のテルが横になっていた。
テルの見学はいつもの事なのだが、今日は一段とひどいな。
昨晩のテルとの電話を思い出した。
大半は奴ののろけ話だったが、電話の最後に思い出したかのように、
「そういえば明日だね~。明日は良助の手助けしないからね~。」
とキッパリ言い切りやがった。
いつも落合の話相手になってもらってるが、それをやめるという事だろうな。
まあどうせ、どうという事は無いだろう。
その日の体育はあまりうまくいかなかった。
脇坂らしくないとクラスの面々に言われたのはありがたいが、
その一方で、落合はいつも通りで、おかしな様子を見せなかったのには驚いた。
12月 5日(水) 12:24
一年五組 教室にて
着替え終わったし、今日も昼飯は達也たちの所へ行くか。
と、落合が誰と食べるのか一応見ておかないとな。
「……あの、テル君、一緒に食べませんか?」
「え?……うん、い~よ~。」
意外な事に落合の方からテルを誘った。
……まあここ数日連続で食べていれば、テルが誘わなくとも、
落合から誘うのは当たり前っちゃ当たり前だな。
見た目では、今日の期限の事を気にしていなさそうなのが不可解だった。
……忘れてるんじゃないだろうな。一応確認しとくか。
「おい、落合。」
「……あ……はい、何でしょう……」
「なんか怖いよ~良助~。」
「テルは黙ってろ。今日が期限の日だが、忘れてないだろうな。」
「……そうですね……」
落合がうつむいた。テルは空気を読んで黙々と昼飯を食い始める。
とどめでも差しとくべきか、と思ってたら落合が急に顔を上げた。
「まあ分かってた事ですけどね……」
その顔は、……今にも壊れそうな笑顔だった。
テルがじとっとした目で俺を見てくる。
……こいつらから見れば俺が悪役になるのは分かってるが、
それでも俺は達也の平穏の方が大事だと思ってる。
あんまり邪魔という邪魔はしてないしな。ほとんど成り行きそのままだぞ。
俺は奴らに背を向け、三組の方へと歩き出した。
12月 5日(水) 12:37
一年三組 教室にて
廊下窓に面した所には座っていながらも、
教室の中心グループからは外れて昼飯を食っている達也と宇野のところに、
今日は他にも客が来ているようだった。
その客の片方は知らない女子だが、驚いたことにもう片方は上川で、
上川の方も俺を見るなり話しかけてきた。
「ハッ!脇坂ではないか。珍しいな。」
「上川か。こいつらと仲良かったのか。」
「そうなのよ、体育の後の四組はホント臭いから。あの中でご飯食べるとか耐えられなくて!お邪魔してまーす。」
随分テンションの高い女子だ。……なかなか美人だな。
宇野が箸を持つ手と口を動かしながら、俺の方を見る。
「ちょっと混んでるけど、入れるんじゃね?」
「……そうよねー、オチくん居ないからその分オチくんの代わりに!」
オチくんというのが落合の事だとすれば、
この女子も、ここに元々落合が居た事を知っている事になる。
「ハッ!しかし来ないな。もうここには来ぬつもりなのか?神の信仰が足りぬからそうしてごにょごにょ……」
(神様あんた脇坂君居るから遠慮してるでしょ!)
(せっかくのイケメン手放すわけにはいかんのだ!)
上川も……ここに落合が居るという事を知っていて、
それを自然だと思っていたのか。
宇野は何も言わなかったが、達也がボーッと俺の顔を見てくる。
「友情ってのは薄情なもんだぜ……まったく。ところで良助よ、恒太に勉強会の事伝えてくれたか?」
…………。
手を頭の後ろに回して、少し椅子を浮かす達也は、
無垢な目で俺を見つめてくる。
……友情ってのは薄情なもの、か。
達也と落合の間に友情という物が存在したのだとしても、
俺一人がちょっと操っただけで壊れるようなそんなものは、
……そんな不確実で、不安定で、不器用なものは……。
《あんた達となんか、関わらなきゃ良かったのよ!!》
「……おい、良助?」
そこに座っていた四人の目線が、立ったままでいる俺に向かっていた。
ため息が出た。首を傾けると骨がボキボキとなった。
「伝えてないわ。俺は勉強会に参加しないんだぞ。
お前が直接落合に言ったらどうだ。」
「……え、……ああ、そうだな。今日はもう昼も食ったし、ちょっくら落合んとこに顔出してくるか。まったく薄情者め……」
達也は立ち上がり、俺の肩をポンと叩いて横を通り過ぎて行った。
もちろんその方角は五組の方で、もう見なくても分かった。
……達也が居ないならここで食べる意味も無いな。
俺も戻るか、と思った所で、宇野が俺の背中に向かって訊いてきた。
「これって恒太の勝ちなんじゃね?よく分かんねーけどさ。」
……どこまで分かっているかは知らないが、やはり宇野は把握していたか。
それでいて、知らぬふりをしていたのか。食えない男だ。
俺はちょっと笑いながら、「さあな。」とだけ言っておいた――。




