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バルガク。  作者: ホワイト大河
第二章 気づいてしまえば、戻れない
73/181

俺の嫌いな引っ込み思案(7)

  ○   ○   ○   ○   ○   ○


ハッ!久々だな諸君!諸君らの神だ!

時刻は早くも八時を指している。

相変わらず愚かな人民は黙々と夕食に取り掛かっている!

ハッ!もちろん神は卑しい民のごとく量を弁えず食すことは無い!

そもそも必要最低限の量は決まっており、人間は……


「……ふう……」


神が瞑想にふけってる横で意味ありげなため息をつくでないぞ落合君。

まあ神は神であるからして、この物語に登場する一人の役もこなすと同時に、

俯瞰的に物語を見ているがため、実は落合君が落ち込む事情が、

全て脇坂良助によるものだと把握しているのだがな。

本来これは知り得ない情報なのだから黙っておくしかない。

歴史を捻じ曲げてはならんのだ。よくSFものにある暗黙の了解だ。


「……ふう……」

「何度もため息をつくと幸福が逃げるぞ。せっかく神が幸福を与えてやっているのだ。」

「もらった覚えはないです。……ため息ついてました?」


そんな暗い表情で誤魔化す事が出来ると思うか。ましてや神に。

まあ信者が為に神が行動してやりたいのは山々だがな。

彼の向かい合わせに座り、黙々とカレーを食う宇野君が、

全く落合君の表情を見ないものの、ある思惑のもとに行動しているのだから、

これは神にもどうしようもないという所だ。


「そんな疲れる程忙しーんだ?」

「……えっ……えっとそうですね、ちょっと色々立て込んでて……」

「ドンマイじゃん。まあ頑張れ。」


……宇野君、君は実に白々しい奴だ。




「ちょっとうのぽんうのぽん。」


少し時間を遡る。

バスケ部の練習の終了を、神と綿華君はわざわざ待っていた。

時間で言うと数十分くらいなのだが、その労力を惜しんででも、

問い詰めねばならぬことが綿華君にはあったらしい。


「あれ、珍しーじゃん。どしたの?」

「どしたの?……じゃないわよ。うのぽん気づいてるんでしょ?オチくんが不自然にずっと来てないの!」

「……綿華さんは何で知ってんの?そもそも今日初めて見たばっかじゃん。」

「ハッ!それは神が全て教えてやったのだよ。最近、寮での落合君の態度が明らかに変で、昼時にチラと三組を覗いてみると、いつもいるはずの落合君が居ないではないか。それを綿華君に報告したところ今日の行動に出たのだ。」

「……見に来てたんだ?神様存在感あるのによく俺たちに気づかれなかったじゃん。すごいね。」

「ハッ!それは神はその気になればこの逞しい存在感を」

「はいはいちょっとちょっと神様その話はもう良いわ。」


強引にさえぎる綿華君。神を軽んじおって。

それから少し真剣な顔になって、宇野君の行く手に立ち塞がった。

宇野君はさり気なく帰ろうとした足を仕方なく止める。


「……そんな仁王立ちしなくても、逃げるわけ無いじゃん。」

「うのぽん何か隠してるの?どうせオチくんが落ち込むって言ったら、たっちゃん絡みの事件なんだろうけど。」

「いや、何も知らないよ。勘違いじゃね?」

「なんとなーくたっちゃんをオチくんのとこへ行かせようとしたのに、それを阻むなんて、おかしいじゃない?本当は何を知ってるのかしら?」


……観念するのだな宇野剛司よ。

この状態になった綿華君の厄介さを、神が身を以って知っている。



「ホントに知らないって。恒太には何も相談受けてないし。……けどまあ、大体何が起こってるのかは分かるじゃん。多分脇坂が何かしたんだろーね。」

「……脇坂って……」

「達也の幼なじみ。ただの想像だけど、脇坂は達也に気があってさ、それでたまに俺たちの所に来て達也とだけ話してどっか行くわけよ。それで急に恒太が来なくなってさ、その代わりほぼ毎日脇坂が来るようになったわけ。これって絶対脇坂が絡んでるじゃん?」


……ほほう。ほとんど正解ではないか。

この男の洞察力はいずれ使えるやもしれんぞ。

綿華君は、彼女の脳内の推察よりも現実が複雑だったらしく、

呆気にとられている。宇野君はさらに続けた。


「どうせ脇坂が恒太脅したとかそんな感じじゃね?それで、脇坂は多分俺がちょくちょくアドバイスしてる事に気づいてるだろうから、俺に相談禁止とかって条件付けてると思うよ。」

「……そ、そこまで気づいてるなら、何かしてあげたら良いじゃない!オチ君が条件破った事にはならないと思うし……」

「俺がそれに気付いたりする事がアウトな条件だったら無理じゃん。俺は何もするつもりはないよ。」


そこまで言い終えると、宇野君は悠々と歩き出した。

ふむ……宇野剛司のドライな性格は、綿華君の性格とは実に対照的だ。

綿華君は数歩先に進んだ宇野君の肩を掴んで引き止めた。


「何だかんだ言いくるめちゃえば良いじゃない!うのぽんの助けを待ってると思うわよー、オチ君。そんな状況なら尚更!」

「……もし俺が相談に乗るのがセーフだったとしても、今回は俺、何もしないと思うよ。多分ね。」

「え?」


「そろそろ恒太は、自分で一歩踏み出した方が良いんじゃね?」




しばらく綿華君の話に付き合ったが、

面倒見のいい姉御肌の綿華君にはこの状況は耐えられんだろうからな。

だが今回ばかりは神も宇野君のやり方に賛成かもしれん。

ある程度綿華君も宇野君の理屈には賛成したようだったものの、

歯がゆい気持ちを存分に表していた。


脇坂良助の圧迫感は確かにすごいものがあるが、

根っから悪い人間というわけではないという事を神は知っている。

そしてムキムキであることも神は知って……ハッ!神としたことが。

こんなゲーム、断る事も出来たはずだからな。

その背景を知っている神だからこそ、思える事なのかもしれんが――。




「よっ!一年諸君!元気け?」


そんな複雑な状況の宇野君落合君、そして神のもとに、

場違いなテンションで突っ込んできたのは宿敵、後藤俊平。

それから付き人の菊池博明。ますます落合君の表情が曇る。


「そこそこっすね。」

「宇野ー!そこはサイコーッス!っていうもんだっぺ!」

「サイコーっす。」

「そうだっぺ!」


……それで良いのか?実に単純な男だ、後藤俊平。

神は絡まれたくないのでスッと気配を消したが、

菊池博明がゆっくり落合君に近づいていく。


「……どうした?」

「え?」

「……落ち込んでるだろ。」

「……あ……」


「……思ってるだけじゃ、分からないぞ。」



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