俺の嫌いな引っ込み思案(6)
12月 3日(月) 11:12
一年五組 教室にて
俺にはいまいち落合の何がそこまで良いのか分からないけどな。
テルがあいつに同情する理由が分からないし、
もっと言えば達也があいつに構う理由も分からないんだ。
俺は元々引っ込み思案が嫌いで、落合はその最たる例だと言える事はさておき、
他にもこれといった取り柄はない。クラスのカーストの下位にあたる奴だろ。
あいつの何がそこまで惹きつけるのか。
死ぬほど退屈な古典の授業中、特にすることもないので、
向かって右側の奥に座っている落合を観察してみる。
一生懸命ノートを取っているようだ。何となく暗いがそれはいつもの事だな。
……結果に結びつかないような事をちまちまと続けてる奴も、俺は嫌いだ。
それには若干俺も当てはまるけどな。
落合を見ていると、奴の後ろの席の隠岐がこくりこくりと居眠りを始めた。
グレートスチューデンツなる六人の一人、あいつは劇を頑張ってるらしいが、
成績もかなり良い方だ。ああいう人間になりたいもんだよ。
ぐぅ~。
……視線の先から音がした。明らかに腹のなった音だな。
隠岐がハッと目を覚まし、少しずつ顔を赤くしていく。
……別に腹が鳴るくらい生理現象だから、気にする必要ないと思うがな。
その音はクラス中に聞こえたようで、クラスの大半が彼女の席の方を向いた。
「……あ……」
声を発したのはなぜか落合だった。そして焦ったような顔をしていた。
それから、落合は恥ずかしそうに、笑ってみせた。
「すみません……昼飯待ちきれなくて……」
クラスにどっと笑いが起きた。
落合をからかう声が少し湧いた後、百合原先生が両手をたたいた。
「はいはい、落合君もうちょっと我慢してね?授業戻るわよー。」
百合原先生はつまらん授業の話に戻る。俺はまだしばらく落合の方を見ていた。
隠岐が後ろから小さな紙を落合の机に飛ばす。
落合はそれを開いて、何も見なかったようにまた授業に戻った。
……なるほど。お人よしな奴だな。
そのまま隠岐とのラブラブストーリーに発展してくれたらありがたいが、
落合があのジャガイモ顔だから無理だな、残念。
すると落合の左隣に居るテルがこちらを見て、かすかに笑った。
奴も近くに座っていたから、さすがに状況が理解できたんだろ。
俺は呆れ顔をしてまた前を向く。
授業が終わって教室がざわつく。
先ほどの一件を落合に軽く茶化して別クラスへ向かうやつも居た。
「落合、活躍したね~。」
「……何のことですか?私が最後に活躍したのは幼稚園の劇だったと思います、役は木の役でした……」
「え~、まあいいや~。」
この数日でずいぶん打ち解けたテルと落合の後ろに、俺は立った。
「おい。」
「……はい……何でしょうか……」
「たまには一緒に食うか。」
「……え……あ……」
「え~どしたの良助~。」
「気分転換だ。」
……今日くらい許してやるか。
○ ○ ○ ○ ○ ○
12月 3日(月) 12:47
主人公はつらいぜ。みんな待ったか?タツヤ様だ。
ところで最近は何故かめっきりネガティブコウタがここへ来なくなり、
昼飯をハロハロツヨシと二人だけでもっぱら食べている。
話はそれなりにするんだが、今一つ盛り上がらない。
……まあしかしコウタにもコウタの時間があるはずである。
それを邪魔する権利が、果たして俺にあるのか?
と聞かれたら無いと言わざるを得ないからな。
目の前のツヨシは黙々と菓子パンを食べている。
元々は寮から持ってきた弁当だけだったはずだが、
最近は部活が激しい為腹が減るらしく、+αで食べているのだ。
まったく、これだからリア充は。
と、ツヨシの食べっぷりを眺めていると目が合った。
ツヨシが口を開く。中でイチゴジャムが糸を引いた。
「タツヤ、テスト勉強進んでんの?もう再来週じゃん。」
「おいおい、俺がそんな順調に進んでると思うか?……チッ、もう少し簡単な学校にすりゃ良かったかもな……」
「今さらじゃね?それにテストの基準で学校選ぶ奴居ないと思うよ。」
「ああ……まあ近いし評判良いしで選んだわけだが。そういえばツヨシはどうしてバルガクにしたんだよ?」
「……何となくじゃね?」
まったく、適当な奴だ。
高校の三年間は、人によっては人生で最も印象に残る三年間になるんだぞ?
まあそんな学園生活を期待して来たわけじゃない俺がそう思うのもなんだが、
何となくで、わざわざ遠い所を選ぶもんかね。
「ハッ!誰が呼ぶ民が呼ぶ大地が呼ぶ!君らの神だ!」
「やっほーたっちゃん!やっほーうのぽん!」
……廊下に面した窓から勢いよく二人が姿を現した。
言わなくとも読者諸君なら分かると思うが、上川&綿華だ。
主人公のタツヤ様を差し置いて、人気投票で上位独占しやがって。
「別に用は無いけど通りがかったから来てみちゃった!おっぱい揉んでる?」
「ただの痴女じゃね?」
「ハッ!神が降臨した事に感謝したまえ!崇めたまえ!」
「キチガイじゃね?」
よくポンポンと突っ込めるものだと、ツヨシには感心せざるを得ない。
俺はその喧騒からは一歩下がって静観するので精いっぱいだよ。
綿華は誰かを探すようにキョロキョロと俺たちの周りを見渡している。
「ってあれ?オチくん居ないじゃない。どったのどったの?」
「……ああ、最近は来ないんだ。まったく、俺たちを裏切りやがって。」
俺の言葉を聞いて、綿華は指を顎に当てて何やら考えるポーズを取る。
そんなオーバーに反応しなくても良いと思うがな。
「ふーん、どしたんだろ?ねえ、たっちゃんちょっと会いに行ってみたら?」
「……何で俺なんだよ。」
「え?なんとなくよなんとなく。たっちゃん暇そうだし!」
「コウタ忙しいらしいよ。暇ならここに来るはずじゃん。」
カフェオレをストローで飲みながら、ツヨシが答えた。
勢いよく俺を立たせようとしていた綿華の動きが止まる。
「……あっ、そうなんだ。なーんだ、てっきりケンカでもしたのかと思っちゃったじゃない!そっかそっか。……じゃ、戻るわ!ちゃお!」
綿華は上川を引き連れて風の様に消えて行った。
……毎度毎度嵐のような奴らだ。なんなんだまったく。




