俺の嫌いな引っ込み思案(4)
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ハッ!神だ!近い将来全人類を統べる神だ!
神は今体育という下らない遊びに付き合っているのだ。
そもそも神は運動に関しては神にはなれない、
というのも神の運動能力は古来の神話で人間に分け与えてしまったもの……
「おい上川。」
何だ。神の啓示を邪魔しない方が身のためだぞ。
振り返ったそこには、脇坂良助なる男が立っていた。
ふむ、体育は隣のクラスと合同だから、こうして同じ空間に居るのは分かるが、
神の後ろに立つとはどういう事だろうか。
……てかそんなのどうでもいいわ、ムキムキキタコレー!
「ペア居ないのお前だろ。」
一瞬何を言っているのかと思ったが、すぐに見当がついた。
今週から体育で始まったバレーボール。
パス回しのペアを組めと言われたのだが、神はペアが居なかったのだ。
まあ、当然愚民が神とのペアを組めるはずもない上、人数は足りてたからな!
「組むぞ。」
「……君のペアはどうした?」
「俺がこの前休んだから居ない。」
「あいにくだが他を当たってくれ。戯れる程暇では無い……」
「組むぞ。」
あれ、日本語が通じないよこの子。
……多くの者が神のこの態度を見て逃げていくものだったがな。
神が答えないでいると、面倒くさそうにボールを手渡してきた。
「べつに俺も、本気でバレーやる気なんて無いからな。」
「……然らばやらなくて良いではないか。無駄に体力を浪費せずとも済む。」
「一通り真面目に受けないと怒られるんだよ。」
なるほど、確かこの男脇坂良助、水泳部のエース格だったな。
運動能力だけでなく成績も重視する部活がいくつかある。水泳部もその一つか。
ハッ!神は五教科の成績が良い故に問題ないが、脇坂良助は難しいだろうな。
「まあ良かろう。」
「それじゃ適当にパス回すぞ。」
しぶしぶ合意し、脇坂良助にボールを投げ返す。
愚民共の喧騒から少し離れ、網を挟んで向かい合う。。
連続トスをしながらゆっくり距離を詰めていく脇坂良助。
もう12月にもなろうとしているのに、未だ半袖半ズボンな元気男子だ。
筋肉が付きながらもスラッとした脚や、上半身の均質感が、
よく泳ぎ、ほどよく鍛えている彼の姿を彷彿とさせる。
正直たまりません。風に煽られて割れた腹筋がチラリと見えるのは、
完全に狙っていると思います。殺人級ですよね。
ハッ!神としたことが。
さてボールが飛んできて受け止めると、連続トスをし、
そこからレシーブして軽く打ち返す。
これでも運動部の端くれ、本気を出せばソツなくこの程度の運動はこなせる。
脇坂良助はそのトスで自ら上げ、高身長を活かして高く跳び上がり、
そのまま見事なスパイクを決めた。
「なかなかだな。」
「ありがとよ。」
ハッ!そうだな。なかなかどころか、凄かったぞ。
その筋肉が!高く跳んだ時に腹やら背中やらがフワッと見えて、
それが服の上から目測していたよりずっと凄い筋肉が隠れていたのだ!
たまらん!ギュッとしてください、その筋肉で、押しつぶしてください!
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11月30日(金) 12:44
1年3組 教室にて
「よお。」
「おう良助。また来たんだな。そんなに俺に会いたかったかよ?」
達也は純真な瞳を向けてくる。なかなか癒されるな。
恋愛感情を抱いていないにしても、そばに置いておきたい気はするからな。
俺は早々と昼を喰ったが、こいつらはまだ喰い終ってないようだ。
「脇坂ハロハロー。よく来るじゃん。座ったら?」
「大丈夫だ。大した用はない。」
「それに引き替え恒太は来ないな、まったく……あいつ、俺たちの事見捨てやがったのか!」
「野球部の奴らに誘われるらしいぞ。何かあるのかもな。」
達也に同調したい所だったが、あくまで自然に返した。
鈍感な達也は俺の事を信じ切るだろうが、宇野が居るからな。
……急激に落合の不純恋愛が進み始めたのはおかしいと思ったが、
やっぱこの宇野が、アイツを手厚くサポートしたんだろうな。
「ケッ、俺たちより野球部の奴らが良いってか。」
「たまたま用事が重なったんだろ。」
「まったく、後で様子でも見に行ってやろうかね……」
……そうなってはマズいな。
多少強硬手段を取ってでも止めるか。
とりあえず話題を変える事にする。
「もう今日で十一月も終わりだ。明日から十二月だぞ。」
「早いねェ。俺はまたこの一か月何もした覚えがないぜ。」
「文化祭やってたじゃん。アレ結構頑張ってたんじゃね?」
「二ヶ月くらい前の事に感じるぜ……」
「なんだかんだで楽しかったんじゃね?劇とかちょーウケた。」
上手く話題は文化祭の思い出話に変わったようだ。
そういえばあの時、達也は落合と二人で出店回りしてたな……。
あれも内気な落合の提案とは思えないな。
俺はここで終始宇野潰しに専念した方が良いかもしれん。
「……というかもう二、三週間でテストだぜ。やだねまったく。」
「達也最近は成績上がってんじゃん。」
「でもそれは勉強しないと無理だろ?誰か勉強しなくても良い点とれるシステム考えてくれないもんかね。」
「ムリゲーじゃね?」
「そうだ剛司、また勉強教えろよ。」
「あー、別にいーけどさ。」
「良助も来るか?」
「俺は遠慮する。勉強なんてする気にはとてもなれないからな。」
「俺だって最初そうだったけどな。みんなでやるとなかなか楽しいぞ?」
「どうせ水泳のスケジュールと被って集まれないだろ。」
「そうか……お前なかなか大変だな。」
達也はそう言って残った弁当を一気に口にかけこんだ。
口を動かしながらじっと俺を見る。何か言いたげだ。
「テスト前はまた遊べなくなるし、今週の日曜……明後日だな、遊ぶか?」
「そうだな。達也んち行くよ。」
「よし、剛司も来るか?」
「いや俺はいーよ。多分バスケの練習入ってたし。」
「何だお前ら揃って部活エンジョイしやがって!」
「達也はまずサボるのやめたら良いんじゃね?」
……宇野は達也となかなか気が合うようだな。
さて、約束も取り付けたところで、そろそろ帰るか。
「時間だから帰るわ。」
「ああ、じゃあ日曜日な。」
……落合が居なくても、世界は回るのだ。




