俺の嫌いな引っ込み思案(3)
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お疲れ様でーす。豚でーす。
間違えました落合恒太でーす。
終わりの日なう。
「ヴォ、ヴォク的にはいつでも君を待ってたんだよ。」
「寂しかったならそう言わなきゃダメジャナーイ!」
はい、この方たちはですね、えっとちょっと吐きそうなんですけど、
同じクラスの野球部の二人のお友達です。えっと、すごく素敵な方たちです★
「……いや、あの……」
「とにかく今日からはヴォク達と食べよう。ヴォク的には大歓迎さ!」
「……えーっと、そうですね……」
「共に未来の一軍を目指す!前を見なきゃダメジャナーイ!」
あ、はい、そうですね……。
正直これがお似合いです。日の光の当たらない野球部仲間と共に、
じっとりねっとり生きていく立場がお似合いなんです。
……って言ったら誘ってくれた丸山君たちに失礼ですよね。
「ボッチで困ってるって聞いたけど?」って言い方で近づいてきたので、
恐らく脇坂君の差し金だとしても、ですね。
生まれ変わったらマッチョになりたい。
脇坂君なんかひねり潰せるくらいマッチョに。なんでもないです。
昼の至福のひと時を奪われ、寮に戻れば菊池先輩になぶられる日々が、
これからずっと続くかと思うと……鬱になりそうです。
「ハロハロー。今日来なかったね。」
寮に戻り、夕食を取り始めようとすると、目の前に剛司さんが座りました。
まあいつもの事ですね。神様が近くで瞑想をしているのもいつもの事です。
しかし僕が三組に行かなかったことだけが、イレギュラーな事なのです。
そういうイレギュラーさ、という意味で、
剛司さんは心配して下さっているんでしょうね。ありがたいですね。
私のような貧民に、何かしら感情を抱いてくれる事こそが……。
「シンキングタイム長いんじゃね?で、どしたの?疲れてるじゃん。」
「そうですね……。お昼は、野球部の人たちに珍しく誘われたもので……」
助けを求めてはならないという約束に、僕は同意してしまったため、
事情は隠して、事実だけを述べます。
「ふーん。」
あ、その程度の反応ですよね。分かります。
察しの良い剛司さんならば、陰謀に気づいてくれるかと一瞬思いました。
ちょっとだけ期待した私が愚かでした。
「恒太来ないから心配してたら脇坂が来てさ。あいつは野球部の奴らと喰ってたぞって言ってたけど本当だったんじゃん。」
あ、手回し済みでしたか。さすが脇坂君。敵ながら天晴れです。
……なんだかんだ、色々脇坂君のせいにしてますけど、
あの時自分の意見をハッキリ言えてたなら。
脇坂君に意見出来てたなら、きっとこんな事には……。
って意見できるわけ無いじゃないですかちょっとよく考えようよ落合豚君、
ところで脇坂君は達也さんの事好きすぎです!
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11月29日(木) 19:29
脇坂宅にて
『それでね、洋次がさ~。』
「ああ。」
『「あんま体育祭の時のこと覚えとらんのだわ」とか言うからさ~。』
「ああ。」
『「何で?ずっと見てたけど活躍してたよ~。」って言っちゃってね~。』
「ああ。」
『「お前……俺マジ後悔するわ。」とかって言われたからびっくりして~。』
「ああ。」
『「何で?」って聞いたらね~。』
「ああ。」
『「俺もお前の事探してたんだって。やっぱ早く告白すれば良かった」って言われたからさ~。』
「ああ。」
『「それはこっちのセリフだよ~」って言っちゃったんだよね~。』
「そうか。」
……テルは本当になんというか、のほほんとしている。
相談事が多かった頃はまだしも、洋次と付き合い始めてから、
その電話の内容がほとんどのろけ話って。
というか会話の切れ目ごとに「ああ」って言う機械置いておけば、
テルとの電話は成り立ちそうなところが怖いぞ。
『……あ、そういえばさ~。』
「何だ。」
思わずため息をつきそうになった。次のエピソードが始まるのか。
そろそろ勘弁してくれ、と思うが幸せムードのテルには何も言えない。
今度からはテルとの電話を気軽に取るのもやめとくか。
『今日落合呼び出して、何言ってたの~?』
さすがに不意を突かれた。
寝てたと思っていたが、見てたのか。
「大した用事じゃない。」
『えっヨウジ……洋次?』
「寝ぼけるのも大概にしろよ。」
『でも今日、落合って達也たちの所に行かなかったよね~。』
「そうだな。」
隠しきれないな。テルはやはり分かってるやつだ。
ただのお花畑野郎が、長年の片思いを成就させるはずもない。
「最近達也にしつこく迫ってるらしいからな。やめろって言ったんだよ。」
『へ~、達也迷惑がってるの~?』
「俺が勝手に決めた。もしも万が一達也があいつに友情を感じてるなら、自分から会いに来るだろ。」
『確かにね~。なるほどね~。』
どことなく含んだような笑い声が聞こえたのを、俺は聞き逃さなかった。
「何笑ってるんだ。」
『……いや~、達也の事になるとすごいな~と思ってね~。』
「ああ、お前が期待しているような恋愛感情はないからな。」
『え~本当~?』
「本当だ。とりあえず、お前たまには落合を昼飯に誘え。」
『え~、話す事ないよ~。』
「散々お前の話を聞いてやったのは誰だと思ってる。たまには協力しろ。」
『……仕方ないな~。あ、和佳子が呼んでる、ご飯出来たみた~い。』
「またな。」
強引な手を使ったのは充分分かっているつもりだ。
そうだとしても、落合のあの煮え切らない態度は嫌いだ。
俺たちの平和のためにも、勝つための準備はたっぷりさせてもらうぞ。




