俺の嫌いな引っ込み思案(2)
11月29日(木) 12:21
一年五組 教室にて
授業終わりのチャイムが鳴って、昼休みがきた。
右横の方を見ると、落合が机の上の教科書を片づけ始める。
隣でテルがずっと寝てるのも気になったが、今はそれより……。
落合が弁当を出して教室を離れそうになるタイミングで、
俺は落合の目の前に立った。
「……え……あ、すみません移動が遅かったですよね。すぐ行きます……」
「ちょっと待て。」
俺がまたこの席を借りて、テルと昼を食べるんだろうと思ったらしく、
すぐに消えようと立ち上がった落合を、俺は引き留めた。
するとクラスのざわつきと俺たちの会話で、テルがゆっくり顔を起こした。
……こいつに聞かれるべき話でもないな。
「来い。」
「……え?」
「いいから。何もしないから来い。」
一瞬挙動不審になった落合の腕を半ばムリヤリ掴む。
そのまま普段使われることの少ない、廊下の奥の一年会議室の方へ連れて行く。
たまに人が溜まってる事もあるが今日は居なかった。
多量のクエスチョンマークが頭の上に浮いている落合を、そこで留めた。
「……それで……えっと……僕、なにか……」
「いや、そういうわけじゃないが、訊きたい事がある。」
落合は動揺している。少し落ち着かせた方が良い気はするが、
かといってそれを待つほどの余裕は俺にはない。
まず確認しておきたかったことをそのまま言った。
「達也の事、好きなのか?もちろん、友達としてじゃなくてな。」
落合は一瞬固まった後、滝のように汗をかき始めた。
口をパクパクと何か言いたげな、でも言いにくそうに動かした後、
目をそらしながら答えた。
「……別に、そんな事、無いですけど……な、何でですか?」
チッ、逃げられたか。
まあ落合からして見れば、あんま話した事ないヤツに、
自分の正直な気持ちなど言いたくも無いよな。
だがこの反応で確信した。やっぱコイツは達也の事が好きだな。
ところでこれで俺の話は終わりというわけじゃなく、
落合が好きと答えようが嫌いと答えようが関係なく、
次に言う言葉も、その次に言う言葉も決めていた。
「いや別に、ただ、達也はお前の事何とも思ってないぞ。」
「……え……」
落合の顔がみるみる青ざめていく。
血の気が引いていくというのはこういう事なんだなと思うくらいの、
みごとな青ざめ方だった。
まあ真に受ける事は無くても、ちょっとした「疑念」は生まれる。
完全に目が泳いでいる落合に、俺はさらに言葉をかける。
「そうだな、確かめてみようか。」
「……え?」
「お前が達也にいつも会いに行ってんだろ。それをピタリと止めたらどうなるか。分かりやすい実験だろ。」
「……ど、どういう……」
俺が色んな事を言い過ぎて、頭の整理が追い付いてないらしい。
そもそも俺の事を何となく怖がっている様子なので、
こうして呼び出された時から落合はパニックだったのかもしれないな。
だがこいつがパニックならば俺にとってはチャンスだ。
正常な判断力はこういう時ジャマなものだからな。
「もし達也がお前の事何かしら思ってるなら、お前に会いに来るだろ。」
「……た、確かに……そうかもしれません……けど。」
落合は何かもごもごと口を動かした。
よく聞き取れなかったのでスルー。さてここからが本題だ。
「これはゲームだ。一週間以内に達也が会いに来ればお前の勝ち。会いに来なければ俺の勝ち。どうだ。」
「……え……いや……会いに来ませんよ。僕なんかに会いに来るわけないじゃないですか……」
……なるほど、いや、落合がネガティブというのは調査済みだ。
けどこっちはそう言われた時の対処法も考えてるんだ。
「……それは達也を信じないって事か。」
「……はい?」
「達也と今まで一緒に過ごしてきたんなら信じるだろ普通。急に来なくなった友達を、心配して訪ねてくるとは思わないのか。」
「……いや、達也さんが僕を友達だと思ってるかどうかは……」
「じゃあお前は何のためにずっと達也のところに行ってたんだ。勉強も一緒にしてたんだろ。」
「……え……あ……いや……」
「決まりだな。お前が勝ったら、俺は一切口出しをやめてやろう。もし俺が勝ったなら、これからずっとお前の方から達也に会いに行くのを禁止する。いいな。」
少々強引だが、落合の性格では断る事は出来ないだろう。
それを見越した上での計画だ。これは上手くいった。
落合は何か言いたそうだが、それを言葉にすることはなかった。
……引っ込み思案なヤツだ。
「いいな。」
「……あ……はい……分かりました……」
ちょっと怒ったようた声で、俺が繰り返すと、落合はあっさりオーケーした。
もちろん達也の性格上、ここまで足を運ぶという事はあり得ないが、
万が一を考えて色々と対策は練ってある。
まず、頻繁に達也のところに俺が顔を出すつもりだ。
それから……そうだ、重要な事を忘れていた。
「そういえば宇野に協力してもらうのは無しだぞ。」
「……え……」
落合の反応が鈍いのを良い事に、俺はちゃんと付け足しておく。
恐らく様々な場面であの宇野とかいう奴がサポートしてるだろうからな。
「宇野と協力して達也を動かさせるとか……そういうものはなしだ。あくまで達也の意志に任せるんだ。それで一週間以内にお前に会いに来なければ俺の勝ち。良いな。」
「……あ……はい……」
「よし、じゃあ早速今日からにしよう。今日も会いに行くなよ。今から達也のところに行っても、来るのが遅いって思われるだろうからな。もちろんこのゲームの事は誰にも言うなよ。……それじゃあな。」
俺は一足先に五組へと歩き始める。
後ろから落合が歩いて来る音は聞こえないが、まあ良いだろう。
さて、これで俺が勝てば、落合は達也に会いに行かなくなる。
そうすれば達也は順調な学園生活を送る。
筋書きは完璧だった。俺が勝つ自信がある、むしろ自信しかない。
野球部にも協力してもらっている。
これまで好き勝手した分、地獄を味わってもらおうか、落合。




