生徒会選挙に神現る(5)
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一年五組教室にて。
「……さて、どうかな。一応僕の計画通りには進んでいるけど、この時点での好感度はどうなっている?」
夕陽がビルの隙間に落ちかけ、暗い紅が教室に彩られる中、
生徒会長立候補者、渡透は教壇の机に腰を落としていた。
彼の面前には秘書的存在である同じクラスの生徒、「佐久馬 氷紀」が座っており、
どこからか持ち出したノートパソコンを操作している。
「はい、やはり花園総希が高い好感度を示していますが、渡様は彼に続く二位で御座います。しかしながら、立候補者である花園総希、渋谷隼人の二人が推薦代表者と共に二年生である事から、票が割れるのは確実です。その点、渡様は一年生票を確実に集める事が出来ますので、有利な状況には変わりないでしょう。」
「……計画通りだ。いや、計画通りでは無いと言った方が正しいかもしれない。」
「どういう事でしょうか?」
「花園総希はもっと僕に干渉してくるものだと思っていたからね。このまま行くと、実際の信頼度は彼が高くても、生徒会長は簡単に我がものになってしまう。奴はこの危機に気づいていないのか?」
渡透は足を組んで窓の外を見つめる。
先ほどの夕陽はすっかり沈んでしまい、青い空に影が掛かり始める。
渡の表情も、徐々に隠れていく。最後に見えたのは笑みだった。
「いずれにせよ、僕は勝つ。一年生で最も優秀なクラスが五組であると証明するのは易しすぎた。高い目標を乗り越えてこそ、人間の成長価値がある。」
「お供致します。渡様の力添えに、という皆の思いを抱えております。」
「ならば行こう氷紀。誰もたどり着けない高みへ、な。」
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「……と、渡君は思っている事でしょう。」
花園の三つ子三人の一つ上の学年、三人を束ねる「花園 総希」は、
自宅マンションの書斎で、花園優希と向かい合っていた。
彼は渡透が思っているであろう事を予想していた。
あ、もちろん「誰もたどり着けない高みへ」のところは予想できませんでした。
あそこはギャグパートです。異世界パートですね。
「渡君の戦略は、好感度を上げて二・三年生から多少票を得つつ、一年生票を総取りする事。渋谷君が推薦者代表に現図書委員長の西条先輩を選んだ事によって、執行部票は分散し、私と渋谷君はまとまった票数が得られず、潰し合ってしまうわけですね……」
「…………」
彼の前に立つ花園優希は、どことなく緊張しているようだった。
彼女(彼)は口に溜まった唾液を飲み込み、何かを確認しようとした。
その意思を汲み取った花園総希が念を押すように言う。
「元々は「翼」に推薦者代表をやってもらいたかった。去年も私と翼が争う結果になってしまいましたからね。結果としてはどちらも執行部に当選しましたが、今回は二人で協力して会長職を勝ち得たかった……」
花園総希は目線を手元の書類に落とした。
彼は何か手続き表のようなものを書き綴っているようだったが、
書く手を止めて、まっすぐに花園優希を見た。
「しかし、勝てなくては元も子もありません。翼にももう話してありますし、彼も彼で動いてくれます。あとは優希……あなただけです。」
ずっと思いつめた表情をしていた花園優希が、一つうなずくと、
決意を固めた様子でハッキリと言った。
「分かりました。やります、総希お兄ちゃんの、推薦代表者。」
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「副会長、立候補するっす。」
翌日の生徒会室で、現体育委員長青木の前に立候補用紙を突き付けたのは、
彼と共に一年間執行部で働いた書記、「桜塚 翼」だった。
その名は「春風」桜塚紅の兄のものであり、
赤っぽい髪と目の色は同じだったが、彼とは対照的に短髪で、
いかにもさわやか系を絵に描いたような男だった。
「……立候補期間は終わったはずだが……」
突然の立候補に驚いた青木は、静かにそう返す。
当然その反応を知っていたかのように、桜塚翼はふうと一息ついて、
手にしていた封筒の中から、名簿のようなものを取り出した。
二年生を中心に、様々な人物の名前がざっと五十名ほど書かれた、
どうやら署名のように見えた。
「生徒会則第46条。生徒会選挙に関する規則について、立候補期間が終わった場合でも、執行部関係者を除く五十名の署名があれば、立候補を受け付ける事が出来る。この規則に従った結果っすけど。」
青木は生徒手帳を取り出して調べ始める。
背後の室内から、現会長神崎一樹が姿を現した。
「事実だ。よく調べたな。……狂わせる奴だよ、お前は。」
「いや……まあ……(調べたのは総希だけど)そういうわけで副会長に立候補します!」
「しかし翼、お前総希の推薦代表者だろ?そっちは良いのか?」
まだ何となく疑問の尽きない青木元斗が続いて尋ねる。
桜塚翼は少し考えた後で答えた。
「総希は推薦代表者を用意したし、俺は俺で推薦者は五人、もちろん代表者も含めて集めたんで、その辺も大丈夫っす。」
「そうか……まあ、しっかりな!「城崎」にボロ負けしないように、な。」
青木の言葉を聞いて、表情をキリッと変える桜塚翼。
その名は同じ、副会長立候補者――神崎一樹はポリポリと頭を掻く。
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和風の大きな屋敷の、風通しの良い縁側で、
夜闇に照る月を眺めながら、団子を口に運ぶ男の姿があった。
バルガクにおいて生徒会長と対をなす存在と言われており、
選挙ではなく推薦のみで選ばれる役職、「学級委員長」。
その職を現行務める男、「城崎 勝」。
「勝者」の異名を持つ、三年生の完全無欠、絶対的エース――。
「……兄上。先ほど耳にした情報なのですが……」
和服のような恰好に身を包んで、彼の後ろについたのは弟の仁。
今回、副会長にただ一人だけ立候補する予定だった男である。
「……ほう、桜塚翼が花園総希の下を離れ副会長に……つくづく我々の邪魔をする男たちであるな。」
「花園総希との衝突を避けるべく副会長を選んだが、俺も舐められたものです。桜塚翼は俺に勝てる気でいるのでしょうか?」
「……やもしれんが、忘れてはならんぞ仁。今回は余がそちの後ろ盾として控えておる。余が推薦者代表を務めるからには、負けるはずもない。」
「おっしゃる通りで。……では当日はよろしくお願い致します。」
城崎仁はそそくさと彼のそばを後にした。
三年生の定期試験学年トップはほぼ城崎勝であるが、
二年生における学年トップは決まって花園総希であり、
城崎仁は常に二番手の座についてきた。
一年生では城崎家末の妹、「城崎 弓」が一位だったが、
それも花園優希によって王冠を奪われてしまった。
その事を思い出したかのように席を立った城崎勝は、弓の部屋へ向かう。
「弓。勉強は進んでおるか?」
彼女の部屋の襖を開けた城崎勝は、丁寧に頭を下げる彼女にそう尋ねた。
少し焦った様子で城崎弓が答える。
「はい、一通りは……」
「覚悟が足りぬぞ弓。また一位を本気で取り返すのだ。我らが城崎家が、花園とかいう知名度の無い一族に負けるわけにはいかんぞ。」
「……は、はい……精進します。」
再び頭を下げた城崎弓の表情には、
何か言い知れぬ不安や緊張のようなものが走ったように見えた――。
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