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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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幼なじみの衝撃(6)

 9月 3日 (月) 16:25


ホームルームが終わってぼんやりと日の光が弱まり、

部活に行く連中の波が去ったころに俺も席を立った。


「タツヤお疲れー。」


指定の鞄と、バスケ用具が入ってると思われるスポーツバッグを、

重そうに持ったツヨシが近づいてきた。

俺の周りの人間に三文字の名前が多いことをここでお詫び申し上げたい。

ヨウジはともかく、ハロハロツヨシ、ネガティブコウタとでも呼ぼうか。

そのハロハロツヨシが俺の前で立ち止まっている。

そう、いつも下駄箱までは一緒に歩いているのだ。ぼっちにはありがたい。


階段を降り始めた時に、ハロハロツヨシが訊いてきた。


「けっこー考えてるね。テル君とヨウジ君の事?」


しばらく何もしゃべらないで居た事に気づかなかった。

そこまで俺の脳はあの二人の事に支配されているのだろうか。


「別に邪魔って言われてるわけじゃないなら良いじゃん?」

「いや、これからの俺の立ち位置を心配してるわけではないがな。」

「じゃあ何を心配してんの?」


そうだな。俺は何を心配しているんだろう。


「もう少し早く話してくれれば良かったのに、とか?」

「……俺にも分からんな。」

「ま、いきなりの状況に慣れてないだけじゃん?」

「そうかもな。……部活頑張って来いよ。」

「タツヤは今度から部活出ようか。」

「聞こえんな。」



そんなこんなで帰路につく。真面目に、俺も今度たまには部活に出るかな。

帰宅部の少ないうちの学校だ。部活に出なければ自然とぼっちになる。

かと言って部活の奴らと友達になりたいわけじゃないんだがな。


目の前に、見覚えのある背格好。デジャヴだな。

だが今日は一人だった。そう、テル一人。

さっき用事があって部活に出ないとか言ってたな。声を掛けとくか。


「話の通り、テルは今日早帰りだな。」

「……あ、タツヤ~。タツヤも話してた通りサボリだね~。」

「何のことやら。」


そこでぴたりと会話が止まった。

……そういえばこいつとは旬の話題が例の件しかない。

全く当たり障りのない話を、俺は脳内探しまわった。


「今日のお前の用事って?」

「……大したことないんだけど、ちょっとね~。」


ここで俺は上手い返しを思いついた。若干寒い返しではあるが、

少しずつこの環境に慣れていけそうな返しだ。

気を遣いすぎるのも悪いし、言ってみるか。


「ヨウジと用事か?」

「……それダジャレ?すごい寒いし、ヨウジと用事なんてあるわけないし~。」


……ん?


「あるわけなくはないだろ、付き合ってるんだし。」

「…………」


しまった。追究すべき部分では無かった。

我ながら墓穴を掘った。今日は墓穴を掘り過ぎてマントルに届きそうな位だ。




「付き合ってないんだ~。」



さすがにその一言を言われた瞬間、俺は平常心を保つことは出来なかった。

テルは笑顔だった。困った表情もしていなかった。


「これからウソにウソを重ねる気がするから、早いうちに話しとくね~。」


……これまで悩んだ俺の苦労はどこへやら。

ずいぶんあっさりと、これまでの俺の思考を否定された気分だ。

当然俺の中には巨大なモヤモヤが残っている。


「ヨウジにもOK出てるしね~。あの時はああ言っちゃったけど、付き合ってるっていうのは真っ赤な嘘だよ~。」


「あの時」という単語で俺は思い出す。


「……お前らキスしてただろ?あれは何だったんだ?」

「めったにキスなんてしないんだけどね~。あの時はちょっと事情が色々あったんだ~。」

「友達同士でキスする事情ってどういう事情だよ。」


今の俺の突っ込みは全面的に正しいと思う。

いくらなんでも付き合ってるって事実はくつがえせないはずだ。

俺はバッチリ証拠現場のキスシーンを見てしまったのだから。

テルはふうと一息ついて、笑顔で言った。


「ヨウジとはセフレなんだ~。」



……は?

テルの言葉は俺にとって理解するには難しいものだった。何度かその言葉を反芻して、徐々に理解に到達する。



「いきなりセフレって言ったら、タツヤきっと引くからさ、付き合ってるって嘘を挟んだんだ~。その時はそのまま嘘を突き通すつもりだったけど、タツヤ意外と訊いて来るからね~。」


テルのテンションは微塵もぶれない。

テルはあのお花畑的な雰囲気を持ちながらも、

「セフレ」という彼に似合わない単語が彼の口から飛び出してくる。

対する俺は動揺しまくっている。ちょっと考える時間が欲しい。


「だからデートとかには行かない~。たまに家で会ってHするだけだよ~。」


またまた大胆な言葉がテルから飛び出す。

こいつは性行為が何たるかを知らない純粋っ子だと思っていれば、

俺よりどうも経験豊富らしい。

ちょっとズレている気もしなくはないが。

……しかしテルの言葉には、何となく納得がいってしまった。

こいつらの普段の会話から恋人らしさが微塵も感じなかった事と、

このまま俺が二人と一緒に居るのも可能だという事と、

妙に「友達の延長」という言葉が強調されて聞こえてきた事、

その全てに説明がいった気がする。

「フレンド」なのだ。その前に四文字のカタカナが必要ではあるが。


「……時期は一年前から?」

「そうだよ~。」

「……で、訊きづらいんだがどういった理由でプレイを始めたんだ?」


さすがに踏み込み過ぎたか。テルからの回答は遅い。

というか俺もそんな事を訊いてどうするつもりなんだ。

最近は自分で自分の考えている事がよく分からなくて恐ろしい。


「……引くかもしれないけど良い~?あ、もう引いてるか~。」

「いや、別に個人の自由だと思うから引いてないが……まあ別に良いぞ。」


テルは純真な笑みを携えて、ただしお花畑を踏みにじるかのように、クセっけのある前髪をかきわけながら言った。



「気持ちいから~。」


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