追憶の彼方に(9)
夕陽がテルの茶髪に赤みを加えていた。しかし彼の頬が赤いのは、きっと夕陽のせいでは無かった。
しばらく俺たちは見つめあった後、テルは俺に背を向けた。俺は思わず口が動かなかった。目の前の、今起きているこの状況が、まるで異世界を体験しているかのように、信じられなかった。
「……戻ろう」
テルは俺に背を向けて、返事を待つことなく歩き始めた。……待ってくれ。肝心なことが、言えてないじゃないか。おい、テル、待ってくれよ。
テルの振った左手首を、後ろから掴んだ。テルはゆっくり振り返った。もう片足は、階段に続くドアに向かって踏み出している。俺も慌てて追ったから、息が荒かった。もちろん荒いのは、他にも理由があった。テルの目には涙が溜まっているようだった。
「……何?」
テルは悲しげに笑った。そんな顔を、しないでくれ。俺は先ほど飲み込んだ言葉を取り戻すのに必死だった。一度額から湧き出す汗を拭いて、息を吸い込んで言った。
「俺だって、好きだ」
それを言う事だけで、精一杯だった。あとは口が動かない。力の抜けたテルの腕を引き寄せて、その場で抱きしめた。強く強く、けれど優しく。俺の肩に置かれたテルの顔が、徐々に濡れていく。
「……友達としての、意味じゃ、無いんだよ?」
「当たり前だ! 分かってるよ」
テルの声に嗚咽が混じる。俺は優しくテルの背中をなでた。神様が存在するのだとすれば、俺はこの日今までで一番、感謝するだろう。俺がどのようにテルに惚れていったか、聞かせてやりたかったが、今それをする事は憚られた。声をあげて泣くテルの頭を優しく支え、俺は言葉を付け足した。
「代わりなんかじゃない、お前自身をこうして抱いていたいんだ」
「……うん」
テルは涙でくしゃくしゃになった顔を、恥ずかしそうにこちらに見せた。そして、今までで一番の、満面の笑みを浮かべた。俺はずっと、あの日からずっと、お前のこの笑顔が、見たかったんだ――。
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「住田はどこや!クソ忙しい片付けの時間に消えやがってあのヤロー!」
「あの、飯島?キャラ違って俺すげェ怖いんだけど。」
「黙らっしゃい!サボりは罰する!竜飛くん、アンタかくまってんじゃないでしょうね!!」
「いや、そんな事してねェって、おい脱がすな!!」
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「……最も忙しい片付けの時間に帰ってこないとは。月山和輝、ただでさえ低い彼の評価は、さらに下げざるを得ないな。」
「お、お待ち下さい渡様!きっとどこかで何かトラブルに……」
「落合恒太。君は犯罪者を庇うのか?ならば君の点数も、比例して下がる事になるけど、それで良いのかな?」
「え……待って下さい渡様、せっかく稼いできた点数が。」
「ならばもう一度聞こうか、月山の件について何か弁解はあるか?」
「全く塵もホコリも有りません。渡様の仰せの通りに。」
「それで構わないよ。さあみんな、急ぐのだ。学年表彰には片付けに要する時間も含まれるのだからね……」
ごめんねテル君!僕、君のこと忘れないから!敬礼!
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「今日、どっか行くか……?」
屋上のベンチに腰掛け、夕陽を見る俺たち。テルは俺の肩に頭をのせて、俺に身を委ねている。結果的にあの頃の仲に、いやあの頃以上の仲になっていた。テルが一度首を起こして、横に振る。
「……洋次の家……」
「……ま、いいけど……」
今日もバルガクの陽が暮れる。
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11月13日(火) 8:09
さて、またもや俺が主人公になったようだ。タツヤだぜ。
すっかり文化祭は終わってしまったが、俺は一つ文句を言いたい事がある。
文化祭の代休が一日しかないとは何事だ。
世の高校生がそんなに真面目に勉強しくさると思うなよ。
「おっすタツヤ!今日も元気そうだな!」
元気そうなのはお前だヨウジ。いつにも増してニコニコしやがって。
いかにもどうしたのかと聞いてほしそうな表情をしている。
残念ながらそれを素直にどうしたのかと聞くほど、
俺は甘くはないのだ。ふははははは。
「文化祭は楽しかったよな!最後の夕陽が綺麗だったろ!見たか!」
「別に見てないが……」
「そうか!見たら良かったのにな!」
いちいちビックリマークつけてんじゃねえよウルサイな。
洋次に明らかに良い事があったのだとハッキリ分かったが、
それでも聞いてはやらないのだ。ふはははははは。
「おはよ~、ヨウジ~。」
後ろからテルが合流した。あれ、俺への挨拶はどうした。
と思って横を見ると、テルとヨウジがあっついあっつい口付けをかましていた。
ふははははははは。さすがに聞くわ。あと引くわ。
「……な、何だよそんな大っぴらに、お前ら……」
「付き合うことになったんだ~、よろしくね~。」
「そうなんだよ!いやー長年のお互いの思いが通じてなあ……」
「実はな……一昨日の文化祭から、ずっと俺んちで一緒に居るんだぜ。もちろん夜も……」
「え、ヨウジダメだよ~。もうヨウジは~。」
ヨウジの軽い一言に、小突くテル。テルの顔は若干赤い。
それからヨウジはテルの首元に手を置いて、再び深くキスをした。
「ふははははははは。愉快愉快。」
「た、タツヤ~!」
「タツヤがお壊れに!」
「まあなんだ、良かったんじゃないのか?セフレとかって謎の関係よりも、俺にはその付き合ってるって事の方が納得だ。」
「そうか!まあこれからも応援してくれよ!」
「……タツヤ、今まで迷惑掛けてごめんね~。色々酷い事も言ったよね~。」
「ん?何の事かな。まあお前たちが幸せならそれで良いよ。」
テルがブチギレたあの日(第十話参照)の事は正直黒歴史だ。
テルのイメージが180度変わってすごく恐ろしかった。
今では結構ギャグに出来るけど、マジでしばらく悪夢を見たぜ。
「ありがとタツヤ~、それじゃあよろしくね~。」
テルはそう答えながら、こっちを見ていなかった。
見ている先はもちろんヨウジの顔。二人は再び顔を近づけ、熱い口づけを……
「ああお前ら、うっとうしいからイチャイチャはやめてくれ!」
幼馴染として過ごしてきた俺の中でのこいつらのイメージは、
一部の初めごろ、いや九月の頭ごろから比べるとかなり変わってしまった。
しかしながら、まあ高校生が日々成長していくなんて、
いかにも青春らしくて俺は良いと思う。
……俺にはそんな機会無いけどな!




