追憶の彼方に(7)
11月11日(日) 12:29
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どうもこんにちは。幸せ者です。幸せすぎて今日は朝四回吐きました。
今日が終わったあとならいつ死んでも構いません。幸せです。
ハッピーボーイです。こんな幸せは永久に来ることはないでしょう。
「待たせたな。何ボケーッと突っ立ってんだよ。」
あ、私幸せを噛み締めておりました。意識が飛びそうでした。
「すいません……あ、達也さんもうお昼は食べられましたか?」
「いや、一緒に食おうぜ。グラウンドの屋台でも回ってみるか。」
「そうですね……」
僕たちは二人で肩を並べて歩き出しました。
すごいですよね。しかも達也さんからのお誘いですよ。
あれ、帰ったらものすごい不幸でも待ってるんですかね。
菊池先輩がブチ切れてて包丁持ち出してくるとか。
あ、それは結構今までにもあったかも★
「一年生はポテト、チョコバナナ、わたがし、お好み焼き、ポップコーンってどれもお菓子的な要素が強いよな、後で回るか。上級生のラーメンとか焼きそばとか回ろうぜ。」
「そうですね……いろいろ見てみましょう。」
かくかくしかじかで色々食べ歩きしました。
結構どのクラスもやたら凝ってて、オリジナリティが出てて、
どれも美味しかったです。各学年総合優勝がかかってるから皆さん必死です。
私といえば劇につきっきりで屋台の方の苦労は全然知らないので、
うちのクラスが、今どういう状況になっているのかさえ全く知りません。
「一年生は一組のポテトと五組のポップコーンが席巻してるらしいぞ。」
「よく分かりませんが行ってみましょうか。」
「ポテト美味しいよ! さあみなさん買って買って! はいはいどうぞどうぞ!」
私の百倍くらい大きい声で、小さい体なのにガンガン宣伝する、
荒川さんが一組の前に立ってます。
彼女に目をつけられた僕たちは、すごい勢いで彼女に捕まります。
「さ、お兄さん達も買った買った♪」
「お兄さんって、同じ学年ですけど……」
「もう!そんなの分かってるってば! 落合くんったら♪」
荒川さんはショートヘアで小顔で、ウインクして愛嬌をふりまく、
なんというか中学生アイドルみたいな存在です。
僕なんかの名前を何で知ってるのか不思議でしたが、
彼女は道行く生徒を全員名前で呼んでます。覚えてるんだ。この子神だわ。
さて、本題はポテトと思い、僕らは屋台に近づきます。
「ポテトね、SとLがあるけどどっちにする? Lがオススメだけど。」
柔らかそうな白い肌に、茶髪を後ろで縛った美女、に見間違える男、
花園優希さんが、僕たちに身を乗り出して聞いてきました。
勢いにのまれて、思わずLを注文します。
「はい、ありがとね! 500円です~、勝村くんお願い!」
「はいはい……では千円お預かりします。五百円のお返しです。」
これまた有名度で言えば学年で五本の指には入る男、勝村幸夫。
鬼のように厳しい生活委員と聞いていましたが、まるで牙が抜けたようです。
ただ表情は何となく冷たい顔をしてました。
あれ、なんかその、インパクトに色々持って行かれて、
達也さんも僕も口をあんぐり開けていました。
彼らは全員いわゆる「学年の中心」であり、
隅っこ族の私たちからは非常にまぶしい存在であります。
「……まあ、それじゃあ五組行ってみるか。」
「はい、えーっと確か今のシフトは……」
「いい働きぶりだねぃ落合恒太。顧客を掴んでくるとはねぃ。」
「あ、舞空様本当ですか。ありがとうございます。」
「……お前らのクラスってホント何なんだよ……」
「渡は君の評価を上げるだろうよぅ。これからも頑張り給えよぅ。」
「ありがたき幸せ、精進します。」
「……お前のキャラ、五組に合ってるな……」
達也さんには完全に変な目で見られてしまいましたが、
幹部の舞空様に定例の挨拶を済ませた後で、さてポップコーンを買おうと、
目の前を見上げると巨塔が。
「……三百円。」
脇坂くんこんにちはー!あ、ものすごい不幸見つけたわ。
純粋な達也さんは楽しそうに笑ってます。
「よう良助、お前ちゃんと働いてんだな。」
「まあな。ところで隣の男は俺たちが必死で働いてるところに冷やかしか。」
「いえ違います。すみません人違いです。全てが違います。」
そのへんのマスコットキャラの着ぐるみを奪って被りました。
私はみんな大好きマスコットのティティーちゃんです★
「どうした恒太?大丈夫か?」
あ、達也さんのせいで全部台無しに。あ、これはオワタコース。
「せっかくここまで来たんなら、少しは働いていこうか。」
「……分かりました、精進します。」
天国はこの時終わったのです。これからは地獄のスパルタ修行★
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昼を食べてない俺たちは、さすがに腹が減ってきたので、二年生フロアのアナログカフェなる喫茶店に入る事にした。店の装飾は古いものに統一されており、ラジオのような機械から古い音楽が流れていて、カウンターにはマスターに話しかける一人客が座っている。似たような喫茶店をやって来た身としては、ここまで雰囲気を作り上げられるのはさすが上級生だと感じた。
「すげぇな! 凝ってるわ……」
「そうだね、洋次何食べる?」
「ああ、サンドイッチセットかな? 結構量ありそうだしな」
テルに急かされているように感じたので、俺は手に取ったメニューで真っ先に目に入ったサンドイッチセットを選んだ。隣に画像がついていたが、遅い昼食にはちょうどいい量で、値段は高いが上手そうだった。
「僕も同じものにするよ」
「お前好き嫌い大丈夫か?」
「無理そうだったら、洋次にあげる」
メニューを覗き込んでいたテルが顔を上げ、その茶髪がふんわりと浮いた。テルのワガママは可愛い。むしろ、頼ってくれている気がして、今の俺には嬉しいものだった。俺は少し古っぽい格好をした店員さんに声を掛け、注文を頼んだ。中には俺の陸上部の先輩や、テルの吹奏楽部の先輩も居たが、声をかけてはこなかった。完全に店と客の関係を演出しているのだろうか。知り合いが来るたびにテンションを上げていた俺と比べて、意識が高いと思った。
料理は調理室で作ってあるものだろうから、割とすぐに運ばれてきた。少し暖かいサンドイッチは、なかなか美味しかったものの、料理のレベルは桜塚率いる俺たち一年二組の方が上のような気がした。
「料理は勝ったかもな」
「そうなんだ、二組は頑張ってるんだね」
俺のクラスに行ってみたい、とかは言ってくれなかったが、徐々に、変な力の入ってない笑い方に変わってくれているだけで嬉しかった。そもそもテルは適当な奴なのだから、こちらから求めても得られるものは少ないんだ。俺たちはこれからどうするか話し合って、もう少し遊べるようなところを見て回った上で、学園祭の期間だけ解放される屋上に行ってみよう、という事になった。
俺たちは、毎朝するようなたわいもない話をしながら歩き回ったが、それだけで価値があるものだな、と今の俺には思えた。友達としてなら、少しずつやりなおせるかもしれない…… そんな希望を叶えるために、俺はある決意をしなければならなかった。




