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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
49/181

追憶の彼方に(5)

 11月10日(土) 15:12


  ○   ○   ○   ○   ○   ○


ふう。また俺が主人公回か。人気者は辛いぜ。みんな大好きタツヤ様だ。

「禁断の愛」とか何とかいう、一組の誰かさんが書いた劇を見終わって、

今はツヨシと一緒にいるわけだ。

そうしてコウタが出てくるのを待ってるんだが……やたら遅いな。


「あいつひょっとして女子と楽しくお喋りしてるんじゃないだろうな!チクショウ!俺たちを裏切りやがって!」

「その勝手な妄想やめた方が良いんじゃね?コウタは片付けだってあるし、終わったからってすぐには出てこないよ。仕方ないじゃん。」

「……ところでツヨシよ、劇の感想はどうだ。」

「主演の花園優希の演技が若干クサかったけど、女にしか見えなかったじゃん。大体みんな服装も違うし演技に力入ってて誰が誰か分かんなかったよね。」

「そうだな。俺は主役の志藤がウザかったな。あいつあんなイケメンだったら苦労しないだろうな……クソッ!」

「それは劇関係なくただの私怨じゃね?」


そうこう話しているうちに、体育館の裏口から頭を下げながらコウタが現れた。

俺たちの姿を見て驚いているようだ。


「どうしたんですか?お久しぶりです……」

「いや、劇を見てたんだよ。お前が体育館の二階から照明動かしてたのも見てたぜ。」

「え、あ、そうですか。操作が分からなくて困ってた所も見られたって事ですね分かります。」

「コウタ全体的にネガティブ過ぎじゃね?良かったと思うよ。」


何を言っても頭を下げ続けるコウタは、これはこれでいつも通りだった。

ただ少し、コウタがいつもより焦っているように見える。


「実は……今、飲み物買いに出ただけでして、まだ衣装とか色々片付けがあるので、あまり話せないんです……。本当にすみません。」

「そうなのか。やっぱ劇やるのは面白そうだけど大変そうだな。」

「はい……すみません。」

「あ、これ飲むか?遠くに買いに行くのも面倒だろ。」


片手に三分の一しか手をつけてないメロンソーダを持っていた俺は、

それに気づいてすぐ、何の気なくコウタに差し出した。

コウタは一瞬何故かぎょっとした表情をしたが、それを受け取った。


「え、あ、ありがとうございます。い、いただきますね。」

「ん?……ヘッ、悪かったな!俺の汚い唇が触れててよ!」

「いえ、そんな……大丈夫です。ありがとうございます。」


大方間接キスの事を気にしたんだろう。

確かに、人が飲んだ物なんて嫌な奴は嫌だよな。

ツヨシは何故か黙って俺たちのやり取りを見守っている。


「じゃあ片付け頑張れよ。俺はこれから迷路の受付行くからな。」

「俺もやっぱ屋台の様子見てきて手伝ってくるよ。みんな大変そうじゃん。」

「……そうですね、じゃあ今日はお開きという事で……」


ツヨシは殊勝な奴で、明日一日中シフト入れられている代わりに得た、

今日一日の休みも屋台に費やすようだ。とても真似出来ないぜ。

それはつまりよく考えたら明日俺はぼっちになってしまうという事だ。


「おいコウタ、お前明日は何かシフト入ってるか?」

「いえ……屋台担当ではないので、明日はまる一日フリーです……」

「なら二人で色々見てまわろうぜ。俺も午後空いてるし、ツヨシ忙しいしさ。」


一瞬時が止まったかと思った。

そう思わせたのは、コウタがすべての動きを止めたことによるものだった。

コウタは数秒後、石像のようになってしまった顔の口の部分だけ、やっと動かした。


「……あ、はい、あ、分かりました。それでは、あ、また、明日。」

「おう、またな。」



  ○   ○   ○   ○   ○   ○




荒川彩(アラカワサイ)が、客席の最前列で劇を見ていた飯島光と抱き合って喜んでいる。

……劇が成功したことを大げさに喜んでいるのだろう。

けれど僕には、きっと訪ねてくるような人間は居ない。

良助はずっと屋台につきっきりだし、例え良助が居たとしても、

彼が、特別感動を分かち合う相手だというわけでもなく、

何らかの感動を僕が覚えたわけでもないから、黙って片付けを続けていた。


安っぽい衣装を着た二年生が、次の準備をするために、

僕らが中にいるにも関わらず、追い出すかのようにずかずかと入ってくる。

どうして上級生というものは、生まれてきたのが数年早いだけで、

こんなにも偉そうな顔ができるのだろう。僕には不思議でならない。

その群衆の中には、今回主演女優をはると家で豪語していた姉和佳子の、

大げさな衣装に身を包んだ姿も見受けられたので、

より嫌な感情がこみ上げてくるのを感じながら、足早に外へ出た。




「おっすテル!」


だから、僕は体育館の外に一歩踏み出した後、

早速そこで待っていた彼に声を掛けられたとき、とても驚いた。


「……どうしたの~?」


「真実」を認識して以来、僕はまともに洋次の顔が見れなくなり、

なるべく洋次の顔以外の場所を見るようにして僕は尋ねた。


「劇見たぞ!お前結構エキストラとして活躍してたじゃないか!」

「エキストラって活躍したって言わないでしょ~。」

「いや、なんかそれっぽくて良かった。テル、その衣装似合うぜ。」

「……ありがと~。」


それは、晩餐会に集まる一貴族の煌びやかな衣装だった。

こんな派手な衣装が、地味な自分に似合っているとは思わないが、

気を引きたいがためのお世辞はまだ続いているんだなとは思った。


「テル、今日はこれからどうすんの?」

「まだ片付けが残ってるから忙しいんだ~。」

「そうか、じゃあ明日は?」


洋次がやたら僕の予定を気にしてくる。

ただの話題作りをしたいだけなら、黙っててくれる方が良いのに。


「明日は別に、予定ないけど~。」

「じゃあ俺と一緒に文化祭回ろうぜ。俺も明日はもう仕事ねえからさ!」


……これは、一体どういう風の吹き回しだろうか。

どうせ会話なんて長くは続かないんだ。

僕を後々利用したいがための行動なら、そう言ってくれれば良い。

彼の強引さは重々承知しているから、

身体を使わせてくれと一言言うならば、適度に相手するのに。


……お願いだから、こんなに胸が痛むような事を言わないで。



「……分かった~。」

「よし、決まりだな!……たまには二人でブラブラ歩くのも、良いだろ。」

「そうだね~。」


前髪が気になってくる。今日はいつにも増して髪が絡んでいる。

苦痛だ。二人でブラブラなんて、耐えられる気がしない。

……僕は思わずそこで彼の表情を見た。

いつもの笑顔には変わりなかったが、少し強ばっているようにも見えた。


――嫌なんだったら、しなくても良いのに。

僕はたまに、思ったことを全て口に出したくなる。

ほとんどを隠している分、余計に。

でも言ってしまえば、何もかもが崩れてしまう。

それをわかっているから、僕は言わない。


彼と別れ、僕は複雑な気持ちを抱えて、教室へと戻った。

いっそ明日なんか、来なければ良いのに――。


  ○   ○   ○   ○   ○   ○

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