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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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追憶の彼方に(4)

 11月10日(土) 8:26


 慌ててショッピングモールに買い出しに向かう俺と龍馬は、面倒な仕事ながらも、これから始まる文化祭をなんだかんだ楽しみにしていた。今日は学校に着いた時から装飾が施された屋台に圧倒され、学校中の様子がざわつき、浮き足立っているようだった。


「「松が草」ってあるけど、実際は文化祭本番も楽しいよなァ!」

「……「松が草」?」

「何かあるじゃん!準備してるうちが一番楽しいみたいなさ!」

「ああ、それは「待つが花」だ!」


 テストは学年最下位らしい龍馬の実力も垣間見たところで、ショッピングモールに着いた俺たちは、バナナを大量に補充し、店員には体育会系の男二人がバナナを大量に買う異様な光景を見られたが、役目は果たした。

 それからまた復路に着き、学校を見返すと、生徒会やらなんやらの展示だろう「おいでよバルガク文化祭」という大きな風船が上がっていた。噂通りの凝った文化祭だ。わいわいと騒ぎ声が学校から少し離れたここまで聞こえてくる。


「買い出し組さんお疲れ様!」


 教室に戻ると、俺と龍馬を出迎えたのは飯島だった。彼女はバニーガールに変身して、露出の多い衣装を堂々と着こなしていた。他の女子たちがこの衣装を着ねばならない事に比べたら、俺たち男子の衣装はまだマシかもしれない。


「というわけで猫のコスプレしてくれる? 竜飛君も住田君もシフトは一番最初でしょ?」

「げえっ! 猫のコスプレあるんだった! すっかり忘れてたぜ!」

「竜飛君は問答無用で着てください。あなたは重要な戦力なんです」

「な、何か飯島目が怖くないか?」

「着ろォォォォォォ!!」

「ふ、ふざけんなァァァァァ!!」


 飯島と龍馬が乱闘し始めたところで、俺はやむなく無抵抗に猫の衣装を受け取った。やっぱり嫌だ。女子も嫌だろうが俺だって嫌だ。疑問なのは腹の部分がすっかり穴が空いている事だ。素肌を晒せというのだろうか。

 周りを見渡してみると、約半数の男子がコスプレを着用している。黒いシャツを着て肌を隠しているものもいれば、堂々と胸の下部から腹周りを晒しているものも居る。さすがに筋肉を露出させる趣味は無かったので、俺は白シャツを着たままコスプレを身にまとった。

 ふと横を見ると、飯島が無理やり龍馬の服を脱がしにかかっている。あれはあれで危ないのではなかろうか。そんな事を思ってると、飯島が動きを止めた。


「あっ、そろそろ開場時間じゃん! ちょっと私は客引きに行ってくるから、調理と接客の管轄は外川さんしばらくお願い!」

「あ、はい。飯島さん頑張って」

「もちろん! それじゃ紅、行きましょう!」


 名前を呼ばれた桜塚は、近くで屋台に持って降りる荷物を探す途中で、まさか呼ばれると思ってなかったらしく、キョトンとした顔で飯島を見つめる。


「え、自分屋台の準備があるんだけど……」

「そんなの秋山君に任せとけばいいじゃない!」

「秋山を悪用しすぎだよ」


 そんなこんなで飯島に無理矢理連れて行かれる形で、桜塚も階段を下りて行った。彼氏の秋山の仕事が増えるばかりだ。慌ただしい二人を見ていると、周りも同じように慌ただしい様子だという事に気づく。開店まであと五分を切っていた。

 調理室の一年二組ブースでは調理組が、このアニマル喫茶で出す予定の料理の最終チェックを重ねている。俺や龍馬ら準備組は、他五、六名の男子と共に急いで机を動かしたりゴミを片付けたりした。傍から見たら猫コスプレをした男たちが教室内を徘徊する危険な状態だ。

 外川は日頃から落ち着きのある女子で、教室内を見渡しつつ物品を持ち動き回る他の生徒に指示を送る。ただし服装はバニーガールだ。


「ああ、それはあちらね。調理組のところに持って行ってあげて下さい。それから誰かテーブルクロスを敷いてくれませんか? そのあと後ろにメニュー表をまとめて置いてあるから全ての机に配置して下さい」


 俺たちが慌ただしく動き回ったおかげで、何とかアニマル喫茶としての体裁は整った。あとは開場を待つばかりだ。そう思ってると正門の方からクラッカーの音が鳴り響き、「いらっしゃーい」という声が一斉に上がった。開場の合図だった。

 チラと正門を見ると、バニーの格好をした飯島がとびきり目立っており、大声で「アニマル喫茶へいらっしゃい!」と客引きをしているようだった。一組に荒川というこれまた騒がしい女子がいるが、飯島はそれと仲良しトップ2だろう。今さら、格好が恥ずかしくなったのか縮こまっている桜塚が何ともかわいそうだ。


「あ、いらっしゃいませ」


 外に気を取られていると、客第一号が来たようだ。まだ周りもバタバタしており、随分早い気もするが。外川が席に案内する。見覚えのある男二人組だ。


「……達也と宇野かよ!」

「よう洋次。早速俺たちはハブられて休みをもらっちまったよ」

「ってか住田その格好ヤバくね? ただの変態じゃん」


 確かに第一号は隣のクラスの奴になるに決まってるか、と考えたらこいつらが第一号になる事は予想できても良かった。他のスタッフから目配せされ、俺の知り合いということで俺が接客を担当する。


「ご注文はいかがニャさいますか?」

「洋次、頭おかしくなったんじゃないのか?」

「必死で頑張ってんじゃん。すごいね」


 若干死にたい。宇野の冷めた感想が逆に俺の心をえぐった。達也がホットコーヒーとオレンジクッキー、宇野がアップルティーと苺のショートケーキを注文すると、調理組があらかじめ作っておいたケーキを俺が切り分け、クッキーを皿に盛り、その間に横で龍馬がドリンクを準備した。プレートに入れてのんびりくつろぐ二人のもとへ運ぶ。


「お待たせしみゃした」

「洋次、もはやヤケクソだな」

「ってか台詞考えたの誰? 「しみゃした」は無理があるんじゃね?」

「早速疲れたよ!」


 まだ客がほとんど来ていないことをいい事に、二人と同じ席に俺は着いた。働けよと達也たちに突っ込まれたが、とりあえず一息つかせてもらう。宇野はケーキを一口食べるなり「うまいじゃん」と言って食べ続けたが、達也は自分のクッキーや、宇野の食べているケーキを見て、口には出さないが感動しているようだった。確かに俺も、調理組はやたら頑張りすぎていると思う。どれもこれも桜塚の神フォローのおかげか。

 飯島もそれは理解しているので、一通り人を呼び終わったあとは桜塚を解放しており、グラウンド側の窓を見ると、猫姿の桜塚がすでに屋台の手伝いに到着したようだ。この教室からでもよく目立って見えた。


「劇って一時半からだろ? 一年生は最初だよな?」

「そうだな! 俺もその頃には全部仕事終えて劇に向かうよ」

「今も恒太やテルくんリョースケくんは劇の準備頑張ってんじゃね?」

「こんな早くからやるのか?」

「衣装合わせとか照明のチェックとか大変らしいじゃん。しかも上級生と同じ機材を使うから、その順番待ちもわざわざ体育館で待ってなきゃいけないし」

「……テルも頑張ってんだな」


 思わずテルの顔が浮かんだ。よく考えたら五組に遊びに行ったことが無い。あいつは五組で誰かと仲良くしているのだろうか。まあ良助もあそこに居るから変な奴に絡まれる事はないだろうが。と、いつの間にか俺がボーッとしてると、宇野はニヤニヤと笑っている。


「なんか住田って意外とテルくんとラブラブじゃね?」

「ん、そうなのか洋次?」

「いや、別に…… ってか食べ終わったならお前ら出てけ!」

「住田頑張ってニャン。ちょー受ける」

「宇野てめェこら」


 最後まで俺はからかわれながら、最初の客二人を追い出した。確かにこの設定には若干無理があると思うが、あの飯島にはだれも逆らえないので、みんないつしか吹っ切れていた。というのも、あの二人が帰るか帰らないかのタイミングで客が次々とやって来て、その応対をしている間に慣れてしまったのだ。

 それから昼に差し掛かるにつれ、アニマル喫茶はさらに盛況を呈した。俺はそれこそ猫の様にせわしなく動き回ってウェイター係をこなしたが、正門での客引きから戻ってきた飯島の動きには感心させられた。教室の入り口で度々廊下に声を掛けつつ、店内を常にチェックして空いたグラスがあれば水を汲み、調理室に足を運んではキッチンとの橋渡しをし、どこでも笑顔を振りまいていた。ただし恰好はバニーガールだ。

 時刻が一時半に差し掛かった時、副リーダー役の外川が飯島に声を掛けた。


「飯島さん、そろそろ休んだら?」

「えっ、大丈夫大丈夫! これくらい、みなぎる体力で乗り切れるわ!」

「そうだけど、でも一組の劇、始まる時間だし……お客さんも減ると思うな」


 一年一組の劇。それはジャンケンの結果アシスタントとして五組も出ているので、先ほどから話題にも上っているが、テルがエキストラとして出演する劇だった。確か脚本はうるさい事で有名な荒川が書いたらしい。その荒川というのは飯島のまさに大親友だった。

 そしてその時間帯は、特に前評判の高い劇であるため、明らかに同じ学年の廊下の人通りが減る。確かに自分の知り合いたちが、中世ヨーロッパ風の衣装を纏い、様々に演技するのを見るのは興味深い事だろう。外川は、飯島に友人の劇を見せてやりたいようだった。


「この時間くらい休んでも良いと思うけど?」

「光、休んで来いよ。後は俺たちでやっとくからさ」


 彼氏の秋山も彼女の背中を押した。秋山自身は劇に興味が無いらしく、それ以上に繁盛している店の切り盛りに、飯島同様、力を入れたいらしい。飯島は少し申し訳なさそうに、しかしながら体育館へと駆け出して行った。それから驚いたことに、外川が次に見たのは俺の顔だった。


「住田君も、ずっと働いてるでしょ? 休憩取って劇でも見てきたらどうかしら」

「……そうか? 他のみんなは……」

「あ、私は飯島さんが戻ってきてすぐ休憩取ったし、多分まだ取ってないのは飯島さんと住田君ぐらいだと思うから。これから交代のメンバーも来るし」


 自分の事で精一杯だったためか、俺はあまり周りを見ていなかったようだ。外川の好意に俺は甘えさせてもらい、せっかくだからテルの出演する劇を見に行くことにした。調理組がせっせと洋菓子を作る調理室も気になったが、劇に途中から入れなかったらまずいので素直に体育館へと急ぐ。

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