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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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さびしーじゃん(10)

 11月 7日(水) 12:19



「はあっ!何で男子って汗が臭いのかしら。あんな中で食事できるわけないわよね。」

「ハッ!全く同感だよ。一滴たりとも汗をかかない神からすれば不思議でならんわ。」

「それはそれでヤバイんじゃね?」

「……あはは、面白いです。」

「綿華と上川は当たり前のようにここに加わるんだな……」


すっかり溶け込んでいる綿華、相変わらずそのペースを崩さない上川、

微妙な反応と作り笑いをする恒太、まだ慣れてない達也の四人と、

まだ二回目ではあるがこれからもずっと、

毎週水曜日は昼飯を食うことが、もはや決まっているようだった。


達也が卵焼きを口に運びながら綿華たちに話題を持ち出した。


「四組の屋台は……お好み焼きだったか、展示は何やるんだ?」

「ああ、ゲームセンターやるのよ。輪投げとかそういうチャチで適当なやつばっかり。屋台はお好み焼きでやたら凝ってる代わりに展示担当は適当な感じなのよ。ずるいわよね。」

「ハッ!とりあえず屋台の売り上げ競争は五組のポップコーンが優勝だな。展示は一組・五組の劇で決まってるようなものだ。不利で無益な競争だよ。」

「五組は体育祭でも学年総合優勝じゃなかったか?マジチートだろ……」


一同の視線は、一応五組である恒太に向く。


「あ、はい、僕はとりわけ何もしてないんですけど、渡君が……」

「GS(Great Students)って特別特待生が五人全員集まってるのもそもそもチートだし、中でもあの渡はヤバすぎるだろ……。何でクラスに遊びに行くのに審査が必要なんだよ!」

「さあ、そのへんはよく分かりま千円。」

「恒太ふざけすぎじゃね?」





文化祭は文化系クラブが活躍する場なので、

いつもと変わらないバスケ部の練習を終えて寮に戻ると、

早くも恒太が夕食の席について待っていた。

今日は、卓球部の練習に時間がかかっているらしく上川の姿が見当たらない。

恒太はそわそわしていて落ち着きが無い。


「ハロハロー。そういや昨日は一緒に食べてなかったね。」

「……そうですよ。おかげでずっと神様の話を聞かされました。」

「苦行じゃん。最近練習が長引くこと多くてさ。」

「ベンチ入りしたらやっぱり忙しいですよね。私には縁のない世界です。」

「別にそーいうわけでも無いんじゃね?」


と、少し会話した後、まずはトレーに色々食事を取ってくる。

恒太は既に取っていたが、到着自体はどうも僅差だったようで、

手は付けずに待っていてくれたようだ。

料理を取り終えて席に着くと、恒太も箸に手を伸ばした。

まだそわそわしている。原因が何かありそうだ。


「で、何か話したいことでもあったんじゃないの?」

「いえ、ああ……この前どうでした?達也さんをムリヤリ誘ってみたんですが。」

「いや、良かったんじゃね?達也は気づいてなさそうだし。そうやってどんどん近づいていったら良いじゃん。」

「……そうですね、距離を縮めることが大事ですよね。」

「分かんないけど多分そうなんじゃね?」

「実に皆さんのアドバイスのおかげです……。」


恒太は珍しく顔を上向きにして、まっすぐ俺を見た。

それから、見た事もないような自然な笑顔で、ニッと笑った。


「ありがとう。」



正直な感想としては、驚いた。

恒太がこういう場面で敬語を外すのは、初めてだったからだ。

……よく考えたらアドバイスなんてしてないが。


「ぶっちゃけ俺は何もしてなくね?」

「……そういえばそうかもしれませんね。」

「おい。」


恒太はいつも通りの言葉遣いと、いつも通りの困ったような顔に戻った。

この一週間で、ひょんな事からいつものメンバーに、奇妙な二人が加わったが、

恒太自身はどう思っているのだろうか。

俺はどうやら人見知りをしない方らしいが、

自称人見知りが激しい恒太としては、あんまり良くは思わないのだろうか。


「……最近綿華さんとか上川とかが普通に俺たちに加わってるけど、どう思う?しょーじき達也と二人で話せる機会も減ったんじゃね?」


恒太は少し驚いた顔をしてこちらを見た。


「それは関係ないですよ。僕が元々引っ込み思案なんで……。むしろ感謝してます。相談相手が増えましたし……あ、」


恒太は何かを思い出したようで、一旦口の中のものを飲み込んだ。


「あの……同性愛者の先輩たちが増えて確かに相談相手が現れたんですが、これからも剛司さんに相談しても良いですか?」

「え?そーいうの気にする必要ないんじゃね?いつでもいーよ。」

「……ありがとうございます。」

「じゃあ綿華さんたちが加わってもいーの?」

「……そうですね。剛司さんの言葉を借りれば、色々と出会う機会が減るのは寂しいですしね。」

「そんな事言ったっけ?」

「そういう所が三枚目な部分ですね。」


恒太は俺の予想に反して、綿華たちの事は納得してくれてるようだった。

達也も達也で、干渉されることが嫌いかなと思えば、

綿華たちに色々突っ込まれても意外と平然としている。


――俺は「はかり」をすぐに決められるつもりで居たが、

決めたはかりが正確かどうかは、長く付き合わないと分からないらしい。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○


剛司さんはたまによく分からない事を聞いてきますよね。

多分何も考えてない風に見えて、実は色々考えているんでしょう。

そう思いながら、僕は食事を終えて、

そのまま剛司さんとたわい無い事を話しながら風呂を済ませて、

音を立てないように自室へ戻りました。


菊池先輩は相変わらず厚くて重そうな本を読んでいます。

ほとんど表情のない(あっても「怒り」だけの)この人も、

「ある人」といるときは色々表情を見せるわけですが、

もちろん私にそういう部分を見せることはありません。


ちょっと数学の復習をしようかなとも思いましたが、

一度風呂に入ってベッドに横になると、また頭を動かすのが非常に面倒なので、

だから落ちこぼれなんだなと思いながらも寝ることにしました。



 カッ★ミッ★サッ★マッ★たいそーう!さあ始めよう!!

そんなBGMが静寂をぶち壊しました。

一瞬夢かと思いました。マジで頭が真っ白になりました。

 勇気★元気★みんなもエクササイズ!レッツ神様体操★

間違いなく上川君の声です。それも、何故かふところから音がします。

音源を取り出すと、僕の携帯電話でした。

いつの間にか勝手に上川君がアドレスを登録して、

しかも着信音を「神様体操」にしていたようです。あわてて電源OFF。


全て遅かったです。横を見ると菊池先輩が立っていました。

眉が引きつってピクピクしてます。あ、死んだわ。


「……落合。」

「すみません申し訳ありません反省してます菊池先輩尊敬してます」

「……全て終わらせる。」


はい、私はオチ要因ですからね。落合だけに。

ぎゃあああああああああああああ


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