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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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さびしーじゃん(9)

 11月 6日(火) 12:41



「こ、この前の模試で出た数Aの「集合」が全然分からなくて……」


弁当が片付いてきた頃に、実に不自然な言い方で、

恒太がポツリとつぶやいた(ように見せかけた)。

純粋な達也は、何の疑問も抱かず反応する。


「集合か?確かに模試に出てたよな。さすがにあれは覚えてなかったら解けなかったろ。」

「何となく理解したつもりで、雑に考えていたので全滅しました。⊂とか∈とか覚えてないです。象形文字。」

「センターでは普通に出るらしいよ。恒太は私立文系で数学使わないかもしれないけど、いちおー覚えといたほうが良いんじゃね?」

「本当ですか初めて知りました吐いてきて良いですか」


恒太の反応に達也が苦笑する。

恒太が「吐いてきて良いか」をギャグで言ったつもりでは無いのだという事は、

寮暮らしをしてない達也には、恐らく分からないだろう。

無論、俺も実際そのシーンを見たわけではないが。


「教科書は持ってるんですけど、読んだだけじゃ分からないです……多分その時は理解してたと思うんですけど……」

「そうか、お前も大変な奴だな。」


達也は相変わらず鈍いようで、そもそもこの話自体が、

お誘いの前フリだという事に気づいていないらしい。

恒太は一瞬諦めかけてうつむいたが、チラとこちらを見た後、

達也の目をまっすぐに見て言った。


「……あの、達也さん教えてもらえませんか?」

「あ?剛司に聞けばいいんじゃないか?」

「え、……あ、そうですよね、あ、はい。」


恒太が今にも息を引き取りそうな顔をしている。やれやれ。


「やだよ俺。めんどくせーじゃん。俺は部活あるけど、どうせ達也は部活に出ないニートじゃん。」

「決めつけは良くないぜ剛司君。俺たち書道部は文化祭で展示があるから、そろそろ俺も部活に出て作品を何か作らなきゃならないんだなこれが。」


達也がふんぞり返っている。恐らく恒太の心はズタズタだろう。

恒太がすごく不自然な笑顔を浮かべていた。


「あ、そしたら本当に大丈夫です、自分で考えますから、あ、はい……」


達也がそんな恒太の今にも壊れそうな表情を見た。

さすがに恒太が傷ついたことに気がついたらしい。


「分かったよ!仕方ない奴だな、俺がいっちょやってやるか。」

「……あ、でも部活とかが……」

「作品は正直、前日までに間に合えば良いから、今日の放課後で良ければ、お前に付き合ってやっても良いよ?」

「え……本当ですか?ありがとうございます。」

「はっはっはっ、達也様を敬うのだ。」

「何か神様に似てね?」

「うるせー!こいつは無視だぞ恒太!友情より部活を選びやがって!」

「普通じゃね?まーそういうわけで悪いね恒太。達也よろしく。」


恒太はもちろん真意を分かってくれているようで、

達也が見てない隙に何度も俺に頭を下げてきた。

実際俺は恒太に助け舟を出してやりたいという思いだけでなく、

本当に部活に行かなければならないので、丁度いいのだが。

というか恒太こそ最近部活から逃げてる様な気がする。


だんだん日が落ちるのが早くなってくるように、

掃除から、五・六・七時間目の授業はあっという間に過ぎてしまい、

早くも教室はオレンジ色に染まり始め、残る生徒もまばらになってきた。

俺は五組の方から慌てて来る恒太を確認してから、

達也と恒太に別れを告げて部活へと向かったのだった。


  ○   ○   ○   ○   ○   ○


「……包含関係ってのは何ですか?」

「集合の包含関係ってのは、どっちかがどっちかを完全に含んでるかどうかって事だ。例えば猫の集合と犬の集合は全く別のものだけど、動物の集合と人間の集合だったら、人間は動物に含まれるだろ?そういうやつだ。」

「……例えが分かりやすいですね。」

「そうか?ってかこれは授業で言われた事そのままなんだが……」

「あ、それじゃあ単純に聞いてないだけでした★」

「お前今度からちゃんとノート取れよ……」


相変わらずネガティブコウタが敬語を崩すことは無いが、

徐々に前から感じていた距離感が薄れているような気はする。

まあ距離感がある事だってそもそも俺の悲しい被害妄想かもしれないが、

少なくとも俺としては話していて居心地のいい関係にはなり始めていた。


本当に困ってたのか?という程コウタはサクサク理解した。

以前のように関数系の難問になると手も足も出ないようだが、

こういう問題なら所詮暗記だから、文系にも解けるらしい。


「……タツヤさんってちゃんと全部覚えてるんですか?」

「(いや、覚えてない。こうやって高校の知識混ぜてるけど毎回ウィキとかで調べなきゃならないし作者の自慢だと思われるしで散々だぜ。)ああ、もちろん覚えてるぜ!」

「さすがですね。あ、僕何も聞こえてません★」


ふう……大変らしいぜ。苦労は察してやってくれ。

誰の苦労かって?ああ、もちろんコウタのことだ。うんうん。

というか俺が主人公回多くないか?作者は長瀬達也が推しメンなのか?


コウタはたまに感想を挟みながら、黙々とノートを取っていた。


  ○   ○   ○   ○   ○   ○


そういえば机の中に忘れ物をして、明日でも良かったものだったが、

達也と恒太がどうしてるかも少し気になるので教室に足を運ぶと、

外の窓に張り付いて中の様子を伺っている不審者が二人居た。


「ハロハロー何してんの?ちょー不審者じゃん。通報しようかな。」

「シッ!うのぽんうるさい!聞こえないじゃない!」

「ハッ!神を不審者などと呼ぶとは今に天罰が下るぞ。」


俺は特に観察する趣味も無いので中へ入ろうとするとこの二人に止められた。

どうもムードを崩して欲しくないらしい。そんなにムードも出てないと思うが。

それじゃあ用事は出来ないので今日は諦めるかと思い、

バスケ部の練習に戻ろうとするとまた綿華に引き止められた。


「うのぽん冷たすぎよ!感想くらい述べて行きなさい。」

「え?……達也はなんだかんだ言って面倒見いいし優しいよね。そこが恒太的にポイントだったんじゃん。」

「たっちゃんの萌えポイントなんてどうでも良いのよ。オチくんの作戦はどうなのかって感想よ。」

「ああ、もっと自信持ってアプローチしないとな。そもそも達也との友人関係としての距離だって遠いじゃん。だからこうやってどんどん距離を縮めればいいと思うよ。」

「……それは良かったわね。オチくんもいい感じって事か。」


綿華はニコニコしながら教室の様子を伺っている。

やっている事は完全に覗きだが、何やら楽しそうだ。

彼女はやはり客観的に物事を見るのが上手く、

例えば彼女を相手に心理戦を仕掛けても一筋縄ではいかない相手だろう。

上川はその点単純だ。今も神様体操をとなりで踊っている。


「ま、引き止めて悪かったわね。うのぽん、明日も体育のあとお邪魔させてね。」

「おっけー。」


……「はかり」は、測る対象によって大きさや形も変わる。

だから人間を測るためには、多種多様な「はかり」を用意しなければならない。

多くの場合は相手と少し話しただけで、「はかり」の形が大体決まるものだ。

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