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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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さびしーじゃん(8)

 11月 5日(月) 12:38



「今週末が文化祭か……ウチのクラスの展示、迷路制作は謎すぎるだろ。」

「王道を外しすぎた結果、需要なくなったパターンじゃね?」

「あと綿菓子は無いだろ。対象年齢考えて欲しいよな。」

「達也文句言いすぎじゃね?意見出たときに直接言えば良かったじゃん。」

「俺にそんな事が出来ると思ってるとはねえ、まったく。」


迫り来る文化祭に向けて、学校がそわそわしだす文化祭シーズン。

ルーティーンの会話も文化祭一色に染まるものだ。


「しかし何度考えても迷路制作は本当に謎だな。」

「意外と簡単って話じゃん。ってかジャンケンで負けたから仕方なくね?」

「流河がイキがって堂々と出て行ったくせに最下位だからな。笑っちまうぜ。」


「劇」をするために体育館の使用許可が出るのは、学年につき二クラスのみ。

一組にジャンケンに滅法強い女が居るとかなんとかで、

体育館を勝ち取ることが出来なかったうちのクラスの末路である。

恒太は俺たちの様子を伺ってるようなので、話を振ってみた。


「恒太は何すんの?展示と屋台。」

「……展示は一組のサブで劇ですね、屋台はポップコーンだそうです。」

「ポップコーンとかちょーまともじゃん。」

「俺たちのクラスに同情して欲しいぜ、まったく。」


達也の納得いかなそうな態度は相変わらずのものだった。

基本的にいつもと変わった点はないのだが、

放課後は、恒太の恋愛について語り合おうと綿華&上川に誘われているため、

達也を何とかまいて恒太と二人保健室へ向かわなければならない。


「ってか達也はそろそろ部活出たほうが良いんじゃね?文化系は展示が必ずあるんじゃん?絶対見に行くし。」

「そうやって俺をからかいに来るのか!ちくしょう覚えてろよ!」

「現実逃避しすぎじゃね?」





というわけで、放課後は、いつも通り達也と階段を下りつつ、

強引に書道室へ達也を送り出し(達也は書道部)、

俺は三人の待つ保健室へと向かった。


「お好み焼きって自分たちが食べたいだけでしょ?後先考えて欲しいわ。」


綿華が自分のクラス4組の露店で出すことになったお好み焼きに文句をつける。

彼女と同じクラスの上川も黙ってそれを聞いていた。


「お好み焼き作れる人がそう多くいるはずないじゃない。それに、どうせほとんど女子任せなのよ。私のメイド喫茶めぐりの予定が……」

「お、お気の毒です……」

「ハッ!」

「綿華さんもともと暇だったんじゃね?」


労う恒太、鼻で笑う上川に続いて俺がコメントをした後に、

ようやく今日の目的を思い出した綿華が恒太を見る。


「さて、オチくん今日はどうしたのかしら?」

「いえ、今日は実際にどうすればいいか、経験豊富なみなさんの意見を伺おうと思って……」

「別にあたしは経験豊富なわけじゃないし、神様だって経験豊富なのは妄想の中だけなんだけどね。」

「ハッ!失礼な事を言うものだな。」


ところで保健室を私物化してないだろうかとふと疑問に思ったが、

保健室の先生が見当たらない。大丈夫かこの学校。

上川がふんぞり返るのを横目で見ながら、

恒太はどことなく申し訳なさそうな顔で俺を見て言った。


「……それでも、きっと良い知恵をお持ちなのではないかと……剛司さんまでいつの間にか居てもらって申し訳ないです。」

「あら、うのぽんはあたしが呼んだのよ?せっかくだから来てもらおうと思って。今までサポートしてくれてたわけなんだし。」

「ってか恒太は気を遣いすぎじゃね?」

「あ、はい……気をつけます。」


「とにかく議題に移ろうか。長瀬男子とのこれからの関係や振る舞い方についてどうしたら良いか。ハッ!愚かな悩み事だ。」

「……申し訳ありません。」

「オチくん、神様の言う事は本気で受け止めなくていいのよー。」

「綿華女子、今日はいつにも増して無礼だぞ。」


眉にかかる前髪を振り払いながら、颯爽と言い放った上川を、

綿華は華麗にスルーしつつ、近くの黒い小さな椅子に座った。

足を組んで考え始めるその様子は、OLそのものだ。


「強引に近づいちゃって良いと思うわ。今までたっちゃんも嫌そうにしてないんでしょ?」

「ハッ!配慮に欠けるぞ。一般的な男性は、仲の良い友人がゲイだと分かると非常に驚くものだ。」

「そう?でもたっちゃんは鈍いから分かんないわよ。」

「ハッ!そもそも強引に近づいてバレた時に何のメリットがあるというのだ。」

「……告白しやすくなるじゃない。」

「ハッ!それは玉砕覚悟だという事だな。ハイリスク・ローリターンだ。」


綿華と上川の議論を、なるべく目で追うようにしている恒太は、

何となくいつにも増して焦ってるように見えた。

その二人が熟考し始めて議論が止まったその時、

恒太は俺の方を見た。俺の意見を聞きたそうだった。


「剛司さんは……どう思いますか?僕はどうするのがベストですかね。」


俺はすぐにその質問に答えようとしたが、少し思い留まった。

何というか……恒太にはありがちな事だけど。


「恒太自身は、「どうしたい」かは決まってんの?」


恒太はこちらを見ているが、視点が定まっていない。

相談相手が増えた事はメリットが多いだろうが、デメリットもある。

俺たちが相談し合って答えが出たとして、

それは恒太にとって必ずしも良い事だとは限らない。


「恒太の恋愛なのに、俺たちが道まで決めちゃっていいの?それで全部、納得すんの?」

「オチ君なら納得しそうね。」

「愚民は黙っておくんだな。」


綿華の邪魔を上川が止めたところで、俺も一息ついた。

恒太は未だ呆然としている。分かっているのか、分かっていないのか。

仕方ないので、俺はもう一息吸って言葉を吐き出した。


「答えが出ていることならその背中を押してあげる事は出来るけど、出せてない答えを任されても、その答えを作ってやる事は無理じゃね?俺たちには。」


恒太はうつむいた。色々思い当たる事があるのだろう。

綿華は腰掛けていた黒椅子から立ち上がり、背伸びをして歩き始める。

それから恒太に近づいて、ポンと肩を叩く。


「確かに、オチ君の思う通りにやってみたら良いと思うわよ。特に、同性愛は色んなパターンや展開があって、一口に良い解決策なんて見つからないの。」

「確かにそうだな。同性愛はメガネ萌えやスーツ萌えや」

「それはジャンルの話じゃね?」


上川の邪魔を俺が突っ込んだところで、

少し自信を取り戻したらしい恒太が、無理して表情を作ってる感じはしたが、

俺たち三人の顔を見ながら、深々と頭を下げた。


「ありがとうございました。……怖いですけど、やってみます。」

「その調子よ!失敗したらあたしの胸で慰めてあげるから!」

「そんな事したら卑猥すぎて打ち切りになるんじゃね?」

「こんなの軽い方でしょ!そんな事で規制されてたら、今後あたしに彼女が出来た時にアハハウフフな」


以下自重。

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