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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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さびしーじゃん(7)

 11月 3日(土) 13:06


はい。まだ私が主人公でごわす。

というのもですね、今お昼時なんですけれども、

剛司さんがバスケの練習試合に行ってまして、

私は一人……じゃなかった二人で取り残されてるわけです。


「…………」

「あの、これからこうしてずっと一緒にいらっしゃるのですか?」

「…………」


目の前には上川様が鎮座なさっています。

ただ今日はいつものように雄弁家ではありません。不思議。


「神様、どうかしたんですか?」

「……綿華から聞いたそうだな。」


そういえばショックが強すぎて忘れてました。

上川様は何とも言えない表情をされてます。


「ハッ!そもそも人間に興味がある事は愚かではなかろうか。」

「……そしたら一生独身ですよ。」

「それでも良い。だがな。だがな……」


上川様は言い淀みました。僕は味噌汁をすすって続きを待ちます。

よく見ると上川様はまつげも長く、なんというか女性的な顔立ちです。

確かに受けか攻めかと言われれば受けっぽい気はします。

あ、僕ですか?僕は多分受けだと思います。

こんな優しい性格の僕が人を攻められるとお思いですか?

実際どんな感じなんでしょうね。自分が誰かに抱かれるって……。

ところで上川様のシンキングタイム長すぎなんですけど。達也並み。

長すぎるせいで変な妄想しちゃったじゃないですか。


「だがしかし……美しいと思ってしまうのだよ。男の肉体をな。」

「あ、はい。」

「古代ローマでは男の裸が最も美しいとされた。そしてコロセウムと呼ばれる場所で裸の男たちが殺しあった。それから古代に開かれたオリンピアの祭典は男子が全員裸で参加したらしい。古来より男の裸は美しかったのだ。」

「は、はあ。」

「端正で均衡の取れた男の筋肉を見ると、神は欲望を支配できなくなるのだ。」


それは単純に裸見て興奮してるだけですよね。

いつか突っ込もうと思ってたんですが(卑猥な意味ではありません)、

上川さんは一人称まで「神」なので設定が一貫していて素晴らしいと思います。


「或る一人を好きになる事はまだ無いが、男の肉体は総じて好きであるぞ。」

「それは良かったです……。神様運動部でしたっけ?」

「ああ、卓球部だ。如何せん貧弱な肉体の持ち主が多くてな。その点君の野球部なんかは素晴らしいぞ。」

「あ、はい……いつでも遊びに来てください。僕は身分が低いですけど。」

「ハッ!心配には及ばず!勝手に覗きに行くわ。」

「覗きは通報します。すぐ110押します。」


……しかし、上川さんのこのオープンな態度には憧れます。

事情は違えど同じゲイ同士、僕も上川さんほどにオープンになりたいです。

今までは他にゲイの知り合いが居なかったから、

ゲイは隠れているものだと、ずっと思っていましたが、

上川さんや綿華さんを見てると、もう少しオープンでも良いんですかね。


……自信は相変わらず無いままです。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



バスケの練習試合が終わって、夕方ようやく寮に戻って来た。

動き回って熱くなったり冷ましたりを繰り返した身体が悲鳴をあげている。


恒太が見当たらないが、恐らく自習をしているか、

自室で音を出さずに漫画を読んでいるかのどちらかだろう。


夕食時になったので、食堂へ出向くと、大体決まっているいつもの席で、

恒太がそわそわしながらいつも通り待っていた。

そこに「ハロハロー。」と合流し、

当たり前のように隣に居る上川は見なかったことにする。

上川は俺に気づくなり話しかけてきた。


「ハッ!練習試合ご苦労だったな。」

「なんで上川は俺のボスみたいになってんの?意味わかんないじゃん。」

「上川ではない、神だ。」

「でも剛司さん一年生でこうして使ってもらえるなんてすごいです……」

「いやーちょっとしか動いてないけどちょー疲れたよ。もっとトレーニングしないと駄目じゃね?と思った。」

「ハッ!あまり迷惑にならんよう励むんだな。」


そうして俺と恒太が夕飯を運んでくると、

相変わらず上川はそこに仁王立ちで待っていた。


「そういや神様、夕飯いつも食べてないの?」

「ハッ!そんな愚民たちのように食欲旺盛ではないのでな。昼しか食べん時もままあるのだ。」

「それヤバくね?絶対早死にするくね?」

「ハッ!神は死なん。」


全員が恐らく席に着いたのを確認すると、上川はようやく席に着いた。

俺たちの食事風景をじっと眺めては適当に語っている。

ただ今日はいつにも増して恒太の反応が薄い。

元々俺と恒太が二人で話している時はよく話す恒太だったが、

上川と三人の時もそれはあまり変わらず、

(というかめっきり黙るのは達也と三人の時のみなのだが、)

普段はよく反応するはずだった。

しかしながら今日は反応が薄く、さらに時折ため息をついている。

達也といい恒太といい考えてる事がわかりやすい奴らだ。


ただ恒太の場合はこちらから聞かなくても話してくれるはずなので、

それなりに上川の話を受け流しながら待ってみる。

案の定、上川の演説の区切り目に、恒太が口を開いた。



「剛司さんは、僕の恋愛のことどう思ってるんですか?」


唐突、というか広すぎて答えにくい質問が飛び出してきた。

上川も驚いたらしく、演説をやめたようだった。


「広すぎじゃね?何の事?」

「だから……キモイとか、汚いとか……」

「ネガティブすぎじゃね?そういう意味なら、もちろん応援してるに決まってるじゃん。友達の恋を応援しない奴って居なくね?」

「ハッ!もし宇野君も長瀬男子の事が好きなら応援はしないがな!」

「そういう三角関係ねーから。」

「……いえ、でも……もしも、本当に地球の自転が止まるくらいのもしもですけど、僕と達也さんが……その、付き合うことになったら……」


どうも最近元気が無かったのは、こういう余計なことを考えていたかららしい。

ネガティブな恒太らしいと言えば恒太らしい悩みだ。


「それで困る事とかは別に無いんじゃね?……俺に気でも遣ってんの?」

「……あ、いえ……いや、はい……遣ってますけど。」

「いやいーよ。なんにも気にせず好きにやったらいーんじゃね?頑張れ。」


恒太は俺の言葉を聞いて、ちょっとホッとしたようだ。

実にネガティブだ。恋の叶う確率が低い事も原因なのかもしれない。


「やっぱりゲイはネガティブになりやすいの?神様?」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ。何で君は神がゲイだと知っているのだ?……まさか落合君……」

「あ……何か、オープンだったから良いかなと思いました。」

「良いわけ無かろう!……ネガティブには確かになりがちかもしれん。……ところで宇野君、君は実に変わっているな。ゲイの知り合いが居たわけでもないのに、自然に受け入れているというか……」

「へ?だってゲイって仕方ない事じゃん?恋心を治す治さないとかなくね?」

「……まあ、そうですね。」

「……うむ。」


「それに、価値観の違いだけで友達が減っちゃうって、さびしーじゃん。」


男子寮の夜は更けていく――。

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