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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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幼なじみの衝撃(4)

 9月 3日 (月)  8:00



「おっすタツヤ!さすがに勉強してるのか。」

「まあな。お前と違って余裕ないんでね。」


宿題の社会用語プリントを片手に早足で歩く俺に、ヨウジが追い付いてきた。

現社の吉田は厳しくテストも難しい事で有名で、

俺はテスト本番3時間目までの空き時間を、全てこれに費やす事にしている。


「この前の事だけど、あんま気にすんなよ!」


聞いてもいないのにヨウジがそう伝えてきた。

能天気なこいつでも、やはりあの件がバレたのは大きかったらしいな。


「いろいろ経緯があったんだろうが、別に気にしてないからな。」

「そこまで無いって!友達の延長みたいなもんだからさ。」


友達の延長でキスをするのか?

それは俺にはいささか普通には思えないのだが。

正直色々訊きたい事があったが、それ以上に俺はテストの事で頭が一杯だった。



「おはよ~。」


いつもの流れでテルが合流した。

テルは先日の事に何一つ言及する事無く、彼もまた勉強に没頭していた。

成績不良組にはこれが当たり前ってもんだよ、クソッ。

ヨウジがテルの隣にそっと寄る。


「数学大丈夫か?この前教えたの覚えてるよな?」

「うん、おかげさまで~。それよりいまいち英語の関係副詞がね~。」

「おいおい、それは前置詞と関係代名詞の……」



何やら英語の解説タイムが始まったようで、俺は俺で手持ちのプリントに没頭する時間を確保する事が出来た。

この時頭の片隅で、案外今までと何も変わらないなと俺は思った。

それを察したのか、解説を終えたヨウジが俺に言う。


「な?いつもと変わらんだろ?」

「へいへい。だからあんま気にしてないからな。」

「変わるのは夜くらいのもんだな!」


……夜、だと?


「ヤる時はさすがに、な!」


待った。Wait。Please wait。

え、何それどういうこと?お兄さんよく分かんないよ。


「……ヤるって……何を?」

「おいおい!決まりきってんだろそんな事は!」


豪快に笑うヨウジ。顔を赤らめるテル。

硬直するタツヤ。俺の事だ。


「付き合ってんだから当たり前だろ?なあテル。」

「……こっちに振らないでよ~。」

「お、それじゃタツヤもテスト頑張れよ!」

「頑張ろうねタツヤ~。」


いつの間にか学校についていたようで、そこからは自然解散。

俺は足だけをひたすら動かしていた。

一年三組の教室までひたすら歩いて、自分の席に座って、

さて、瞳をゆっくり閉じて、もう一度開くと、そこはいつもと変わらぬ日常。

ふうー落ち着いたぜ。異変なんて何にもない……


セックスするのかよ!

処理能力が限界に達した!今朝覚えた社会の単語全部吹っ飛んだぜ!



「ハロハロー。タツヤ社会のテストの前にちょーあらぶってたけど大丈夫?」


時は国・数・社・英、四連続のテストを終え、穏やかな昼食時間。

弁当片手に寄ってくるツヨシにこう言ってやった。


「もちろん死んだぜ☆」

「良い顔してんじゃねーよ。宿題は終わってんの?」

「英語と社会は終わったが、国語は手を付けなかったな。」

「提出しないんだ。タツヤってマジ不良だよね。」

「ハイハイ乙乙優等生はこれだから……」


ふと廊下に面する窓を見ると、一人の男が肩をすくめて立っていた。

いかにも申し訳なさそうな表情で、窓を挟んだ教室の席、

つまりは俺の座っている席を見ている。


「あの……どうもお久しぶりです。」

「コウタハロハロー。何やってんの?早く入れば良いじゃん。」

「いや……夏休みが終わったら輪に入れなくなってるかもと思って……」

「出たよネガティブ男……。」


これはこの男のほんの片鱗でしかない。代名詞は「ネガティブ」。

落合 恒太(オチアイコウタ)」。身長は俺とほぼ同じ170㎝弱で細身。

ちなみに野球部に所属しているが為に坊主。

一年五組だがよく三組の俺とツヨシの所に遊びに来る変わった奴だ。


「ようコウタ。テストはもちろん俺の様に死んだよな。」

「……あれって宿題ちゃんとやれば出来るテストでは……」

「コウタよ、お前までも裏切るのか!成績不良同盟を忘れたのか!」

「ちょっと何言ってるのか分からないですはい。」

「タツヤが真面目に宿題やってないだけじゃん。」


コウタにも馬鹿にされた挙句ツヨシに追い討ちをかけられる俺だったが、

この二人は寮生なので自習時間に宿題をやるのは至極当然のことだ。


どこか他の場所で食べているらしく空いている、俺の前の席と横の席を使い、

ツヨシとコウタは弁当を広げ始めた。さて俺も食うかな。

この二人が世間話に花を咲かせている間、テストから解放された安堵からか、俺は徐々にあの朝の衝撃を思い出し始めていた。


そりゃ冷静に考えれば付き合っているんだから、

高校生にもなればキスだけでは済むまい。

しかし男同士で……ん?男同士で?


「どーしたのタツヤ?なんか考えてる?」

「……あ?いや別に。」

「タツヤさんは常に話聞いてくれないから、いつもの事だよ……。」

「何勝手な事言ってんだよコウタてめえコラ。いや……」


俺はふとした疑問をそのまま口に出した。


「男同士ってどうやってセックスするんだよ?」


コウタが盛大に咳き込み始めた。口の中の物が飛び出そうになっている。

ツヨシは一瞬驚いたもののすぐに落ち着いたようだ。


「いや肛〇にアレ突っ込めばセックスじゃん?」

「ツヨシさんちょっと食事中なので遠慮してもらえませんかね。」

「それってセックスなのか?」

「タツヤさん追求しないでもらえませんかね。」

「知らね。やった事ないし。」

「ツヨシさんそういう問題じゃないと思うんですけど。」


「急にどーしたの?タツヤ好きな男でも出来た?」


落ち着きを保ち、食事を進めながらツヨシはそんな事を聞いてくる。

コウタは色々驚いたらしく硬直していたが、俺は真っ向から否定した。

しかしそれを思い当たるに至った本当の理由を言っても良いのだろうか。

……ええい自分がゲイだと思われるのは心外だ。自己防衛!


「俺の友達同士がな、付き合ってたもんでなあ……」



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