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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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さびしーじゃん(5)

 11月 1日(木) 16:09



七時間目の体育で、派手に転んですりむいてしまったため、

ホームルームで急ぐ必要はないし、保健室に寄っていこうと思い、

保健室の扉を開くと、見覚えのある顔が目に付いた。


「あらうのぽん。いらっしゃい!」

「綿華さん?何か最近会いすぎじゃね?」

「一昨日初めて話したばかりだけど、そこから連続で会ってるわ。」


綿華はそう言いながら、俺の擦り傷を発見した。

保健室の先生が消毒液等を取りに行こうとすると、

先生より早く綿華がそれらを手に取る。


「小泉先生休んでて下さい。これくらいなら私がやりますから。」

「そういうわけにはいかないのよ?ちゃんと保健室の先生として任務を果たさなきゃ……」

「そしたら早く「ほけんだより」完成させてくださいよ!今月分まだなんですから!」

「あら……いつも悪いわね。」

「その代わり、責任は取りませんから。」


保健室の先生と楽しそうに話しながら、綿華が勝手に俺の傷を消毒し、

それから絆創膏を慣れた手つきで片手だけで貼り付けてくれた。


「慣れてるじゃん。保健室にいる事が多いの?」

「バレた?そうなのよー。授業面倒くさくて、よくサボッちゃうの。」

「え、授業中とかにも来てるの?不真面目じゃん。」

「そうなのよねー。でも授業って退屈じゃない?」

「退屈だけど仕方ないじゃん。ってか成績ヤバくね?」

「それなりに教科書勉強したら出来るでしょー?大丈夫よ。」


綿華の最初の頃のイメージが色々と崩れていく。

少なくともよく授業をサボってここに居るとは知らなかった。


「小泉先生が優しいから、あたしがサボるの見逃してくれてるってわけ!」

「見逃してるわけじゃないのよー。」


パソコンの画面を凝視しながら、保健室の先生がつぶやいた。

「ほけんだより」の制作に、今はかかりっきりらしい。


処置は綿華がしてくれて、俺の用事は終わったものの、

帰ってもホームルームだけなので、この際あれを頼んでおく事にする。


「そういえば綿華さんに一つお願いがあるんだけど。」

「私に出来る事なら何でもするわよ!やっぱり揉んどきたい?」


軽快な返答をする綿華。悪い勘違いを招く言い方だったが。


「恋愛相談とかって、引き受けてもらえるかな?」

「……あら、うのぽんの相談?あたしの事が好きなんじゃなかったっけ?」

「ああ、あれは何というか……」

「ま、私に気が無いことはすぐ分かったけどね。そしたら誰なの?」

「いや、俺じゃないんだけど……困ってる奴が居てさ。」


一応名前は今のところはぐらかしておいたが、

綿華には名前を明かさないまま引き受けてもらうことは無理そうだ。

どう切り出すか迷っていると、綿華の方から質問を出してきた。


「それってうのぽんじゃ解決できないの?うのぽん結構人を見る目があるって思ってるんだけど。」

「それはただの勘違いじゃね?……それはともかく、俺も相談に乗ってきたんだけど、やっぱどうしてもねー……」

「ふーん。同性愛者なのね。だから私に相談を聞いてもらうんでしょ?」


綿華は察しが良いようだった。

立ち振る舞いなどを見ていても、頭が良さそうだとは前から思っていたが、

その点はイメージがいろいろ変わった後でも、唯一変わらない部分だった。

綿華はしばし推察した後で、結論を出した。


「オチくんでしょ。」

「……まずオチくんが誰の事か分かんないんだけど。」

「落合恒太くん。」


ズバリ正解だったが、俺は正解だ、とは言えなかった。

綿華はしかしながら確信しているようだった。


「そして、相手はたっちゃんだったりする?」


それも正解だった。そんなに分かりやすいのかな?


「これってYESかNOか言うべきなのかね?」

「いや、良いわよ言わなくて。合ってるでしょ?」

「…………」

「とりあえず、明日も保健室に居るから、ここまで来てくれたらいつでも話を聞いてあげるわよ。」

「え、一日中居るの?マジで不良じゃん。」

「なわけないでしょ!放課後はここに居る事が多いんだけどさ。」


綿華は美術部に所属していると行っていたが、あまり行ってないのだろうか。

いや、美術部は相当規則が緩いと聞く。

集合時間などは無いし、部員も気ままに集まるらしい。


「というわけでオチくん連れてきて。うのぽんは一緒でも一緒じゃなくてもどっちでも良いわ。」

「……りょうかーい。」


用も済んだし、さあ帰ろうとドアに向けて足を伸ばしたその時に、

綿華が呼び止めた。振り返ると、意味深な表情をしている。


「あなた自身は同性愛についてどう思ってるの?」

「……へ?興味があるかって事?」

「そうじゃないわよ。友達が同性愛者だってことについて!」

「ああ、それは仕方ないんじゃね?この学校選んだ時から覚悟してたし。」

「……その答えが聞けて、安心したわ。じゃよろしく。」


綿華は明るい笑顔で手を振ってきた。

意味深なその表情が何を意味するかは、分からない事にしておこう。





「取り付けてきたよ。」


夕飯時に恒太にそう伝えた。

横では上川が立ったまま俺たち二人に神がなんたるかをずっと語っている。

もう一緒にいることに関しては何の違和感もなくなってきた。


 「資本主義とは神の下の平等を崩すものであり」

「……急展開すぎますよ剛司さん。もうちょっと時間が欲しかったです。」

 「然れども共産主義は神の管理を遠ざけるものであり」

「けど恒太は時間おいちゃうと余計行かなくなるんじゃね?」

 「所詮人間の作った概念は不完全であり」

「たしかにそうかもしれませんけど……どんな顔をして良いのやら。」

 「全ては神を信じ神を敬い神を愛すればこそである」

「いつもの困った顔をすればいいじゃん。ピッタリだって。」

 「神の……君たち聴いてるかね?」

「はいよく聞いてました。感動しました。」

「ちょー参考になるよねー。人生の道しるべじゃん。」

「ならばよろしい。ただもう少し神を崇めなさい。」

「神様は最高です。」

「神様バンザーイ。」

「非常によろしい。神様体操よく復習するように。諸君おやすみ。」

「あ、おやすみなさーい★(永久に。)」

「神様また明日ー。(神様体操もう忘れた。)」


「それで、綿華さんはどんな顔なさってました?」

「いや別に。友達がゲイで困ってるとしか言わなかったんだけど、」

「あれ、剛司くん悪意込めてるよね?」

「それだけで何故か恒太だって気づいてたよ。ちょーすげー。」

「……そうですか。なんだか悲しいです。」


昨日は何とかやってみるとか言ってたのは何だったのだろうか。

どうもただの気まぐれだったらしい。深い意味はないのだろう。

恒太はいつも通りネガティブであったが、

明日何か得るものがあるはずなので、頑張ってもらいたいところだ。


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