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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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さびしーじゃん(3)

 10月30日(火) 16:31


緩やかなウェーブのかかった髪に、カーディガンとブラウスの裾を折り上げ、

ナチュラルメイクでそのまま町に出てもおかしくないような恰好を、

当たり前の様に毎日しているその大人びた女子生徒、綿華小百合は、

俺と達也の前に、その日の放課後の内に現れた。


今日も俺は部活へ、達也は自宅へ、と教室を出たその時、

彼女は階段のある角を曲がり、遠くの方からこちらへ向かってきた。


「……達也、あれだよ。綿華さん。」


嘘をついても仕方がなかったし、ただタイミングが早く来ただけなので、

達也にこっそり伝えた。達也は「おっ」と言うと、速度を上げて歩き出す。

実際に行動を起こすなんて、半分くらい冗談で言ってるとまだ信じていたが、

どうも本気だったらしい。

達也は普段クラスメイトと積極的に関わりもしないくせに、

こういう時だけ、慌てながらも、綿華に話しかけた。


「綿華さんですよね!」

「……そうだけど?」


変態が迫って来たと捉えられてもおかしくない状況に、

綿華は立ち止まり、とりわけ動じる事もなく平然としていた。


「突然ですけど、質問していいですか?」

「……ええ、良いわよ。何?」


綿華は細い指で自身の髪をかきあげた。仕草の一つ一つが大人びている。

対する達也は何と言うか、滑稽に思えるほど子供っぽい。


「彼氏いますか?上川と付き合ってるって聞いたんですけど。」


綿華さんが固まった。それはもっともだ。不躾な質問にも程がある……



「あっはっはっはっはっはっ!!!!」


綿華は大笑いした。彼女から飛び出たと思えないほどの大きな声だった。

達也も思わずたじろいだ。あの突き進む事しか知らない達也が一歩身を引いた。


「あなたは?なんて名前?それから何組?」

「……え?あ、長瀬で、三組です。」

「そう、長瀬君ねー。あっはは、それで、何?私の事好きなの?」

「あ、俺じゃなくて友人が。」


好きだとまで言った覚えはないんだけどな。

達也がそんな紹介をしてくれたので、俺は少しだけ歩み寄って頭を下げた。

ここで慌てて否定しても恰好がつかないだろう。


「そうなの?じゃあ、あなたは?」

「……宇野です。」

「あは、敬語じゃなくて良いのよ!同級生なんだから。」


彼女は左手で口元を隠しながら笑っていた。手振り身振りが大きく感じる。


「それで、何だっけ、ああそうだ、私と上川君は付き合ってないわよ。でも、どうしてそう思ったの?やっぱみんなからはそう見えちゃうかな。」

「え、いや……」

「んー、そうよね。二人で話してばかりだと、ただのカップルに見えちゃうのかな?仕方ないか。でも付き合ってないわよ。」


彼女は自問自答した。自己解決するスピードはなかなかのものだった。

対する達也は彼女のインパクトに硬直しているようだった。


「それで、何だっけ?あ……ごめんね宇野君。私あなたとは付き合えないわ。」

「いや、まだそれは言ってないと思うけど……」

「あ、そう?でも良いわ、なんでかって別に顔がどうこうとかじゃないのよ。あたし、レズなの。」



強力な電流が全身に流れるような、そんな衝撃を全身に感じた。

俺は普段から恒太のあれこれを聞いているからともかく、

達也にとってはテル君以来の同性愛者であり、

恐らくもっと衝撃が走っただろう事は想像に難くなかった。


「だって胸って最高じゃない?やっぱ揉みたいよねー分かるわ!」


息つく暇もなく、綿華は次の攻撃を繰り出してきた。

思わず目線は彼女の持つその大きな胸に向いてしまう。


「でもあたし自身結構胸大きいからさ、どっちかというと貧乳の子がいいのよねー。頼りないけどそのちょっとした柔らかさがたまんないわよね!」


見た目から抱いていたイメージが180度変わった。

そう思うくらい綿華は一人で盛り上がっていた。

仮にも廊下の真ん中で。人の少ない時間だったから良かったものを。

この女子の特徴を端的に表すとすると、恥じらいという物が無いのだ。


「でも普通、初対面の人に彼氏いるとかって訊くー?」


彼女はそう言いながら達也の頭をポンと叩いた。

俺よりごくわずかに彼女の方が背が高いように見えたので、

達也と比べるとある程度の身長差は感じられたが、

それ以上に感じるこの精神年齢の差はどうしたものだろう。


「そういうのはあたしだったからオッケーだけど、もう少しわきまえなさいよ、長瀬少年!」


ボンッ!と音がするほど彼女は達也の背中を豪快に叩いた。

そしてまた豪快に笑いだして、唖然とする俺達を横目に歩き出した。


「今日一番面白かったわ。あんた達とは気が合いそうねー!「神様」にも話しとくから、そっちもよろしくねー!ちゃお!」


彼女は嵐の様に過ぎ去っていった。

達也が先ほど叩かれた背中をさすりながらこちらを向く。


「何と言うか……奇怪な女だな。」

「やっぱバルガクならではじゃん。あーいう女子が居るってのはさ。」

「しかしどうだ、さすがにお前の初恋は諦めなければならなそうだな……」

「別に初恋でもないけどね。俺はイケてるって言っただけじゃん。」

「そうだったか?まあ、これでひと段落だな。」


勝手に自己完結した達也は、床に置いたカバンを持ち、また歩き出した。

……ところで、綿華が去り際に言った、「神様」にも話しとくって……。




「ハッ!成程。君が綿華君に気に入られた宇野君だね。彼女の言動には困ったものだろう。心から同情するよ。そんな時は神を信じると良い。」


寮でいつも通り俺と恒太が夕飯を食っていると、

横に突然ある男子が立った。……あの、上川大樹だ。

その出来事に驚きすぎて、恒太は硬直して口からスープをこぼしている。


「どういう点が彼女の琴線に触れたかは分からんが……」

「あ、むしろ俺じゃなくて達也の方だと……」

「ハッ!そいつは結構、だが君もリストに入っていたよ宇野剛司君!そうだな、これからは安心して神を崇めたまえ。」


……神?またよく分からないキャラが来た。

今まで見てきた上川のあのクールな面は何だったのだろうか。

今日は、固定観念を次々と壊される日だ。


「神って何?分かんないんだけど。」

「ハッ!仕方がない子羊だ。我が名は上川、故に「神」!君達、神を神様と崇めるのは自然な事なのだよ。さあ呼んでみたまえ。さあ早く。」

「か、神様……」

「続けてみたまえ!神様万歳!!」

「神様万歳!!」


……何だコレ。

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