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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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さびしーじゃん(2)

 10月29日(月) 19:56



「好きだからこそ悩んでるんじゃないですか……」

「いや、さっきのは冗談じゃん。」


食堂でカツカレーを黙々と食いながら、俺達は会話を続けた。


「……分かってますけど、達也さんは普通に女の子が好きなんですよね……」

「恒太、前付き合うのは諦めて友達として思ってもらえるよう頑張るとか言ってなかったっけ?」

「そうですけど、距離が近づけば近づくほど、やっぱり期待しますよね……」

「たまにはポジティブなとこもあんだね。」

「それが大きなネガティブを呼び起こすものですけどね。」


突然満面の笑みを繰り出す恒太。

彼はネガティブな話になると嬉々として語り出す、

矛盾した可哀想な性格の持ち主である。


「最近は達也さんにグサグサ突き刺さる事言われてるんですよ。」

「そーなの?例えばどんな?」

「どっちかと言うと巨乳が良い、とか、結婚式は海辺が良いとか。」

「巨乳はともかくアイツ彼女いないのに結婚式とか妄想しすぎじゃね?」

「そうですよね、巨乳は僕が太ればなんとかなりますもんね。」

「全然そういう意味じゃねーけど。」


恒太が頑張って自分の胸をもんで、傍から見ると変態でしかない行動を取る間、

達也が巨乳好きという情報を元に、俺は少し考えてみた。


「なら達也、綿華さんとか好きなんじゃね?」

「あの、何で僕のライバル作ろうとするんですか?僕の事嫌いですか?」

「多分同じ学年だったら一番胸がデカいと思うよ。」

「さりげなくそういうチェックするのやめてもらえますか?」


先ほど名前を出したのは「綿華 小百合(ワタハナサユリ)」。

ホモの多いバルガクではあまり話題に出る事は少ないが、

美女を三人挙げろと言われれば、確実に綿華の名前が挙がり、

彼女は高身長で同年代とは思えない大人っぽさがある女子だ。



「……綿華さんと言えば、上川君と唯一まともに話せる人だったような……」

「そうなの?」

「あ、はい。二人とも一年四組で、なんか隅の方で話が弾んでるのを何度か、見た事あるかも。」


綿華の内面は何となくしか把握してないが、屈託のない性格で、

誰とでも仲良く話す明るい女子というイメージだ。

そういう女子ならば、あの上川と会話する事が出来るのかもしれない。


「むしろ俺が綿華さんにちょー興味あるんだけど。」

「あれ、何か主旨代わってません?まあ何でもいいですが……」

「綿華さんと上川が付き合ってるってセンもありじゃね?」

「剛司君あなたは何がしたいんですか?人のプライベートを引っ掻き回したいんですか?そうやって僕と菊池先輩の関係も壊すのやめて下さいよ?」

「まー冗談だよ。四組だったら体育も別々だし、恒太くらいしか訊くチャンス無いじゃん。」

「え、どういう事ですか?僕に戦場に行って来いって言ってます?」


とっくに食事を終えた俺と、今食事を終えた恒太はトレーを持って立ち上がる。

……恒太は人見知りをするので初対面の人間とはなかなか口が利けない。

だから綿華あるいは上川を捕まえる事すら困難になるだろう。


俺達はそれから風呂に入って、お互いの別々の寝室に入った。

俺の同居人は恒太のところの菊池先輩のように厳しい人では無く、

いわゆる常識人で、こういう所では取り上げる事の無いような先輩なので、

二言三言毎日会話をしては、それから特に発展する事も無く、

また一日の終わりを迎え、朝がやって来る。




  ○   ○   ○   ○   ○   ○


こうして他人が主人公回でも登場する事があるのは困りものだ。

いつ寝首を掻かれるかと心配でならないではないか。

俺、長瀬達也は相変わらずヨウジやテルと話をしながら登校し、

昼になったらツヨシ、コウタの二人と食事をする生活を続けているわけだ。

なかなか変化という物は起こらないもんだね、まったく。


「タツヤ、綿華さんって知ってる?」


とかなんとか思っていると、食べ物を詰めた口をふくらませながら、

ツヨシが急に話題を振ってきた。相変わらず突拍子の無い奴だ。


「いや、知らんが。」

「昨日さ、好きな人とかの話、したじゃん?」

「おう……まさか。」

「綿華さんって結構イケてると思うんだよね。」


これは面白い事態になってきたんじゃなかろうか。

綿華さんというのがどういう女子なのかが全く想像できないが、

とにもかくにも友人に好きな奴が出来ることほど面白い事はない。

何故かコウタが冷ややかな目でツヨシを見ていた。

コウタはなんだかんだ言いながらツヨシに冷たい事が多いな。

それも仲良い証なんだろうけどな。微笑ましいぜ。


「タツヤ聞いてる?でも一個問題があってさー。」

「ん、どうしたよ。」

「綿華さんって、上川って奴とよく一緒に居る事が多いんだ。あの二人、付き合ってるんじゃね?」


波乱キタコレ。やはり高校生たるものこうでなくては。

良いじゃないか略奪愛。こういうのは成功してもしなくても面白いものだ。

よし、ならば善は急げだ。


「どいつが綿華さんだよ。直接訊いてみようぜ。」


こちらを黙って見ながら口をくちゃくちゃと動かすハロハロツヨシと、

ポカーンとした表情で固まったネガティブコウタ。

恐る恐る口を開くコウタは、またネガティブな事を考えているのだろうな。


「いや、ちょっと、あの、危険じゃないですかね。」

「おうコウタ俺に意見するとはえらくなったもんだなーえ?」

「何なんですかそのキャラ……じゃなくて、見ず知らずの人のプライベートに踏み込むのは僕はちょっと……」

「それはお前が人見知りだから出来ないだけだろ。我らが親友ツヨシの為に、立ち上がってやろうじゃないか。」


こういうのはなかなか本人が行動できないものだ。

だからこそ大親友の俺は俄然協力するつもりではいるがな。

面白い事、なおかつ親友のためならばどんな苦労もいとわないさ。

しどろもどろしているネガティブコウタ。

ただ肝心のハロハロツヨシは、何が気に留まったのかどこか遠くを見ていた。


  ○   ○   ○   ○   ○   ○



達也は良い意味でも悪い意味でも純粋だ。

多くの人間ならば、初対面の人間にプライベートな質問はする事が少ないし、

それをすればいわゆる「ナンパ」になってしまうわけだが、

この分だと、達也は気づいていなそうだ。

達也の何が、恒太の感性に引っ掛かって好きになるのかと、

たまに不思議に思うようなことがある。今回もまさにそう思った。


「協力してやるぜ!今度綿華さんってどんな奴か教えろよな。」

「どーも。達也って結構こーいう時頼りになんだね。」

「はっ、まあテスト勉強の分の借りを返しておこうか。」


ただ気になる人の名前を挙げろと言われてサンプルを出したにすぎないので、

達也と綿華さんの関係がどうこじれようが俺には関わって来ないだろう。

恒太は昨日の話から綿華さんを若干敵対視する部分があったようなので、

むしろ達也と綿華、二人の関係がこじれれば好都合なのだろう。

俺は寮の昨日の残りから持ってきた弁当を一気に口にかけこんだ。


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