さびしーじゃん(1)
ストーリーは第二部「ネガティブ・ラヴァーズ」の続きです。
10月29日(月) 8:18
第三回試験 成績優秀者
1 花園 優希==1年1組 587
2 城崎 弓===1年4組 575
3 上川 大樹==1年4組 572
4 勝村 幸夫==1年1組 568
5 朱雀 優美==1年5組 560
6 渡 透====1年5組 559
7 早田 椿===1年5組 552
8 舞空 総悟==1年5組 550
9 勝田 拓哉==1年3組 547
10一ノ瀬 雅==1年2組 544
国数英3教科6科目で行われた第三回定期試験の成績優秀者が掲示された。
過去の試験で1位だった城崎が2位に、代わって2位だった花園が1位になった。
また、過去二回で優秀者入りしていた三組の神崎・白川は11位以下に落ち、
代わって勝田・一ノ瀬が優秀者入りを果たした。
「ケッ、頭がおかしい奴らの点数を晒して何が楽しいんだよ。」
達也は全く興味ないといった感じで自らが座る椅子を傾ける。
俺はそんな達也を前にして特に何をする事もなく座っていた。
毎回十位以上は廊下にあのように掲示される。
達也は自分の成績表を見ている。優秀者たちと自分の成績を比べているのか。
「でも達也は順位上がったんじゃね?メッチャ勉強したんじゃん?」
「……まあな。67位!前回の96位から大躍進だぜ。」
「恒太もちょー上がってたらしいよ。143位から102位だって。」
「勉強会の成果って奴だな。本当助かった。」
「俺は全く順位上がんなかったけどね。」
「そうなのか?まあ剛司は元々順位良いからな……ただ、神崎はざまあだな。」
「確か11位って聞いたよ。僅差だったんじゃね?」
「そうか……すぐ復活しそうだぜ、まったく。」
達也は成績表を片づけてうんと伸びをした。
テスト勉強から解放される喜びに浸っているのだろう。
彼はふわとあくびしたが、しかしそれは勉強疲れからではなく、
大方昨晩遅くまでゲームでもしたからなのだと容易に予想がついた。
そろそろHRが始まる頃だ。俺は席を立って自分の席へと戻った。
「ハロハロー。」
昼が来たので達也と恒太の所に合流する。
恒太は昨日からずっと成績表をもらって若干嬉しそうだった。
今日は彼の顔から謎の暗い影が見られない。
「やっぱ恒太なんか幸せそうじゃね?」
「そうだな、お前いつもより明るいぞ。」
恒太は困っているのか喜んでいるのか分からない顔をしながら、
太い眉をひくひくとさせて俺達の問いに答えた。
「いや、はい……まあこんなに順位が上がったの初めてなんで……全教科順位が上がってたし……」
「俺達の教えた数学が上がり幅大きかったのか?」
「あ、それもあるんですけど、英語が特に大きくて……」
「くはっ!それは俺関係なく、剛司の力だな……チクショウ!」
「いえ、皆さんありがとうございました。今後ともぜひ……」
別に俺の力では無い。
恒太は恐らく達也に英語を教えるためにいつもより集中して授業を聞いた。
それが成績向上の大きな要因になったのだろう。
「まあこれで恒太から堂々と英語が教えてもらえるわけか。頼んだぜ優秀生君。」
「あの……当たり前ですけど総合順位達也さんの方が上なんで、あと……それから達也さんの方が英語の総合点上だったような……」
「いや、OCはお前の方が上だったろ?だから頼んだぜ。」
「あ、はい……三点上だっただけですけど、はい……」
恒太は小声で言い返したが、達也には聞こえていない様だった。
彼はふんぞり返って、先ほどまで読んでいたラノベのページを雑にめくる。
「おい剛司、恒太。お前ら好きな奴居ないのか?」
達也のその急な問いかけに対する、恒太の動揺は推し量れないものがあった。
恒太は何度か目線をこちらに向けながら、早々と答える。
「いや、いないですね……」
「そうか、剛司は?」
「俺もいないかな。そーいう達也はどうなの?」
「何だお前ら、寂しい奴らだ……俺はもちろん居るぜ。画面の向こう側にな!」
「あ、はい……実際それ反応しづらいのでやめて下さい……」
達也は気まぐれに突拍子のない質問を繰り返す男だ。
こういう事態には、恒太もそれなりに慣れてきたとはいえ、
俺は毎回恒太の焦る顔を見なければならなかった。
「突然空から美少女が降って来ないもんかね……」
「達也ラノベの読み過ぎじゃね?」
そう突っ込みながら、やはり「少女」に限定された達也の恋愛対象を聞いて、
当然と言えば当然ながら、恒太は多少なりともショックを受けたようだった。
達也は適当な発言を繰り返すのに対して、恒太は一つ一つを気にし過ぎる。
それをしかも全てネガティブに捉えてしまうので、救いどころがない。
ラノベの本を開いて顔の上に置きボーッとする達也。
そうして達也の目線が外れた時に、恒太がアイコンタクトを仕掛けてきた。
今夜は宇野剛司お悩み相談室、開室の合図だ――。
寮に戻ってくると、そこでは今日発表された優秀者の話で持ちきりだった。
そもそも寮生は基本的に成績優秀な人間が揃っている。
平均値である100位を切っているのは、恒太や剣道部の六道くらいのものだ。
まだ一年生なのに、夏休みに勉学に励み、今回順位を上げた者も多い。
そのトップバッターが、「上川 大樹」だった。
彼は元々成績優秀者、上位十名に入る人間ではあったのだが、
今回はその順位が問題になった。
『教祖』勝村を破っての、『神童』花園、『清楚』城崎に続く三位である。
「上川すげえじゃん!やるなあ!」
「お前どんだけ勉強したんだよ!」
喧噪の中でただ一人冷静に座っている蒼髪の男、上川は、
眼鏡拭きで綺麗に汚れを取った眼鏡を掛け直して、外野に言い放った。
「……たかが順位ごときに一喜一憂する程、暇では無い。」
一瞬にして喧噪が静寂に変わったその瞬間、上川は立ち上がり、
たった一杯のご飯と、たった一杯の味噌汁で完結させた夕食のトレーを手にし、
騒ぎの中をすり抜けて、早足に立ち去って行った。
「いやあ……真似できませんよ、はい……」
遠目で上川を見る恒太の目には、どこか羨望が混じっているように思えた。
「そもそも上川みたいな成績取れないじゃん。」
「そうなんですけどね。……いや、独特の空気感を持ってると言うか、達也さんでも中二病のどこか冷めた演技をたまにしてますけど、上川君のあれは、ガチなんですよね……」
「お前、達也の事本気で好きなの?けなしすぎじゃね?」
上川大樹は謎めいている。
接点のない俺たちには掴めない性格の彼に対して、
俺は少なくとも憧れというものを、恒太のようには抱けなかった。




