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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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幼なじみの衝撃(3)

8月31日 (金) 11:20



「……おい。」


俺が思わず声を挙げた瞬間、テルとヨウジがこちらに目を向け、

すぐに合わせていた唇を離し、突然距離を置いた。

そして二人はそのまま、時が止まってしまったかのように固まってしまった。

そりゃそうか。こんな衝撃的な場面、見られたんだから。


「な、何やってんだよ、お前ら……」


思わず俺はそう言ったが、ヨウジとテルの表情は固まったままだ。

ついでに俺はというと、この場から消えたい気持ちだ。

こういうのは決まって第三者が、かえって恥ずかしい思いをするものだ。

こんな微妙な空気を味わうくらいなら、スルーした方が良かったよ。

それとも、ヨウジのクサいセリフに突っ込んだ方が良かったか?

ツヨシとの会話でスルースキルを身に着けたと思っていたが、まだまだだなあ、

なんて事を思っていると、テルが特有のあの笑顔を浮かべた。


「見られちゃったね~、ヨウジ~。」


いつもの表情を浮かべながら、テルは俺を見て、それからヨウジを見る。

そのままテルは天然パーマの前髪をいじりながらこう言った。


「付き合ってるんだ~、ヨウジと~。」



まああのキスは、偶然の唇の衝突である可能性が僅かに残っていたものの、

いや、やはり「そういう事」でしかないのだろう。

幸いにも二人が時間をくれたので、俺の脳は既にその結論に至っていた。

……もちろんあっさり認められるような事実ではなかったのだが。

こういう場合の適切な反応を、学校では教えてくれないから困る。


「……そうか。それで、いつから?」


これが俺の精一杯の反応だった。我ながらそんなに不自然じゃなかろう。

テルはようやくヨウジと顔を見合わせたようで、

その続きはヨウジが答えてくれた。


「去年くらいからだな。もう一年たったんかもな!」


何となくぎこちなく感じたが、ヨウジはそう言ってテルに目を向ける。

テルはうつむいて、静かに首を縦に振る。

そんな二人の反応なんてどうでも良い位、俺は混乱していた。

一年……つまりは中三の頃から、こいつらは付き合っていたのか?


思えば中学時代、オレ、テル、ヨウジ、リョウスケ、

よくこの四人でつるんでたものだ。

小学校からの友達だったし、何しろ家が近かったし、

特に仲が悪くなるような要因は無かったのだから。

だがそんな純粋な友達同士の関係だと思っていた中に、

こんな形で「BL」が潜んでいた、とは誰が予想できようか?


「タツヤ、びっくりした~?話しといた方が良かったかな~。」

「……驚きはするさ。出来れば話しといて欲しかったかもな。」


動きを止めていた時間が長かったせいで、テルに顔を覗き込まれた。

俺は焦りを隠しながらも恐らく一般的であろう解答を出した。

ヨウジが少しずつこちらに歩み寄る。一段と大きく見える。


「ま、そんな深い関係じゃないから心配すんな!友達の延長みたいなもんだ!」


ヨウジはポンと俺の肩を叩いた。

その力が思ったより強くて体勢を崩しかけたのは秘密だ。クソッ。

だが同性愛は果たして友達の延長で片づけられるものなのか?

追求したらキリがなさそうだが、このとき、

テルが少しうつむいて、放心しているかのようだったのが気に掛かった。

そんなテルの肩を、ヨウジは抱き寄せた。


「これから俺たちはデートの予定だからな!タツヤまた来週!」



あれほど卑怯な言葉があるのかと、俺は再び帰路をたどりながら思ったね。

「また来週」という言葉は、どっか行けという意味で間違いないだろう。

これ以上深く聞いてくんな、って事だ。

冷たいもんだねまったく。とはいえ知りたくもない事だが。


しかし頭の中がかき乱されたような、後味の悪い感覚が残った。

いまいち納得できていない。我ながらまだまだ俺は子供だと思うよ。

自分が作り上げた常識というものを覆すのがこんなに難しいとはね。

さっきの事は夢だったんじゃないかと考えるのが一番楽だ。


しかしその事実を知ってしまうと、今まで何とも思わなかった物事を、

実はあれはそういう意味だったんじゃないかと勘繰ってしまう。

証拠にするには不十分ながらも、俺が今年の夏休みをリョウスケと過ごした分、

ヨウジとテルは二人一緒に過ごしているはずだ。

そもそも俺がリョウスケとばかり一緒にいる事になったのも、

ヨウジが何やら忙しいとか言いつつテルと一緒に過ごしてたからで、

結局俺は遊び相手をリョウスケに求める事になったのだった。

俺とリョウスケはそういう関係では断じてないからな。


さっきの二人の態度には、何かしらの違和感を感じたのも事実であって、

それは単なる拒否反応だったのかもしれないけれども、

もしかしたら二人がまるごと俺を騙す嘘をついており、

キスもその作戦の内だった……なんて。


考えれば考えるほど、俺の思考回路はわけのわからない方向に走り、

それで、とどのつまり、何を考えても無駄だという事が分かった。



俺は家に付いて、昼食を待つ間ベッドに倒れるのだったが、

おっとすぐ勉強をしろなんて野暮な事は言うなよ、モヤモヤした気持ちは、二つの疑問へと行き着いた。


まず一つ。いつ友情が恋に変わったのか?

そして一つ。俺が本当の関係を知った事で、何か私生活に影響はあるのか?



  ○   ○   ○   ○   ○   ○


「……とっさの機転が効くもんだな!」

「うん。あれが一番良いかな~って思ったんだ~。」

「これからの演技が大変そうだけどな。」

「タツヤなら大丈夫だよ~。……それにいつかは本当の事、言わないとね。」


  ○   ○   ○   ○   ○   ○



一日というのは一瞬で、しかしどっぷりと確実に過ぎていくものであって、

「今日から三日間で宿題を全部クリアしなければならないのだ!よし、それじゃあまず机の周りをきれいにしよう!」

なんて思ったところが、まだまだ子供の証拠だよ。まったく。

机の周りの整頓を始めると、懐かしいマンガやゲームを発見してしまい、

俺はそれに熱中し、日が沈んで夕食や入浴を終え、

そして気づけば本来の目的も忘れて娯楽に戻り、眠気が襲ってきたところで、

そういえば宿題をやるんだったと思い出して、

それにしては目の前の机にはむしろマンガやゲームが散乱しているせいで、

整頓を始める前よりもずっと汚くなってしまい、

それでもって明日から本気出すと思いながら床に入る。


連休なんてそんなものの繰り返しだと、今まで身に染みて分かってたはずだ。

そして日曜日の夜には後悔だけが残っている。

いやはや俺は一歩も成長していないのだな。


と色々な事を考えながら、俺はひたすら英語の問題集の答えを写す作業を、

脳を使わずに手だけを動かして続けていた。

ちなみに現時刻は午前3時。英語はこれで終わりだが、国社は手つかず。

ええ、諦めるしかないですね、ええ。



テルとヨウジの事は気に掛かる事ではあったが、

それ以上に気がかりなのは明日のテストの点数だった。まったく。



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