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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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幼なじみの衝撃(2)

8月31日 (金)  8:20


担任が来るまでのちょっとした時間にも宿題の残りを減らそうと、

黙々と一人取り組んでいた所に、あいつは来た。


「ハロハロー。」


ああ、この挨拶を訊くのも一か月と少しぶりだ。

同じ一年三組で、年初めのオリエンテーション合宿を機に仲良くなった、

この男、「宇野 剛司(ウノツヨシ)」。


「宿題終わってないの?ドンマイじゃん。」

「いくらでも笑えよ、手伝う気が無いならな。」

「無いね。そーいうのは自分でやって意味があるんじゃん。」

「なんだ、説教聞かせに来たのか?」

「なわけ無いし。夏休み読んだマンガでも貸そっかなーって。」

「……俺の好きなジャンルも揃えてあるんだろうな?」

「当然。ツヨシ様ナメんなし。」

「それでこそ我が心の友!」


ツヨシは平坦で軽いノリながら低いテンションをキープする、

不思議な話し方をする奴だ。

このうるさくも無くつまらなくも無い感じが俺の感性に合っていたようで、

同じクラスの中では一番仲が良いと言えるだろう。

ああ、ちなみに幼なじみ集団はこの三組には一人も居ないのだ。


ツヨシは意気揚々と(無論テンションは低い)語りを始めようとしたが、

ちょっと気の早い我らが担任、水郷先生が教室に入って来、

ツヨシは着席せざるを得なくなった。


そしてその後は体育館に移動。

校長やら神崎生徒会長やらの長い話を聞かされ、

それらが終わって体育館から戻る時に、ツヨシがポツリとつぶやいた。


「そういや思い出したんだけど、ウチのクラスの流河って、花園と付き合ってんだってね。」

「……花園って、「花園 優希」か?……さすがに「翔希」じゃないだろうな。」

「そーそー。さっき二人でいる所見て思い出した。ちょーラブラブ。」


低いテンション、それから興味無さそうな表情と、

ちょーラブラブというセリフがあまり一致していない気がするが、

こんなちぐはぐな所がツヨシの良さであるから仕方がない。


「そういやもう一つ思い出した。一組と四組に転校生。名前は明野と花園。」

「……また花園?花園祭りだな。」

「何それ意味分かんね。三つ子の末っ子らしいけど、優希とも翔希とも似てなくて、チャラ男系だってさ。」


俺のさりげないギャグも華麗に受け流すあたりもよく分かってる。

特にありがたいのが、ツヨシの身長が俺と変わらない上、

こいつは運動部に入っていながら体格がそこまで恵まれてない点だ。

これなら俺と一緒に歩いていても俺がひ弱だと思われることも無かろう、うん。


「タツヤ話聞いてんの?」

「……花園の三つ子がどうしたって?」

「もうその話終わってんだけど。流河って白川(♀)と付き合ってなかったっけ?」

「何となく聞いた事あるな。でも今度は男だろ?見た目女っぽいとしても。」

「両方いけるってクチなんだろーねー。」


携帯の画面をいじりながら、適当な感想を述べ続けるツヨシ。

これを毎回真面目に相手するわけにもいかないので、

俺はスルースキルを身に着けていたのも覚えていた。

そういう意味ではお互いにスルーし合ってる変な関係だ。


「とにかく、俺には縁がなさそうだよ。そっちの世界とはさ。ツヨシ、お前もそうだろ?」

「……まーね。少なくとも俺は。」


既に渡り廊下を渡り終えて、一年三組は目前に迫っていた。

これが終わればまた水郷先生の話をちょっと聞いて、

それからは家に帰って金土日の三日間宿題とにらめっこ。辛いねぇ。

たいして脳を働かせる事も無く、ツヨシの最後の言葉を追及してみた。



「「少なくとも」って何だよ?」

「流河も見た目そっちには見えないじゃん?意外にすぐそばに、潜んでるかもしれないって事だって。」


ツヨシは俺の目を見ながら即答した。

この時のツヨシの目が、何かを訴えているような気はしたものの、

当然その変な予感の正体までは、この時は分からない。

それからついでに、もしかするとこのツヨシの言葉が、

こちらは本人が意図していなかった事だとは思うのだが、

これから起こる衝撃的な出来事の予兆だったのかもしれなかった――。



空腹を感じながら、俺は帰路をたどる。

太陽が昇りきっていないこんな時間に帰らされるくらいなら、

最初からこんな登校日が要らないと感じるのは俺だけなのだろうか?


今日は俺の部の活動も無く、

そもそもあっても専ら休んでばかりいる幽霊部員なのだが、

ともかく学校での用事は全て終わったわけなのだ。



ふと、前を見ると、何となく見覚えのある背格好をした二人の男が、

かなり遠くの方で一緒にゆっくりと歩いている。

しかもここは人通りの少ない通りで、

ここを歩く人間というものはほぼ決まっているようなものだ。

まず間違いなく、ヨウジとテルだろう。


あいつらも今日部活が無かったのか?

ヨウジは陸上、テルは吹奏楽をやっていて、共に忙しくしてるはずだが、

そんな事よりこれからどう声を掛けようか俺は迷った。


普通に後ろから声を掛けては面白くない。

俺はよくこいつらに後ろから声を掛けられる。あまりにも平凡に。

こうやってこいつら二人だけの場面に後ろから合う事は無い。

今回は絶好のチャンス!と思いながら、俺は後ろからこっそり近づいた。



「……無理だよ~。今日は予定入ってるから……」

「予定って?」

「……吹奏楽の友達と遊ぶ~。」

「嘘だろ?だったら部活抜け出して来ないだろ。」


……良く考えれば、こいつら二人だけの会話を聞いたことが無いかもしれない。

普段、こいつらはどんな会話をしているのだろうか?

近づくにつれて聞こえてきた声からは、状況が把握し切れない。


「ウチ来いよ、テル!」

「でも……」

「どうした?」

「…………」

「なあテル――?」


俺は衝撃的な場面を見る事になってしまった。

ヨウジが突然、テルの胸ぐらを掴み、自分に引き寄せて、

そのまま……テルと唇を重ねた。


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