ネガティブ・ラヴァーズ(5)
10月 4日(木)18:12
「あの、寮の入口までで良いですか?そもそも寮は立ち入り禁止なので、私は達也さんを隠す自信が無いですし、あと部屋には鬼が居るので絶対入れないと思います。そんな事になったら私の骨は海の見える墓地に……」
「深刻だな……乙、まあ入り口だけ見てこうか。」
靴箱で靴を履きかえ、二人で並んで校門に向かって歩いてます。
あれ、何これ?こんなに幸せになって良いんでしょうか?
そもそも並んで二人だけで歩くのが初めてのような気がしますし、
それから日が沈みかける中二人で歩くのは夢でしたし、
しかもこれ想像をたくましくすれば送ってもらってる感じですか?
達也さん人が悪すぎです。フラグクラッシャーのクセしてフラグ立てすぎ。
「お前英語結構出来るよな。テストで点が取れないのは何でだよ?」
「私の場合短期記憶型なんだと思います……」
「そうか。……まあ俺としては助かったけどな。ありがとよ。」
真っ直ぐこちらを見ながらそんなセリフ言われて、
私が直視できるとでもお思いですか?
歯に衣着せぬ物言い、いつでも素直に自分の感情を表す、
そんな達也さんに……僕は恋をしているんです。
「代わりと言っちゃなんだが数学は協力するぜ?」
「いや……そんな申し訳ないです。」
「そこはお世辞でもうんって言っとけよ。英語また教えてくれ。」
「……剛司から聞いた方が確実だと思います。」
「へっ、恒太はもう二度と教えてくれないってわけか。」
「いえ、そういう意味じゃ無くてですね、剛司さんの方が成績が良いわけですし、そっちの方が色々確実かと……」
達也さんとは対照的に、僕は素直になれないですね……。
素直と言うか自分に自信が無いだけですよね、私の場合。
でも自信なんて永遠に持てませんからね?逆ギレしちゃいますよ。
「次はいつ勉強会するよ?」
人気のない道で、肩を並べて歩いていたからかもしれませんけど、
その達也さんの言葉はジーンと俺の心に響いた。
……それでも達也さんは、「次」を作ってくれるんですね。
しかし部活のスケジュール的にどうなんでしょうかね。
「僕は明日部活で、剛司は確か土曜が新人戦選抜だったと思います。テストは再来週の金曜からでしたよね?来週は部活停止前だから目いっぱい部活入ってるし、残るのは難しいかと……」
「なら日曜だな。日曜なら剛司も空いてるだろ。」
「……日曜?」
「俺の家に来いよ。剛司連れて来い。」
くぁwせdrftgyふじこlp;@
「……ん?何固まってんだよ。俺の家そんなに汚くねえから。」
「いや……はい、あ、大丈夫です。うん。」
「そうか。」
そこで何のツッコミも無いのが素晴らしい所だと思います。
はい、私、一気に達也さんの家に行ける人間になっていいんですか?
なんか急展開過ぎませんか?事実は小説より奇なり!
とかなんとか考えている間に、いつの間にか寮の門の前まで付いてました。
「BL学園 薔薇寮」と堂々と書いてあります。当然男子寮です。
「……五階建てか?結構高いんだな。」
「部屋も意外と綺麗ですよ。ただ私物であふれかえって汚くなってますけど。」
「へぇ、今度何とかして中に入れてくれよ。」
「無理だと思いまーす。」
「そうか、それじゃ俺はこれで。」
「……はい、じゃあ剛司に伝えておきます。」
「おう。また明日な。」
夕暮れの中で、片手をあげた達也さんが格好良かったこと、僕は忘れないでふ。
「恒太ハロハロー。ってうわお!」
一年の風呂タイムに、浴場の剛司大明神のロッカーの前で、
恐らく部活の練習が長引いて疲れ切っているあろう剛司大明神を、
私は土下座で迎えさせていただきました。
「今日は誠にありがとうございました。剛司様のおかげです。」
「俺なんもしてないじゃん。」
「……いや、ラブラブなんちゃらは大成功だったと思います。」
「へー、良かったじゃん。」
話を聞く気があるのか分からない剛司さんでしたが、服を脱いで浴場に向かう間、事の顛末を一から十まで話しておきました。
「……日曜ねー、俺はいーけど、それこそ俺は断って恒太一人で」
「それだけは!さすがに一人では行けませぬ!!」
「恒太何か必死じゃね?」
「達也さんからのお誘いでもあるわけですし、ちゃんと伝えろって言われた、私の責任でもありますし、一緒に行ってくれませんか?」
「まー分かったよ。」
もう今日は本当に剛司様に尽くすつもりでありまして、
背中を流させて頂いております。
私はもちろん前掛けを掛けておりますが剛司様はオープン。イケメン台無し。
あ、うっかりイケメンと言ってしまいましたが、
平均と比べてイケメンという程度です。
私ですか?何と比べなくてもブサイクです。
「そういや恒太ってさー、こういう大浴場とかで興奮すんの?」
「あなたなんてことを。もう少し声を小さくして下さい。」
「だから男の裸見て立つの?」
「あのちょっと?近くに人居るんですけど。」
ものすごーく反応に困るので、
頼むからそのオープンな精神は海外でお願いしますー。
「いや、別にゲイってわけじゃないし……あくまで達也さんオンリーなので、他の人に、その、欲情とかそういうのは……」
「浴場で欲情とかつまんねーギャグじゃん。」
「話聞いてました?耳の穴もう一個くらい顔に開けてあげましょうか?」
シャンプーの泡に包まれた頭をこちらに向けてくる剛司さん。
何というかすごくアホづら。この人が勉強できるなんて思ってませんでした。
本当に残念なイケメンです。
色々落ち着いて、僕と剛司さんは広い浴槽に浸かりました。
真ん中には勝田・志田・秋山のサッカー部三人衆が陣取っているので、
そこへ突き進んでいこうとする剛司を止めて隅っこで。
「ふー疲れたー。」
「……剛司、新人戦選抜は上手くいきそう?」
「いや、やっぱ二年生には勝てないじゃん。一年生からは梓宮だけ選抜なんじゃね?いちおー練習はちゃんとやってっけどね。」
「まあ僕の分まで頑張って来て下さい……」
「お前も選抜頑張れよ。」
と話を続けていると、ふと剛司の頭の上に乗ってるタオルに目が行きました。
青いタオル。はて、剛司はこんな色のタオルを持ってたかな?
「そのタオル、どうしたんですか?」
「ああ、今日洗濯するの忘れててさー、タオル無かったから借りたんだよね。」
「へー、誰から?」
「菊池先輩。」
「ぬわあああああ」
「ま、借りたってか勝手に持ってきたんだけど。」
「ぬわあああああ」
「ちょーど菊池先輩風呂行ってた時にこっそりね。」
「ぬわあああああ何てことを!!早く洗濯して返しておいて下さいよ!」
「多分大丈夫じゃん。」
うん、これは間違いなくフラグが立ってきましたね★