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バルガク。  作者: ホワイト大河
第一章 踏み出したから、始まった
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ネガティブ・ラヴァーズ(4)

 10月 4日(木)17:14


「それで……まあそうやって数値を代入して、出来た式使って連立方程式だ。後は分かるだろ?」

「はい、まあ……何となく。」


今の私の答えは全くもって嘘です★

心臓の鼓動が早すぎて集中して聞く事が出来ません。

夕暮れに染まり始めた教室の、その綺麗な赤を浴びながら、

端正な白い顔で、はっきりした眼をこちらに向けられると、

もうどうしようもないですよね。分かります。おかず行きです。


達也さんは英文法に多少区切りをつけると、

続いて古典のプリントを取り出し始めました。

えっと……国語に関しては達也さんの方が点数が上なので、

私は何も出来る事がありませんけど?


「……古典教えてくれよ。」

「いや、無理です。……正直助動詞の活用で困ってるだけなら覚えるだけなんじゃないですかね。」

「……それもそうだな。」


早々に納得して、古典文法のテキストを取り出し始めたタツヤさん。

うーん会話するには俺が淡々と活用を教え続けた方が良かったのかもしれない。

でもこの緊張の中では変な事を喋ってもおかしくないでしょう。

だから達也さんが活用表を覚え始めてから十五分ほど沈黙が続いたのは、

何ら不思議ではないのです。悲しきかな!


俺がシャーペンを動かし、消しゴムを使う度に、その音が教室全体に響き、

この沈黙に耐えられなくなってきたので、僕は何か話題を探しました。


「……そういえば、洋次さんとテルさんってどうなったんですか?」


思いついたことを焦ってそのまま言ってしまいました。

しまった地雷踏んだかも。ちょっとしたテロでした。


「どうだろうなあ。あいつらから、あれから直接何も聞いてないし、ついでに俺と登校する時はいつも通りだし、分かんねえな。」


意外と普通の返答が帰ってきて、少し驚きました。

そういった点では、達也は全然引きずらない性格なのかと新たな発見です。

私は失敗を引きずり続けるので羨ましいです……。


「多分何も状況変わってないと思うぜ。……いわゆる、セフレのまま、な。」


達也さんは複雑な顔をしていました。

……友人同士がゲイで、しかもセフレだと知ったら、

僕だったら状況が分からずショック死すると思います。


「ま、俺は彼女いない歴=年齢の悲しい野郎だから、恋愛とかそういう事には疎いんだけどな、乙!」


知ってますう。すごい知ってますよお。とんだ鈍感野郎ですよねえ。

ばれてもおかしくない事件が多々あったのに、一つも気づかないんですもん。

僕はいつの間にか作り笑いしてました。すごい下手な作り笑いです。

顔が引きつって笑ってしまいます。作り笑い上手い人は素直に尊敬ですね。


「で、お前は好きな奴いんのかよ。」


私の顔がもっと引きつりました。

緊張のあまり口がパクパクと動きます。


「な、何でですか?」

「何でって……別に深い意味はないが。」


そうですよね。話の流れ的に好きな奴訊くの自然ですよね。

「何で?」とか言ってすごくいい展開を意識してる自分気持ち悪いわ。

色んな感情が込みあがるのを必死で抑えて、落ち着いて言いました。


「私いません。恒太はみんなのものです。」


落ち着きが全く無い解答でした。

今日は寮に戻ったらすぐ懺悔しよう。今までの自分に。




「そうか、まあ俺もだけどな。」


ふう。達也さんが馬鹿で良かった。

深く追及されてたら死んでましたよ、確実に。

それからもう一つ、達也さんに好きな人が居なくて良かった。

居たら今日の一日全てが終わってたと思います。ほっとしました。

達也は首を傾げている。


「いまいち女子に興味っつーもんが湧かなくてなあ……」


何それ。ゲイって事?

女子には無いけど男子には興味あるとかそういう感じ?

いや、ダメだ。そういう勝手な過大妄想は良くないですよね。


「まあそうですよね。女子との出会いが少ないBL学園ならなおさら……」


やっと当たり障りのない発言が出来ました。すごい落ち着いた。

そこから再び沈黙が始まって、問題集を解く作業に。

私は正直さっきの数学の問題からずっとつまずいてるんですが、

もう一度訊く勇気は無いので飛ばして他の問題へ移りました。


「お前、寮楽しい?」


唐突な質問が達也さんから飛んできます。

恐らく達也さんの思考の中で先ほどの質問から何か発展したのだと思いますが、

そういうのは傍から聞いてるだけでは全くわかりません。だから気にしません。


「はい、まあ……」

「剛司に前訊いた時には、「微妙。それなりに楽しいんじゃね?」という曖昧な返事だったんだが……」

「あ、多分僕が楽しいと思っている事は、剛司さんにとってはどうでも良いレベルの事だと思うので……」

「そうなのか?」

「自分は寮には感謝してるんですよ、寮が無かったら今頃友達居ないですし。」

「安定のネガティブだな。」


達也さんはいつの間にかペンを置き、こちらに身を乗り出していました。

今まで主に剛司も交えて三人でしか話してこなかったので、すごく新鮮な感覚。


「お前剛司とはどうやって知り合ったの?」

「階が同じで……突然話し掛けられて仲良くなりました。あのテンションで来られると引けないというか……」

「……成程、剛司らしいな。他の寮生たちとも仲良いだろ?」

「剛司は結構誰とでも仲良いですけど、私は人見知りだしクズなので……」

「他にも同じ階の奴いるだろ?」

「ほとんど二年生で、あとは二組の秋山と五組の舞空ですかね……」

「元ヤンと優等生か、お前だったら絡みづらいだろうな。」

「はいその通りです。」


達也はペンを指の上で踊らせ始めました。とっくに勉強はそっちのけです。

話が盛り上がってきた所で、第三者が登場です。


「……ん、まだ残ってたのか?部活ないなら早く帰れ。」


確か一年三組学級委員、神崎誠二(カンザキセイジ)

黒い短髪で中肉中背、これといった特徴の無い、真面目な優等生。

学年で五本の指に入る秀才。私とは縁のなさそうな、地位の高いお方ですね。

達也が机の上を片づけ始めながら神崎に答えてました。


「お前も結構遅くまで残ってんだな。」

「ああ、俺は委員会だ。ついでにこれから部活。」

「はあ……絵に描いた様な真面目だねえ。」


最後の言葉に反応する事無く、神崎は黙々と委員会ファイルなどを片づけ、

その間に俺と達也は勉強の後片づけ、それから帰る荷物を整えました。

あ、突然第三者が介入すると私が空気になるのは仕様です★

……そういえば今日のお礼を言っておかないと。


「あ、本日はどうも勉強を手伝って頂きありがとうございまs」

「せっかくだからお前らの寮見てくわ。案内してくれ。」


あ、はい……はい?

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