ネガティブ・ラヴァーズ(1)
10月 2日(火) 21:45
……あ、はい。どうも。皆さんこの度は本当に申し訳ありません。
深く深くお詫び申し上げます。
俺なんかどう考えても需要ゼロだと思いますけれども、
しばらくお付き合い頂けたらと思います。
えーっと、俺は「落合恒太」という者です。ピチピチの高一です。
さっきまでの話にチラッと一応出没してたわけなんですけれども、
読者の皆さんとしては、テルさんとか洋次さんとかが主人公になって、
話の続きを楽しみたかっただろうとお察ししますけれども、
何故か次を俺がやる事になりまして、いや本当に申し訳ないんです。
あ、というわけで人生真っ暗編始めまーす。
僕は今、寮の一室に居ます。もちろん自分の部屋です。
電気はつけてません。真っ暗です。お先も真っ暗です。
でも落ち着きますよね。僕には光が差さない方が……
突然明かりが点きました。
「ハロハロー。何電気消してんの?完全に陰キャラじゃん。」
部屋の入口に立っていたのは剛司。勝手に電気を点けたようです。
その眩しさに俺は蒸発しそうです。このまま死んでしまいたい。
「やっぱ先輩のベッドふかふかじゃん。」
ふと声のする方向を見ると剛司が同室のベッドに飛び込んでいました。
え、犯罪?それ犯罪だよ。ついでに言うと罰せられるの俺だから。
「やめて下さいよ剛司さん。先輩にバレたら殺されますよ。」
剛司は立ち上がる気配を見せません。
風呂上りの濡れた体が先輩のベッドをどんどん汚して……
それから剛司は寝そべって先輩の私物をあさり始めました。
「修学旅行で先輩居ないとかちょーラッキーじゃね?俺、菊池先輩のエロ本、絶対発見してやるから。」
大丈夫?死ぬよ?俺が。
一年間穏便に付き合っていかなきゃならないから、俺は先輩に従ってきたのに、
その苦労を知らないのか、剛司が今その努力を無にしようとしてまーす。
――それは一年生の春の事。
俺はこんな身分で申し訳ないものの男子寮に入る許可を頂き、
少しは新生活への期待感も持ちながら、くじ引きで決まった部屋へ。
その同室には、一学年上の菊池博明という方がいらっしゃって、
「一音でも物音を立てない」という絶対的規律を守らなければならず、
ついでに俺はそれを何度か失敗して生死の境をさまよったものです。
あとなんか今、ポテチを食べる音が聞こえてくるのは気のせいだろうか。
「剛司さん何やってんすか。」
「んー?菊池先輩がポテチ置いてたから頂いてるんじゃん。」
「え、どういう事?剛司さん病気って事?」
ついでにそこ先輩のベッドの上なんですけど。
それから剛司さん食べ方汚い。ベッド一面ポテチが落ちてる。
「あ、もう無くなったじゃん。つまんね。」
「誰ですか?他人のポテチ食べ切ってるのは。」
「俺帰る。」
「ちょ、ちょっと待って。掃除してって下さいよ。」
剛司を強制的に引き止めてベッドの上の掃除をさせました。
もちろん俺も死に物狂いで掃除しました。
でも知ってますか?ポテチって油が多いから、
布物の上に置いとくと、油が染み込むんですよー。
「……え、どういう事ですか?油が落ちないんですけど。」
「ま、仕方ないじゃん。恒太頑張れー。応援してる。」
「なんでこんなことしたんですか?え、俺に何か恨みでも?」
「いやー、なんとかなるじゃん!と思って(笑)」
「(笑)じゃねえよ。」
それでも剛司はあくまでもギャグのノリで逃げようとしたので、
とりあえずボコッて再起不能にして、先輩のシーツを洗濯に出して、
なんとか取り繕って戻ってきました。でも多分気づかれます。
部屋に戻ってみると、剛司が自然に先輩のお茶を飲んでました。
本当この人何なんでしょうか。
「そろそろ達也も元気取り戻したんじゃね?夏休み前に戻った感じ。」
……親友のテルさんや洋次さんとの一件から一か月。
達也は最初こそ色々思い悩んでいたようでしたが、
最近はもう開き直って、あまり気にしなくなったようです。
「だからさ、恒太そろそろアプローチ再開したら?」
「……え、アプローチって何ですか私初めて聞いた」
「お前と達也とラブラブ大作戦の事だって。ちょーラブい。」
ちょっと剛司の声が大きかったので五、六回殴っておきましたが、
そうですね。そろそろ……できたら良いんですけどね。
あ、どうでも良いと思うんですけど、俺は一応ゲイでして、
ついでに達也さんに恋してるわけであります、はい。
「ちょうど二、三週間後に定期テストじゃん?で、達也は剛司と落ちこぼれ組とか言ってんじゃん?それに乗じて二人で勉強とかしたらどうよ。」
「……うーん。難問ですね。」
「何で?それお前がネガティブなだけじゃん?」
「いや、違いますよ……達也さん典型的なフラグクラッシャーだから。」
○さりげなく映画に誘った時
「最近見たい映画があるんですけど。」
「そうか。」
「バイオハ●ードで……」
「おお、それは俺も見たいと思ってたんだ!恒太は話が分かる!」
「え、そ、それじゃ、今度の日曜日……」
「見に行くのか?感想報告しろよな。」
○ペットボトルを回し飲みした時
「ほらよ。」
「え、良いんですか?」
「気にすんな、俺とお前の仲だろ。」
「……こ、これって、か、間接……」
「そうだな。英語の間接話法って難しいよな。」
○テストの前
「俺、このテスト終わったら結婚するんだ……」
「そ、そうですか。」
↓テスト後
「満点だった。恒太赤点ざまあ!」
「……というわけでね、どの作戦も惨敗だったわけですよ。」
「なんか違うフラグ混ざってるんじゃね?それは置いといて、お前が直球で言わないからじゃん。達也自身直球どストレートな性格だし、勉強しよう!ってストレートに言えば良いんじゃね?」
「それが出来たら苦労しないんだ……」
「恒太がんば。応援してる。」
「絶対してないだろ。女子が友達にかわいい!って言うのと同じレベル。」
というわけでですね。
なんだかんだで明日あたり、賭けてみようという事になりまして、
そうと決まったからには、
どういう態度で行こうかとか、どういう流れを見つけたらいいかとか、
一生懸命考えすぎて一睡もできませんでした★
あ、ちなみに剛司は、先輩のベッドでぐっすりと眠っていました。
自分の部屋帰れよ。菊池先輩に殺されろ。