クリスマスの衝撃(1)
第七部「俺の嫌いな引っ込み思案」を読むとより理解が深まります。
12月20日(木) 8:13
よう。主人公のタツヤだ。俺は結構、天変地異は起こると思ってる。
……いや、今とんでもない問題の渦中にいるんだが、ちょっと聞いてくれ。
まずは順を追って説明しようか。
そうだな、事件の始まりは今週の月曜日、リョウスケと一緒に帰った。
ハッキリとは覚えてないが、こんな感じだったと思う――。
「高校生だってのに、彼女もなし。寂しいもんだねえ。」
俺の脳裏にはイチャイチャするヨウジとテルの姿もあった。
いくら彼女が居ないからって、男に走る趣味は俺には無いがな。
プールに向かう良助はどことなく上の空で、
恐らく水泳の事を考えてるんだろう。俺は苦笑した。
「気にする事も無いだろ。」
「まあそうだけどな。俺の周りはヨウジ・テルコンビをのぞけば、好きな人の一人も居ない寂しい奴ばっかりだしな……」
それを言った途端に、リョウスケがじっとこちらを見てきた。
何だこいつは。まさかこいつもゲイに目覚めたのか?
「隠してる奴は居るんじゃないか。」
「……どういう事だよ?」
「落合とか、好きな奴いるっぽいぞ。」
……何だって?
「……あいつに聞いた時は、居ないって言ってたが。」
「隠してるんだろ。予想だけどな。」
リョウスケとコウタの意外な接点にも俺は驚いたが、
それ以上にコウタが誰かさんへの淡い恋心を、俺に隠していたのには驚きだ。
さらにリョウスケは意味深な表情で付け足した。
「それに前聞いた時、居るって言ってた気がするぞ。タツヤたちに隠す理由でもあるんじゃないか。」
俺たちに隠す理由……?
全く思い当たる節はないが、とりあえずそのリョウスケの告げ口が、
俺をしばらく悩ませることとなったのだ。
その翌日の火曜、ツヨシにも念のためコウタの事を訊こうと思ったが、
俺と違ってテスト勉強に勤しんでいたため声を掛けられず、
そのまま帰り道テルと一緒することになって、
そこで「男なんじゃないの~」という瞠目するようなアドバイスを受けた。
その点についてはテル語り手回で語られていたため割愛する。
俺は考えた。コウタが男が好きなんだとしたら、相手は誰なのかと。
よく分からないが、同じ野球部の奴なんじゃないかと思ったわけだ。
俺もツヨシもそいつを知らないから、俺たちに言う必要無かったんじゃないか。
……いや、知らない人だったら言っても分からないから、
むしろ俺やツヨシに言うはずだ。
ならば、やはり知っている人物――。
俺が真っ先に頭に浮かんだのはツヨシだ。
いつもわざわざ五組から三組に遊びに来るのは、
同じ寮生で仲のいいツヨシと一緒に食べたいからに他ならない。
何という事だ、俺は知らぬうちに二人の恋の邪魔をしていたとは……。
俺は鈍感お邪魔虫だったのか……その夜はそういった結論に至ったのだ。
友人同士のコウタとツヨシがイチャイチャするシーンを想像するのは、
ちょっと前までなら耐えられなかったが、今は大した事もない。
何せ今身近でイチャイチャしてる存在と言えば幼なじみのテルとヨウジ。
ずっと一緒に遊んでた幼なじみ同士の恋愛ほど怖い物は無いぞ、まったく。
それで、水曜日を迎えた。
こんな時だったがテストはそこそこにこなせた。
コウタとの勉強会のおかげで、なかなか俺の成績は安定してきているのだ。
……勉強会すらも、ツヨシとの時間を奪っていたのかもしれないと考えると、
ひどい罪悪感を覚えたのが記憶に残ってる。昨日の話だからな。
テスト終わりということで、コウタ・ツヨシと三人で昼メシを食ったが、
それはテストの前後で全く意味合いの異なるものであり、
前はただの友人の座談会、後は恋愛的な意味合いを持った会合と、
なってしまった事が俺は少しだけ哀しかった。
クリスマスパーティーにもちろんコウタに声を掛けたが、
それすらも、本当はツヨシと二人で過ごしたかったんじゃないかと気がかりで、
ただこっちのパーティーの提案者がツヨシだったのでどうしようもなく、
コウタも見かけ上喜んでいたのでまあ良しとした。
……独白が長すぎるな。悩める男はツライぜ。
俺の中でまだコウタとツヨシの関係が固まらないまま、
何とかコウタに真相を聞き出せないものかと歯がゆい気持ちで、
迎えた木曜日の朝、事件が起きたのである。
俺の事を好いてる奴が居ると、テルとヨウジが言いだしたものだ。
何という夢物語。変に期待させようとしてもそうはいかんと思ったが、
むしろそれは期待できる物語では無かった。
俺を好いてる奴が「男」だと言うのである。
……こんなんばっかりか。と咄嗟に思った俺の脳裏で、
その好いてる奴と、コウタの好きな人の話は自然と重なってしまった。
だから、本当に特に意味も無く、直感で俺は言ったのだ。
「おいテル。まさかそれ、コウタじゃないだろうな?」
コウタがツヨシや俺の前で……いや、俺の前で好きな奴を明かさず、
そのくせ大して仲良くないはずのテルには明かしていて、
そしてテルは俺のことを好いてる奴を知っている。
いやな推理だった。だが俺は外す事の方が多い。
テルが笑い話に変えてくれることを俺は心のどこかで望んでいた。
「そんなわけないじゃ~ん。」
前髪のうねりを直しながら、テルは笑顔で答えてくれた。
……笑い話になった。そう、テルはそのつもりだった。
だが俺は、俺の平穏を崩す余計な事実を知っていたのだ。
リョウスケが教えてくれた、テルのある法則。
「うそをつく時に、前髪をいじる。」
……そうテルは、前髪をいじっていたのだ。
ラブコメ展開キタコレェェェェェェェ!!
色恋沙汰に無縁な俺が、とうとうそういう機会に巡り合えるとはねェ。
身の回りに同性愛者が増えてきたのは、その前兆だった気がするぜ。
何はともあれ一件落着、真実が分かって一安心、
ってなるかボゲェェェェェェェェ!!!!!!!!
俺はその時テルを傷つけてはならないと、気づかなかったふりをした。
というかそれをするので精いっぱいだった。
――どういう形であれ恋愛は恋愛だ。
これをギャグに変えてしまうと、きっとどこかで誰かが傷つく。
だからこそ、俺はどうすれば良いか分からない。
笑えばいいのか、怒ればいいのか……答えはどこにも無い気がした。
ただ確実なのは、コウタは俺のことが好きだという事だけなのだ。




