幼なじみの衝撃(1)
8月31日 (金) 8:00
ようこそ バルガクワールドへ。
俺の名前は「長瀬 達也」。
町のどこにでも居るようなのを一人取り出した、
一般的で普遍的で日常的で、高校生らしい高校生で、
特にこれといった取り柄もない高校一年生。それが俺だ。
なんとなーく俺にも特殊な能力でも備わってんじゃないかとか、
周りと違う特殊な人間なんじゃないかとか、思ってた頃が二年ごろ前にはありはしたものの、
この学校に来てからまだ四、五か月のこの時期に、
自分がいかに普通であるかを良く思い知らされたわけだ。
何故かって、この学校、正確にはうちの学年には、「普通じゃない」やつが多すぎるわけだ。
例を挙げてみれば「花園 優希」というやつがいる。
茶色い髪が長くて肌は白く、愛嬌あって優等生、
これくらいの要素なら他でも見られそうなものでもあるが、
最大の奇異な点は「男」である事。
そんな奴らに比べると、俺なんか本当に一般人で、何の特徴もないわけだけれども、
何にせよ、高校生活楽しんだ者勝ちというわけでありますよ。まったく。
「おっすタツヤ!あれから宿題終わったんか?」
ちょっと待ってくれ。今まだ説明が全部終わってないんだが。
この物語の主旨だとか、主人公は俺で良いのかとか、
もう少し話さなきゃならん事が残ってるんだ。
「昨日もリョウスケとゲームしてたんだろ!」
……ダメだ、こいつの勢いは止まりそうにないぞ。
この無駄に明るくて背が高くて、とにかく目立ちまくる男は、
幼なじみの「住田 洋次」。
ちなみにコイツがいま言ったリョウスケってのも幼なじみだ。
「ところで休み明けテストの準備は大丈夫なんか?」
意図的に無視しているのに喋り続けるヨウジ。
無視を決め込もうと思っていたが、さすがにコイツ相手には不可能だ。
……って待て。俺は休み明けテストなるものを初めて耳にしたんだが。
「テストあるんだっけか?」
「宿題の中から出題するテストだろ?シラ切っても無駄だぜ!」
「……死んだな、初耳だわ。」
「おいおい!ま、月曜だしまだ間に合うだろ!」
「何だ月曜か……いや、それでもマズイな……」
「でもお前、そんな出来が悪ィ方じゃないし大丈夫だろ!」
「……それは何を基準に言ってるのかな、優等生君。」
「え、お前テスト悪かったっけ?」
「勘違いするなよ、あれは二週間の猛勉強の成果だ!」
こればかりは、しまったと言うしか無い。
親には遊んでばかりいて叱られて、宿題はもう終わってると豪語したばかりだ。
テストの結果を見られて、宿題終わってないのがすっかりバレてしまう。
太陽が俺をあざ笑うかのようにカンカンに照っているせいで、
学校に行く気持ちをさらに減退させる。
太陽よ、俺を笑ってる暇があるなら、
そろそろ秋に入る準備をしてくれないと困るんだが?
「今日始業式終わって部活あんのか?」
「いや、今日は無いわ。」
「じゃあ帰って速攻宿題に取り組むんだな!」
他人事のようにニヤニヤと笑いやがって。実際他人事だが。
部活と言えば、こいつ、ヨウジは陸上部に入ってるからして、
しばらく見ないうちに真っ黒に日焼けしている。
はいはい文化系の俺はと言えば、移動中にちょっと日に当たっただけで、
もともとの色からの変化は当然少ないわけだ。
身長も高く体格もイカツイ、そして色が黒いと揃ってしまっては、
随分ヨウジが俺に比べて、大人びて見えても仕方ない。
ひ弱な俺はちょっと背伸びした中学生だよ、まったく。
「おはよ~。」
学校まで数百メートルに迫ったところで、これまた耳慣れた声がした。
ちょうど良い。俺とヨウジが二人で歩いてると、
俺の見た目の弱々しさが目立ってしまって困ってた所だ。
「おっすテル!」
「よう、テル……しばらくぶりだな。」
「そうだね~、タツヤ元気だった~?」
「絶不調だな。宿題がまだ残ってやがる。」
コイツは「月山 和輝」。通称「テル」だ。
俺も身長が平均かそれ以下なのだが、コイツは俺より五センチほど背が低い。
ついでに文化系で、見るからにひ弱で、温和な男だ。
「テルは宿題終わってるよな!」
「うん。テストの準備までは終わってないけどね~。」
「ハイハイ乙乙……。誰か俺を助けてはくれまいか……」
「タツヤは自業自得だろ!」
「そうだよ~。頑張ってねタツヤ~。」
まあそんなホイホイ助けてくれるものを知ってたら、最初からそれに頼ってる。挨拶みたいなものだ。
……ところで、テルはともかく、俺とヨウジの話し方の区別は出来てるか?
俺はヨウジの様に、やたら「!」で表される程元気じゃない。
それで区別してくれ。いちいち説明するのも面倒だからな。
テルがヨウジの相手をしてくれてる間、もう少し説明をしておくか。
俺たちの居る学校は「BL学園」。
「そういう」目的でこの学校に来る人間も一部いるとは聞く。
しかしながら俺は、ただ単に近いからBL学園を選んだだけだ。
残念ながら皆様の期待に添える事は出来ませんな。ほっほっほっ。
それでもってもう一つ、付け加えておかねばならない事は、
この「バルガク」の主人公は、俺一人では無いという事。
今こそ、こうして俺が説明をしながら日常を送っているが、
残念ながら常に俺の視点で物語が進むわけではないって事よ。
ラジオでパーソナリティが変わるごとく、時期を見計らって、
俺じゃない人間の視点に変わっていくはずだ。
まぁ俺の周りで見ると、ヨウジにしてもテルにしても、確かに俺を含めて三人とも彼女無し、
そもそも居た事も無しであるが、そういう「BL」には少なくとも縁がないだろう。
……と思っていた俺だったのだが、その考えがたった一日で変わるとは、
この時は、予想だにしていなかったのである。