~大和編~
久ぶりの投稿です。
完結迄頑張ります。
「主文 被告人を懲役10年に処する・・・と長い判決を読み上げる。」
判事補に成って5年が経ち、今年から特例判事補として、
裁判官の長にも着くようになっていた。
予備試験から司法試験に1発合格し、司法修習生としても、比較的優秀だった為か、
本当は検事に任官したかったが、周囲の薦めも有り、
現在の職種に任官し、もう5年も経った。
事件の処理能力・運営能力・一般的な資質も上司に評価してもらい、
同僚・事務官との人間関係も良好で、日々忙しくしてはいるが仕事は順調だ。
最近の困った事と云えば、先月行われた裁判の判決文説諭が、
マスコミに名言説諭として取上げられてしまい、映像まで露出した為に、
少々ウザイ事になっている位ではあるが・・・
‘いや・・・もう一つ、悩みが有る’
それは、今日の昼休み、母と母の妹で有る叔母がタッグを組んで、
実家を音信不通にしている俺に、職場迄押しかけ、見合いを持って来た事だ。
其の時の事を、今、思い返しても、恐怖してしまう。
上に兄や姉も居り、孫にも恵まれている両親なんだから、
末っ子の俺の事は静観してほしかったが、
世間体だの、親不孝だのと、散々罵られた挙句、
明後日の日曜日にホテルで見合いだと、一方的にダブルで喋り倒し、
見合い写真も釣書きも渡さずに気に入るからの一点張り。
「大和、貴方いい加減にしなさいよ、全然実家にも顔出さないし、
電話でも生返事ばかりでどうゆうつもり、
結婚するつもりないの、お付き合いしている人もいないんでしょ」
「ああ、そうだけど、、でも母さん、おばさん、
此処職場の近くの茶店だから、声を落としてよ」
「とにかく、明後日の〇〇ホテルに11:00、良いわね、
遅れずに必ず来なさいよ」
「判ったよ、行くから・・・、あまり気が進まないけど」
「大和!、私の古くからの、親友の娘さんなの、
貴方には勿体無い位のお嬢さんよ、必ず気にいるわ」
と、叔母。
云いたい事だけ告げると、職場の所員に挨拶を済ませ、
2人は嵐の様に去って行った。
「結城君、お見合いするのかい?、もし今回がダメだったら、
次は、私の紹介する見合いをして欲しいんだが、
沢山の方に君を、紹介してくれと頼まれて困っているんだ。」
と、上司の地裁のトップが言い出し始めた。
「勘弁して下さい、自分、まだ結婚する気、全く無いですから。」
と、断ると
周囲の人達が、全員笑い出す始末で散々な目に在ったが、何人かの、
女性からは真剣な眼差しを送られ、面食らいながら、真顔に戻す。
今迄、女性からの告白を全て断り続けてきた俺は、
初恋の女性に渾身の勇気を振り絞って告白したが、
あえ無く撃沈されて以来6年間、
未だ‘あの人’を、引きずっている。
忘れ様と何度も思ったが、TV・雑誌・パソコン・スマホ、
あらゆるメディア媒体で、
‘あの人’を見ない日は無い程の、
有名人になってしまった人を、忘れる何て出来るはずが無かった。
‘あ~あ、見合いか~、まあ、俺としては、あの人以外だったら誰でも同じか・・
誰でも良いんだったら、母や叔母の顔でも立てた方が無難か’
と、裁判所からの帰宅途中の、
電車の車窓から流れる夜の都心の明かりを‘ぼ~っと’眺めながら、
初恋の相手「桐生美咲先輩」の事を思い返した。
初めて美咲先輩に出会ったのは、バスケットの部活で紹介された時だった。
‘凄く綺麗な人’が第一印象だった。
歳は1つ年上で女子バスケット部のキャプテン、
勉強も出来る様で同級生・後輩からの信頼も絶大だった。
アメリカ帰りの俺の事を何かと気を使ってくれ、
其の優しさに触れるたびドンドン惹かれていき、
隣のコートで女子バスが練習している時、
先輩と目が合う度にドキドキする俺、初恋なんだと感じた。
其れからの中学・高校・大学と俺は、年下とゆうハンディーを跳ね除けるべく、
美咲さんに追いつき美咲さんと、付き合っても見劣りしない、
死に物狂いで相応しい男に成る為に努力した。
しかしながら、俺は美咲先輩の前では、何故か、恥ずかしく、情けない姿ばかり
見せ、確実に嫌われている自分を自覚している。
何時も、そうだったと、あの頃を思い返す。
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最初は、何時もバスケットコートの隣で部活をしている、
女子バスケ部のキャプテンで、綺麗で、可愛いい人だな、と云うのが
印象だったが、性格を知るに連れ、俺は美咲さんへ、どんどん惹かれていき
初恋だと、認識するのに、時間は懸からなかった。
国立大学の付属中学に通っていた俺は、
家が近所と云うことも有り、
何時も、美咲さんが、通学する時間の
電車・バスで通学する様に決めており、
その日も、何時もと変わらず、一緒の電車に乗り、学校へ向かっていた。
美咲さんは、帰国したばかりの、日本の生活に慣れていない俺に、
凄い気遣いと優さを俺に呉れ、
天使の様な、微笑み何時もを向けて呉れる。
満員電車の中で、美咲さんが痴漢に会わない様に、
ガードするのも、勝手に俺の役目だと決め、
6両目右側の、最後備のドア横の定位置に、美咲さんを守る様に立つ。
「何時も御免ね、結城君、私ね、満員電車苦手だったんだけど、
結城君が、偶然、家の近所に引っ越して、
一緒に学校に行ける様になってから
助かっているんだよね、痴漢とか多くて・・・・。」
照れくさそうに、上目使いで、大和を見る。
‘うぉ~、まじ可愛い~’
大和は、壁ドンしている体勢で美咲を守りながら、
ポニーテールの髪形からフレグランスな良い匂いが自分の鼻を擽り、
綺麗で可愛い彼女を見ながら
下半身に熱い物を感じていた。
大和は元気で盛んな中学生、止む負えない・・・
‘やべ~、股間が~、俺が痴漢に成りそうなんだけど・・・、先輩に
気が付かれてないよな~’
などと、思いながら、テントを張っている制服の下半身部分の何時を直しながら、
直ぐに反応してしまう、自分が恥ずかしくて照れながら
「大丈夫っす、俺が、先輩の安全なスペース確保しますから。」
と、真顔で強がって見せる。
「う、うん、ありがとう、助かる」
と、下を向いていた先輩が恥ずかしそうにモジモジしながら顔をあげ、
笑顔で微笑んで呉れる。
‘やべ~、気が付かれたか?・・・’
と思いながらも、それを忘れようと
自分の妄想の世界へ入っていく。
‘美咲は俺が絶対に守る、だから心配するな’
と、頭の中で想像し、狂いだしそうに、恥ずかしくなり、
この妄想癖、直さないと、何時か変態扱いされると、
‘ちらっと’
先輩に目をやると、上目遣いに顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに微笑んでいる
俺の女神が其処にいた。
青かった中学生の頃。
この日、中学生時代の最悪の暗黒日を迎える大和は、
電車と降り、転校し、既に1週間で親友と呼べる、クラスメートで部活も一緒の
及川亮と、桐生先輩の親友の立花結衣先輩と会い、4人で
学園行のバスに乗り込んだ。
相変わらず、バスは寿司詰め状態だが、俺は、こんなに、先輩の近くに
いれる幸福を感じながら、浮かれていた。
其の時、
「ぷ~、ぷす~、ぷっと」
と、バスの中に響き渡る大きなオナラの音が響き、
バスの中に凄い異臭がし始めた。
咄嗟に、後ろを向いた俺は、顔をしかめている、立花先輩だと悟り、
自分が名乗りをあげる。
亮も、気が付いたのか、俺に話を合わせて呉れ、
立花先輩も、安心したのか、俺の嘘に乗っかり、
何を免れた。
「大和、ナイス判断、やるじゃん」
と、言って呉れ、満更でもない俺
そうすると、立花先輩が、
亮が桐生先輩と話している隙に
「有難う、助かったわ、本当に結城君、優しいのね」
と、ウインクしながら、照れ笑いし、桐生先輩の元へ行く。
俺は、その2人の後ろ姿を見ながら、桐生先輩は、俺のさり気なく、
男らしい優しさに気が付いて呉れたんだろうかと、
思いながら、ふと、
‘そういえば、電車で、‘有難うって’言われてから、一度も喋っていない。
部活まで、喋らないと、一日のパワーが持たない、とほほ・・・’
だが、学園に着く迄、先輩は目も合わせて呉れず、
何時もは部活でも、目が合うと優しい笑顔を向けてくれるのに、
今日は、目が合うと反らされ、部活が終わり一緒に帰ろうと待っていると、
「美咲、先に帰ったわよ、」
と、立花先輩に言われ
「以外に、結城君って、鈍感なのね~」
と、なぜか意味深な事を言われ
帰る方向が一緒の亮と、立花先輩とで、帰った。
悶々として、家に着くと、
両親が、近所の叔母の家に行くというので、気乗りはしなかったが、
晩飯抜きは厭なので仕方なく、夕食を御馳走になりに行った。
‘景子おばさん、ありがとう、先輩の隣に住んでいて呉れて’
俺は、今日の悶々とした1日の悩みが吹っ飛んで
苦手な景子おばさんに感謝の気持ちで一杯に成った。
其処には、俺の女神で有る、桐生先輩が、お父さんと一緒に
部屋に入って来たからだ。
お互いにビックリしたが、
先輩の方は、恥ずかしそうに、俺を見て、
「結城君っと」
呼んでくれた。
俺は天にも昇る気持ちに成っていたが、
景子おばさんと、桐生先輩のお母さんは、似た様なタイプらしく
俺と桐生先輩の関係を根掘り葉ほり聞き、
弄り廻し、勝手にネタにされ、先輩は困惑している様だ。
やっぱり、俺は、今でもこの2人が苦手である。
自分の膝に姪の美穂を座らせ、
隣にいる先輩をジロジロ見ていたが、
突然、先輩が思いつめた顔をして、
「結城君、今日の朝の事なんだけど、っと」
言って来た。
‘ああ。待ってましたよ、先輩!
俺、格好良かったでしょ’
と、心の中で、やっと言って呉れますか、と
「ああ、やっぱり気が付いていたんですね、俺が庇った事。
俺、誰にも言いませんし、だからもう、お互い忘れましょう。」
と、格好を付けてダンディーな大人の様に言ってみた。
‘結衣の事庇って呉れて有難うっと’
云う言葉を期待していた俺は
突然席を立ち、物凄い目で睨まれ、
気分が悪いと家に帰ってしまった先輩に
‘何が、どうしたんだ、何が起こったんだ、一体全体’
余りの突然の事に思考が停止した。
俺の両親と、景子おばさんは、
「大和、デリカシーのない貴方が、何言ったの、美咲ちゃん、怒って
帰ったじゃない、謝りまさい。」
「良いのよ、あの娘、短気で困ってるの、扱い辛いったらもう、
だから、気にしなくて良いのよ、大和君」
「本当に気にするなよ、此方の方が大和君に謝らなくてわ活けないね、
あの会話の何処に期限が悪くなる理由があるのか、あの年頃の娘は分からん」
と、先輩のお父さんにまで頭を下げられた。
俺は、今日一日の事を思い返し、
‘あ、テ、テントだ、電車の中での、俺の股間のテント問題について、
先輩、話したかったんだ’
見事な感違いで、とんでもない返答をしてしまった俺は
他聞、先輩の中で俺は変態のレッテルを貼られてしまったのだ。
優しい先輩は、俺のテントに、気が付いていたが、
‘気にしなくても、良いわ’
とでも言ってくれるつもりだったのに、
俺はその返答に、
‘テント見て、俺のアソコを庇い、位置をずらしたのを見ていた事
誰にも言わないだと、気にしてませんから、忘れましょうっと’
と、先輩を変態扱いしたのだと・・・
‘し、しまった。’
俺は、俺は、何て事を言ってしまったんだ。
その後、俺はどうやって家に帰ったのか、全く記憶が飛んでしまい、
痴呆症に罹った老人の様に成ってしまった。
それから、5年の歳月が立ち、高校生になっていた俺は、
中学生時代の黒歴史が有るにも関わらず、
相も変わらず、先輩の事が好き過ぎて、先輩から遠ざかる事が出来ず
高校に成ってからも、バスケットを続け、先輩が3年・俺が2年の時に
インターハイの切符を、男女共勝ち取った。
しかし、徐々にでは有るが、先輩も許して呉れたのか、最近では
変態扱いし、無視し続てていた俺に、喋り掛けて呉れたり、笑って呉れたり
一緒に、登下校迄付き合って呉れたりと、
少しずつ関係も改善していた。
なぜ、嫌われているのが分かっていながら、先輩の登下校迄、一緒しているか
と云うと、あまりに美少女の先輩は、ちょっと一人にしておくと、直ぐに男が
近付き、告白されているからだ。
今は、男性に興味が無いのか、全て断り続け、彼氏はいない事も確認済み。
殆どストーカーの様な俺だけど、先輩に恋している気持ちは純粋だ、
と、自分では思っている。
(だって、健全な青少年の俺は、先輩以外を思い浮かべてしか、下半身の分身
を処理しない、純粋だ)
その時期に、俺はまた、情けない姿を先輩に曝け出してしまう。
インターハイの間地かに迫り、体力の限界まで、練習していた俺や、部活の仲間
そして、先輩たち女子部員達も、夜遅くまで練習に汗を流していた。
あの時・・・事件が起きた。
帰宅途中の電車の中で、最近頻繁に俺に告白してくる
見た目は、どこかのアイドルグループにいる可愛らしい女子高生に
言い寄られ、非常に困っていた。
亮が傍にいてくれる時は、亮が適当に相手して呉れているが
2人になると、ベタベタしてくる
何度も断っているのにだ。
俺は、先輩と少しでも一緒に居たくて、その女を振り払い、
何時もの車両に行く。
‘はあ~’
また、俺を、そんな汚い物でも見るかの様な、冷たい・そして怒った
顔をしている先輩に声を掛けた。
「先輩、夜も遅いし、一緒に帰りましょう」
「別に大丈夫よ1人でも、近くによって来ないで迷惑なのよ、
ほら見なさいよ、ちょっと前に話してた、あの娘、
凄い目で睨んでるんだから、あの娘を送ってあげたら。」
と、先輩は、軽蔑の眼差しと共に、冷たく俺に言い放った。
‘ああ、また先輩の怒りを買ってしまうとわ、・・とほほ・・・’
でも俺は、何時もの先輩の仕打ちにも負けず、
「え、勘弁して下さいよ、待ち伏せされた挙句に、
今、告白されて断って来たんですから、
最近色んな娘から告られて弱ってるんですから、
でも、全て断ってますから、安心して下さい。」
と、最後の方は消えるような声で、先輩の表情を確認しながら云う。
「だから迷惑なのよ、彼女と思われたら心外だし、大体、結城君、
今の発言自慢なの、皆が、インターハイに向けて、
一生懸命頑張ってる時にどういう事、
誰にでも愛想良く笑顔振りまいてるから、
隙の有る状況に成るんじゃないの。」
と、怒られてしまったが、
‘じ、自分だって、隙だらけだから、あんなに告られているくせに、
俺ばっかり、攻めるんだからな~、自分勝手な言い様だな’
と思いながらも
「す、すいません先輩、でも俺、誰にでも笑顔何て振りまきませんし、
愛想何て・・・、じゃあ離れます。」
と、此れ以上怒りを買いたく無くて、隣の車両に避難する俺は
「俺が、愛想を振りまくのも、本当に嬉しい笑顔を見せるのも、
先輩だけですから」
と、小声で言いながら、先輩の元を立ち去る。
「え、何か言った、言いたい事が有るんなら、はっきり言いなさい。」
と、俺の背後から、怒り狂っている俺の女神が叫んでいる。
「何でも、無いっす」
と、俺は言い、泣きそうに成りながら
‘何で、いつもいつも、怒らせちゃうのかな、俺に対してだけ、なぜ
先輩は冷たいのか、そんなに嫌わなくても良くないですか
ほかの男子に向ける10%でも良いから、俺に向けて欲しいだけなのに・・・
で、でも嫌いに成れません、す、好きです・・・先輩・・・’
と心が叫ぶ。
纏わり憑いてくる、この悪魔女を引き離しながら・・・。
電車から降り、先輩が全速力で、ホームをダッシュしている姿を確認した
俺は、
‘ほら、夜遅いし、不安なんじゃないか、強がりばかり云うから’
と、先輩が心配でしょうがない俺は、後を追い掛ける。
「きゃ~、やめて」
と先輩の声と、2人組の男が揉めている。
俺は、頭に血が上ってしまい、2人組のDQNに体当たりしたが、
今迄、平和主義者の俺は、
身長183CMの細マッチョな体形で、
かなり良い体をしているにも関わらず、
喧嘩は全然ダメで
2人組のDQNにボコボコにされてしまう。
それでも、DQN達は俺に暴行するのに必死で、先輩には、構っていない
‘な、何て情けないんだ、俺って、い、痛て~、滅茶苦茶痛て~よ、
そ、そんな哀れんだ目で俺を見ないで下さい先輩~、格好悪すぎる~’
其の時、悲鳴を聞きつけた近所の方と、警察官が現れ、DQN達は、
俺に構わず脱兎の如く、逃げて行った。
「だ、大丈夫」
と、ボロボロに成っている俺に、哀れみの目で、声を掛けて呉れる先輩に、
「大丈夫です、大した事無いですから、でも、カッコ悪いですよね、
ヒーロー気取りで出て行ったんですけど・・・」
と、情けないのと、悔しいのと、先輩に恥ずかしい姿を見られてしまった自分に
無性に腹が立った。
「馬鹿、もう心配させないでよ、怪我でもしたら、
インターハイどうすんのよ、
結城君が、出場しなかったら絶対勝てないじゃない、
もう少しは、自分の今の立場も考えなさいよ。」
と、涙を溜めて、叱って来る先輩
「え、心配するの、其処ですか、先輩の為に、体を張ったのに。」
‘俺の事じゃなくて、部活を心配してたのか、とほほ・・・’
「そ、そうよ・・、ま、前から言おうと思ってたんだけど、
私の弱みを知ってるからって、慣れなれしくしないで、
私、結城君の事が苦手なのよ、貴方も何時もツンケンしている、
私の事何て、嫌いでしょ、
だから、嫌いな相手の為に、危ない事するの辞めてよ。」
と、先輩
‘俺の事が嫌い・・・、そんなにはっきり言われなくても、
いくら、鈍感な俺でも気が付いてますよ、
それでも、俺は貴方を忘れられない、バカな諦めの悪い男なんです’
‘でも、先輩の弱みを知ってる?、な、何なんだ弱みって・・・’
そんな事を全身の痛みに耐えながら、考えていると、
目に前が真っ黒に成った。
気が付くと、誠おじさんに抱えられ、景子おばさんと、先輩のお母さんが
心配そうに、
「大和、大丈夫か、おい。しっかりしろ、何が有ったんだ」
と、スピーカーのサラウンド放送の様に、怒鳴っている。
気が朦朧としていながらも俺は、
「あ~、痛って~、せ、先輩、怪我無いですか、大丈夫ですか?」
と、立ち上がりながら、震えて、真っ青な顔に成っている、先輩を見る。
立ち挙がったかと思うと、いきなり先輩に力一杯突き飛ばされ、
俺はまた、地面に転がる。
「もう嫌よ、何で、何時もあんたが傍にいると、こんな事になるのよ、
恥ずかしくって、生きていけないわよ、もうあんた何か大嫌い~」
と、俺は地面に転がりながら、先輩の絶叫を聞き、
道路に寝て、満月の月を眺め、叔母たちの
悲鳴にも似た、声を聴きながら、もう、この恋完全にOUTだ。
ジ、エンドと、気絶した。
その後、2人組の犯人は捕まり、
警察から事情を聞いた親が説明してくれた事によると、
俺に告白していた女子高生が先輩に嫉妬し、遊び仲間のDQNに依頼し、
先輩を襲わせる様に指示したという事だった。
先輩の両親も、景子叔母さんさんも、俺を心配し謝ってくれたが、
先輩は、相当深刻なショックを受け、人に会える状態ではないらしく
特に、俺には会いたく無いと、事件の事を思い出したく無いらしく
先輩の両親は、本当に申し訳無いと謝って呉れた。
そんな精神状態の中、インターハイは男女の両エースがボロボロで、
1回戦負けしてしまい、先輩達3年生は、部活を引退していった。
其れからは、先輩に合す顔もなく、通学時も先輩を避け
極力合わない様にし、先輩が卒業する迄、遠くから、
眺めているだけだった。
事件の後、俺は大好きだった、バスケットを止めた。
顧問や、亮からは、かなり引き留められたが、
俺の様子が尋常じゃない事に気使い、快く了承して呉れた。
先輩に大嫌いと言われ、近寄って来るなと、言われている俺。
‘でも、弱みを握っている・・・俺が?
何時も何時も、こんな事って何だ・・・?
心当たりがいくら考えても無いのにな’
‘まあ、中学生のテント事件以来嫌われてはいるんだが・・・とほほ。’
あんなに、ハッキリ大嫌いと言われた俺だが、どうしても、先輩の事が
好きで諦められそうにない。
もっと、努力し、先輩に認めて貰える、情けない俺ではなく
年下のハンディーと、現在嫌われてしまったが、頼りがいのある、
凄く格好の良い人間に成って、先輩に認めて貰い、告白しようと、
諦めの相当悪い俺は、怒涛の如く、一つの目標に向かって怒涛の
努力をしていくのだった。
あの事件以来、好きなバスケも諦め、高校生だった俺は、何を勘違い
したのか、先輩に嫌われた理由は、年下で、チャラくて、ひ弱な
男で、スケベな俺が嫌いなんだと思っていた。
大人に成った今、考えると、何て幼稚な考えだったと、当時の自分を
笑いたくなるが、あの頃が一番人生の中で、努力したと思えた時間でもあった。
何を勘違いしたのか、部活を止めた俺がやり始めたのは、
合気道と殺人術も含めたクラヴ・マガを習った事だ。
死に物狂いで努力したお陰で、かなりの腕前になったし、
元々体力には自信が有った為、練習も苦に成らなかった。
チャライと先輩に思われて心外だったが、言い寄る女を無視し、硬派を貫き
人生の目標を先輩が頼れる、先輩を守る男に成り、告白するという意味でも
勉強も滅茶苦茶頑張り、目標の警察官僚に成る為、T大に合格する事が出来た。
実は、先輩も非常に頭が良い方なので、T大に学部は違うものの、
入学されているのも確認済みで、相変わらずのストーカーぶりは健在なのだが・・・。
先輩に故意に避けられ、避け続けて、大学2年になった頃、久しぶりに
先輩に偶然に会う幸運に恵まれ、俺はあの時期、益々好きになってしまった。
当時、既に、T大に通いながら、芸能界で活躍し始めていた先輩は、
かなりの有名人で、既に俺の手に届かない存在に成りつつ有ったが、
俺は目標を変えることなく、日々努力を重ねていた頃
「結城、今日頼むから、合コン参加してくんねぇ、
イケメン連れて来いって、女性陣が煩くってさ~。」
と、元々、理学部へ行きたかった、理系男子だった俺が
人生目標の為に、法学部を選んだ為、サークル位はと、
勉強の息抜きと、興味とで、宇宙好きの俺は天文サークルへ入っていた。
いつもお世話に成っている先輩の頼みを断ることも出来ず、硬派で貫いている
俺だが、遅れても良いならという条件で、合コンに参加することにした。
と、俺は先輩に指定された、最近、流行っているという、イタリアンの店舗
に向かい、
‘はあ~、憂鬱だな、無意味な時間だけど、まあ、世話に成っている先輩
の顔を立てないと、いけないしな~’
「すいません遅れました。」
と、天文部の先輩に挨拶すると、席を進めて来る、女性2人の間に座った。
俺の向かい側には、顔をあげなくても判る・・・
どんなに遠くでも、認識できる俺の女神が、ひたすらに食事を摂っていた。
「あ、!」
と、声をあげた。
「ゆ、結城君!」
「桐生先輩!」
と、俺は余りの偶然の出会いに嬉しくて天にも昇る気持ちに成り、
「結城、知り合いなの、桐生さんと。」
と、先輩男子から聞かれ
「先輩、俺、聞いて無いっすよ、桐生先輩が来るなんて」
「おう、だって言ってねえもん。
だいだい、今日のお前は、俺たちのダシに成るんだから、
この場を盛り上げてよ、それよか、お前、桐生さんとは何で知り合いなの」
と、聞かれ、俺は先輩との関係を、当たり障り無い程度に説明した。
「じゃあ、美咲は、桐生君とは、中高時代の先輩・後輩と云う関係だけで、
別に、関係ないのよね・・・私達の邪魔しないでよ、良い?」
と、女性2人が言っているのが聞こえ、
「ええ、関係ないわよ、単なる、中・高の後輩で、苦手な部類なのよ、
他聞、彼も、私の事、苦手みたいだし、そうよね結城君?」
と、益々、人間離れした、超絶美女は、映像や、メディア、で見るより
美しく、目を離す事が出来ず、
‘コクコク’
と、頷くのみで返事すら出来なかった。
‘相変わらず、俺の事を毛嫌いしてるな、はあ~、何で俺は、
この人を好きなのか、もう、既に分からないな、
もう、ライフワーク・・・か・・・’
と、自虐的になったが、
今日だけは、会えて嬉しい気持ちが勝り、
‘偶然だけど、先輩に会えただけで嬉しいです、俺の事空気位に思ってもらおう
そして、進路が確定したら・・・、こ、告白します、待ってて下さい’
と、思いながら、先輩以外の人達と、久しぶりの素晴らしい空間を楽しんだ。
1次会が終わり
「美咲大丈夫、どうしたの、普段全然飲まないのに、
足腰立たなくなるまで飲むなんて!」
と、心配している先輩の友達
「だ、大丈夫よ、さ~お~り~、もう、私~帰る~」
と、呂律が回っていない。
タクシーを友達が呼んだが、酔っ払い相手を嫌うタクシーの
運転手に拒否されている様だ。
‘今が、チャンスだな、久しぶりに、一緒に帰りたい、素面じゃない
先輩とでも’
と、何度も懲りない俺は、不埒にも・・・
「俺、家まで送って行きますよ、家も近所で、
桐生先輩の両親も良く知っていますし、任せて下さい。」
と、俺は声を掛け先輩の友達に言う。
皆、酔っ払いのお守りは嫌だった様で、助かったとばかりに、
俺達2人を残し、2次会へと消えていった。
タクシーを、拾い直した俺は、
「先輩、大丈夫ですか、どうして、こんなに飲んじゃったんですか?」
と、本当に可愛いくて、不思議な人だなと思いながら、間地かで見る久しぶり
の先輩の顔を凝視してしまう。
「うるさい、何で結城、お前が来るんだよ、会いたくないんだよ~、私は~」
と、酔っていても何時もの調子だ。
酔って、暴れる先輩の色んな部分を、密着させたり、触り放題の俺は、
タクシーの運転手に、そっと
‘もう、良いですから’
と、タクシーを降りた。
‘だめだ、修業が足りん、硬派になっていたつもりだったが、
先輩を前にして、俺のスケベ心に、火が・・・・’
先輩の自宅迄、かなりの距離を残して、俺は先輩をおんぶし、
騒ぎ疲れて、寝ている寝顔を、
食べてしまいそうになるのを堪え
柔らかい2つの膨らみを背中に感じ、
毎回想像していた、お尻の感触を堪能しながら、
もっと、手前で降りれば良かったと後悔しつつも
夢の様な時間を過ごしていた。
「降ろせ~、スケベ~、どこ触ってるんだよ、結城~、
あんたの事なんか大嫌いなのよ~、おろせ~」
と、先輩が起き、背中で騒ぎだしたが、余りにも可愛い過ぎて
俺は、首を絞められ、落ちそうになる。
「せ、先輩危ないから、動かないで下さいよ、
僕が‘おんぶ’しないと1人じゃあ歩けないでしょ。」
「なに~、先輩に口答えするな~、
ちょっと、私の弱みを握っているからと偉そうなのよ、
そんな奴の事、嫌いに決まってるでしょ、下ろしなさいよ馬鹿~、
本当に嫌いなんだから、うっぷ、う~、気持ち悪~い」
‘また、弱みの話か~、一体何なんだよ、本当に一度、聞いて見ないと
いけないな~、’
‘え、まじ。や、やばい’
先輩は俺の後頭部に向かって、嘔吐を盛大にぶちまけた。
そして、先輩の御両親、叔父と叔母に今日の説明を済ませ
叔母の家で泊まり、余りの幸福な一日を噛み締めながら
深い眠りについた。
朝起きると、叔父と叔母が、俺の顔を不思議そうに眺め、
「何か良い事でもあったのか、気持ち悪い含み笑いなんかして、
ゲロ塗れで帰って来たくせに、昨日の合コンで、気に入った娘にても
会ったのか、大和」
と、叔父が言うと
「ふふ、貴方ったら、鈍感なんだから・・・、ねえ、大和」
と、此方も気味の悪い叔母
「べ、別に、そんな事は無いよ、」
と、自分の気持ちに気付かれまいと、必死な俺
‘此処で、叔母にでも気が付かれたら、もうお終わりだ’
と、急に真顔に戻す。
「御免、今日、俺、朝から大学なんだ、昨日は有難う、
それから、もう、昨日の事は忘れましょうって
先輩に伝えといて、お願いします。
僕は忘れましたってと伝えておいて」
と、用意された朝食にも手を付けず、叔母の家を後にした。
そして、月日が経ち、俺は、最終的に先輩を諦める原因になった
今迄送って来た人生において、最初で、最後の告白をした。
司法試験に、一発合格し、大学在学中に合格した俺は、
卒業を迎え、来月から寮暮らしが始まる為、
先輩に告白しようと決意した。
当初は、警察官僚を目指していたが、司法試験に先に合格した為、
先輩を守るんなら、検事でも良いかと、考え直し、
検事志望に切り替えた。
現在の先輩は、芸能人として大ブレイクし、日本中の誰もが知る
日本一有名で、日本一美女として、本人に会わなくても、毎日
どこかで、見かける存在に成っていた。
当然、俺の事何て眼中にないのは分かっているが、
男としてのケジメだし、人生の目標として来た集大成だ。
自分に自信もついた。
‘今しかない、よっし、やってやる’
と、叔母に土下座し、合格祝いを叔母の家で開いて欲しいと云い
先輩を含めた、先輩の家族も招待して欲しいとお願いした。
色々、聞かれるかと思った、俺だが、
叔父・叔母夫婦も、俺の両親も、そして、先輩の両親も、何も聞かず
俺の我儘を素直に聞いて呉れた。
そして、告白の当日、俺は、とんでもない先輩を見てしまい、
また、先輩に見られてしまった。
余りの緊張に、早く叔母の家に着きすぎてしまった俺は、
玄関でチャイムを鳴らすも、誰も出てこなかったので
勝手口の方へ廻った。
勝手口のキィーは、叔母が外出していても、何処に隠してあるのか
知っているからである。
何気に、先輩の家の庭が目に入り、
‘え、・・・・’
其処には、真っ白なお尻を此方に向け、おしっこを排泄している
最中の、先輩が其処に居た。
余りにも非現実の風景が、俺の目に焼き付き
何と、俺は無意識に、この非現実な状況に
本当に、無意識だった。
シーパンのチャックを開け、自分の分身を、握っていた。
そして、おしっこを終えた先輩は、俺に気が付いてしまい、
お尻を此方に向けた侭、固まってしまった。
「せ、先輩、下着を履いて下さい、そのままじゃ~、ちょっと」
と、顔を庭から背け、先輩に促す。
俺も、現実に引き戻され、無意識に握っていた、分身から手を離し
ジーパンのチャックを締める。
「せ、先輩、すいません、見るつもりは無いんですけど、
此処からだと、どうしても自然に見えるんです。
其れから、今日の事、お互い無かった事にして、
記憶から消して頂けませんか、良いですね」
と、俺が言うと
「う、うん、」
と、先輩は放心状態の侭、返事をする。
俺は此の儘じゃあ、不味いと思い、話を今日のお祝いの件に無理矢理
持っていった。
「じゃあ、話をもう変えますね。
今日は、僕の為に、態々忙しい中お祝いに来てくれて有難うございました。
司法試験何とか突破して、合格出来ましたよ。」
と、無理矢理笑顔を作り、先輩を安心させようとした。
「え、え、どういう事、何なの」
「え、知らなかったんですか?、
俺、先輩が、叔母が開いてくれるお祝い会に来て呉れるって聞いて、
凄く嬉しくて、こんなに早く来てしまったんですけど、
し、知らなかったんですね。」
‘えっ、知らなかったのか、今日の話、じゃあ何で此処に居るんですか、せ、先輩’
「うん、御免、ママから呼び出されて、帰ってきたのだけなの、
でも、おめでとう、良かったわね」
と、先輩は本当に、中学生以来、転校したての頃の優しい笑顔を向けて呉れた。
‘今しかない、今告白するんだ’
若かった俺は、最悪のタイミングで、今でも後悔して病まない
一世一代の告白をした。
「せ、先輩、俺、来月から司法修習生として1年間寮に入るんで、
会えなくなるんです、まあ、今だって2年ぶりですけど、
だから今、正直に気持ち伝えます。
中学で最初に会った時から、好きです。大好きなんです。
司法試験にも受かって、将来も少しは光明が見えてきましたんで、
結婚を前提に付き合って下さい。先輩以外、俺には考えられません。」
と、ありったけの勇気を使い、此れ以上ない位真剣な表情で言い放った。
先輩は‘きょとん’として、全く動かなくなってしまった。
「あの~、先輩、今日の俺の祝いの会が終わった後、返事を聞かせて下さい。
もし、其処で断られたら、俺諦めますから、一生貴方の前に、現れませんから、
真剣に考えて下さい、それじゃあ」
と、呆然とする先輩に耐えられなくなった俺は、素早く鍵を開け
叔母の家へ逃げ込んだ。
結果は、当たり前、先輩は俺のお祝い会にも、参加することなく
俺の前から消えていった。
そして、告白し、完全に振られてしまった俺
もう、6年と言う月日が流れた。
振られた当初は、おしっこを見られ、其れを、おかずに
男の象徴を握っている男の事何て、死んでも忘れたい黒歴史なはずで、
そんな男に告白されても、困惑するだけだろうと自分を納得させ
もう諦めようと思ったが、やはり、俺にはあの人しかいないし、
こう毎日、あの人を見る機会が有れば、忘れる事さえ出来ない。
‘一生独身でいい、もう、恋愛何て、しねえ・・・’
と、完全にトラウマ状態だ。
長い、長い、思い出だ。
そして最悪の・・・
明後日の、11:00時か~、もう、誰でも良いわ。
と、自暴自棄になりながら、
部屋に所狭しと並ぶ、世界的大女優の桐生美咲のグッズを処分しようと
家路に急いだ。
‘さあ、明日は大掃除で、明後日は、誰が来ても結婚前提だ~’
と心の中で叫び
‘ま、待てよ、俺は童貞だし、先輩以外の人で、
俺の分身は、仕事出来るのだろうか’
と、そんな事を思いながら、
先輩をおんぶして、眺めていた満月が今日も綺麗だと、
馬鹿な事を考えながら、人生を諦めていた。