美咲編
本日のゲストは、一昨年の助演女優賞に続き、
本年のオ○カーの主演女優賞の受賞されました。
日本人としては初の快挙、世界的大女優の桐生美咲さんです。
「こんばんわ、桐生美咲です。」
国営放送の〇河ドラマの放送が終わっての、トーク番組に出演していた。
司会の方が、芸能界へ入ってからの私の履歴を紹介していく。
大学1年の時、ミスオブミスキャンパスクイ~ンに選ばれた事を切っ掛けに、
芸能界にスカウトされデビューし、
そこからは、モデル、女優、歌手など、第一線の人気芸能人として、
数々の日本の賞をとり、ハリウッドからのオファーで映画に出演し、
その映画が2本共歴代興行成績を塗り替えるヒット作品になり、
各賞を総なめにした。
その後日本に帰り、某国営放送の〇河ドラマに主演女優として出演、
現在は民放のドラマの撮影も終了し、最終回の放送の番宣のみ。
どちらのドラマも、社会現象になる程の人気と視聴率で世間を賑わしている。
現在日本で最も有名な人気女優の29歳の女性である。
と、言う様な事を司会者の方が紹介してくれている。
「桐生さん、本当に凄い人気と活躍ですね~」
司会者の方からお褒めの言葉。
「有難うございます、どのドラマ・映画でも、監督、スタップの方、
共演者の方々に恵まれて、感謝してます。」
トーク番組が終わり、放送局を出て自宅に帰宅する車中、
10年間も私のマネージャーとして公私共に、面倒を見てくれてる、
榊亜希さんが、
「明日の番宣朝早いし、午後から映画の打ち合わせと、
正月特番の収録、夜は民放ドラマの打ち上げと忙しいわよ美咲、
それから年末から来年まで、良い仕事がたくさん入ってるから、
体調には気を付けること、良いわね。」
「分かってますよ~だ、もう大人なんだから、亜希さん心配しないでよ、
自己管理位出来るわよ」
と、冗談交じりに言い返す。
「そんなんじゃない、貴方分かってる。
仕事で気を遣い過ぎなのよ、皆の都合に合わせ過ぎだし、
もう少し我儘言っても良いのよ、美咲が疲れちゃうんじゃないかと心配なのよ。
でもまあ、美咲自体そんな優しい性格だから、
私達も含めて皆に好かれるんだろうけど・・」
と、運転するマネージャーはミラー越しに私を見る。
「うん、有難う、亜希さん。」
「私、社長と亜希さん夫妻の事務所にスカウトして貰って、
本当に感謝してるんだから、まあでも二人にスカウトされて無かったら、
芸能界に入ってなかったけど。」
「嬉しい事言ってくれちゃって、旦那(社長)聞いたらまた泣いちゃうわよ。
美咲のおかげで私達も成功して、好きな仕事しながら暮らしていけるんだから、
其れに何かあったら私達、1人娘の美咲を両親から
お預かりしてるんだから顔向け出来無いじゃない」
と、マネージャーの亜希さんが涙ぐむ。
‘本当に良い人達だなあ~’
と、心で思いながら、スカウトされた時の事を思い出していた。
元々、東京の一流国立大学に進学し、心理学を学んでいた美咲は、
その道の研究者になりたかったのだ。(その理由は追々説明すするが・・・)
其れが大学1年の時ミス大学に選ばて、
その年のミス大学が集まるコンテストでも1位に成ってしまい。
多数大手のプロダクションから声を掛けられたが、
自分には向かないと全て断っていたが、
そこに現れたのが元大手プロダクションの、敏腕マネージャー夫妻で、
独立したばかりの弱小芸能事務所だった。
熱心に親も私も口説かれ、
信念を持ち誠実そうで少し強引な2人に共感した私達親子は、
思わず‘はい’
と、承諾してしまったが、親との約束で、
忙しくなった仕事をしながら意地で大学を卒業し、今に至っている。
涙をハンカチで拭きながら亜希さんは、
「話変わるけど、明日の打ち上げキャンセルしようか、
共演のアイドルグループの日向浩二まだ言い寄って来てるんじゃないの、
向こうの事務所には申し伝えてるんだけど」
と、心配そうな亜希
「ううん、大丈夫よ、無視してるし、打ち上げ終わったら会う事も無いでしょ、
心配しないで、ちゃんと断ってるし」
「だって、この間のCMスポンサーとの食事会で知り合った社長息子の件もあって、
彼、かなりしつこかったじゃない」
「ああ、あの方にもちゃんとお断りしたよ、
今は誰ともお付き合いする気は無いって」
「あら、そう、じゃあ明後日のOFFに美咲何する気なのよ、
何となく分かるけど、言ってみなさいよ」
と、亜希さんが不敵な笑みを浮かべる。
「え、あの~、う~ん、お、お見合い」
と、顔を赤らめる美咲
「やっぱり、お母さんからTEL頂いて、OFFの日教えてくれだの、
約束忘れてらっしゃら無いですよね。
とか、言われれば大体察しが付いたわ。
それに相手はお母さんが絡んでいるのと、美咲がOK下って事は、
例の彼でしょ、美咲の機嫌がこの1月間めちゃくちゃ良いもの、ねえ」
と、亜希はニヤニヤ笑っている。
「はあ~、そんな事無いけど、でも亜希さんには何も隠し事出来ないな~」
と、さらに顔が赤くなる。
「彼だったら良いじゃない、6年前から定期的に美咲に彼の事、
調べて欲しいと言われた時には、
何か弱みでも握られてるのか・ストーカーとか心配したけど、
スタイル良くて、美形で、性格を悪く言う人いないし、
仕事も出来る、完璧男子じゃない、それに調べ始めてからは、
美咲と一緒で異性関係は全くゼロだもんね。
あんなに言い寄られたり、告白されたりしているのに、
誰とも付き合わないらしいのよ。
全部探偵社に聞いたんだけどね、
だから唯一心配なのは美咲がレズで彼がゲイなんじゃないかと思う位かな、
まあ此れわ冗談だけど、私も旦那も応援してるから頑張ってね。
それに美咲も彼の事、ず~と昔から好きなんでしょ」
「う~ん、好きと云うよりも絶対結婚しないと、いけないなと思う相手かな!。
でも、存在自体が消えて欲しいと思う様な奴でもあるのよね~」
と、車から夜の都会のネオンを眺めながら、
アイツとの4度も起こる消してしまいたい恥ずかしく忌々しい過去を思い返した。
******************************
中学2年の夏休みが終わり、二学期が始まって間も無く、
男子バスケット部へ転校生の1年生部員が入部した。
顧問が、男女共一緒で
コートも隣同士の男女バスケ部は、何をするのも一緒が伝統であった。
顧問の先生が、
「紹介する、1年の結城大和だ。
体育の授業のバスケを見て俺がスカウトしてきた、はっきり言って、凄いぞ」
と、興奮して話す顧問
「結城大和です。生まれてから今迄、アメリカで暮らしていました、。
日本に帰国したばかりで何も分から無いので、
色々教えて下さい、宜しくお願いします。」
女子部員からは、
‘格好い~、綺麗ね~’
とか、
1年生の女子部員からは、
‘やった~結城君と一緒の部活でラッキ~’
などヒソヒソ話が聞こえてくる。
それが、私と、結城大和=アイツのファーストコンタクトだった。
そして、この1週間後、1回目の、死にたく成る様な醜態を晒してしまう。
国立大学附属中学に通っていた私達は、毎日の通学時間ともなると、
附属中学・高校の生徒で、すし詰め状態になる程の混雑の中バス通学をしていた。
その日は、お腹の調子も朝から悪く、学校を休もうかと思ったが、
部活の新人戦も近く、キャプテンの私が休む訳にもいかないので、
無理をして登校を決めた。
つり革に掴まり立っていた私だったが、
バスの急停車で体勢をぐずした瞬間
‘ぷ~う~、ぷ’
と、かなり大きなオナラをしてしまった。
思春期の女の子にとって、耐え難い恥ずかしい行為をしてしまい、
死にたい気持ちになった。
一斉に、バスの中の生徒達が此方を見る。
‘どうしよう~、もういや~’
と、思った瞬間
「わり~い、オナラ出ちゃったよ、すいませ~ん」
と、斜め後ろから声が聞こえた。
‘え、え、何、どうしたの’
と、頭がパニックになっていると
バスの中の生徒達が一斉に笑う。
「勘弁してくれよ、大和~、満員なんだからよ~」
と、大和の親友のバスケ部員が言うと、
「結城君~!、清々しい朝なのよ~、
もう~、でも許してあげる。
格好良いし、それにバスケ部期待の星だもんね」
と、おちゃらけて言うのは、私の親友で隣にいた立花結衣であった。
「立花先輩、勘弁して下さいよ~、めちゃくちゃ恥ずかしいんですから」
と、照れているアイツ
更に笑いが起こったが、その後何事も無かった様に、バスは学校へ着いた。
‘アイツ、私を庇ってくれたの、お礼言わなきゃ、背中合わせに斜め後ろに
立っていたアイツは、絶対に私がオナラをした事に気が付いているはず、
で、でも、結衣がしたと思ってるかも・・・’
と、色々と悩んでいた私は、
授業も上の空で部活もミスの連続で最悪の1日だった。
部活中、時折目に入ってくる、
アイツと視線が合う度に死にたい気持ちになり、故意に顔を背けてしまう。
その日、学校から帰ると、
母から隣家のホームパーティー招待されたので、
家族全員で行くわよと半ば強引に言い渡させた。
「ママ、お腹の調子良くないんだけど」
と、そんな精神状態では無い私は一応抵抗してみるが、
「何時もの、お通じの調子でしょ、大丈夫よ。
それよりママ、お隣の景子さんの手伝いに行くから、後でパパとイラッシャイ」
何時も明るく、自己中心的で、お茶目な私のママは、
大の仲良し景子さんの家に行ってしまった。
‘そんな気分じゃ無いんだけどな~、でも行かないと夕食無いし、まあ、良いか’
と、思い直しパパが仕事から戻って来てから、
一緒に景子さんのお宅へ向かった。
「いらっしゃい、今日は急にお呼びだてして申し訳ありませんね。
奥様にお手伝い迄して頂いて、どうぞお入り下さい」
と、ママの性格とよく似た、まるで本当の、
ママの妹みたいな美人の景子さんが出迎えてくれた。
「こんばんわ、何時も家内がお世話になってます。
すいません、今日はお招きに預かりまして、失礼します」
と、パパが言うと
「私の方こそ、桐生さんの奥さんにはお世話に成っぱなしですいません。
今日は姉夫婦が、子供を連れて来てましてね。
最近、近所に引っ越して来たばっかりでして、
実は姉夫婦、海外でずっと生活してましたので日本に知り合いが少ないんですよ、
ですから桐生さんにも、仲良く成って貰おうと思ってお誘いしましたの、
御無理言ってすいませんが、今日は楽しんで下さい、美咲ちゃんもね。」
「せ、先輩‼」
「え、結城君‼」
何と其処には、景子さんの娘で、幼稚園に通う美穂ちゃんを、
抱っこしたアイツが居たのである。
「え、何、大和、美咲ちゃんを知り合いなの」
と、景子さんがアイツに聞いている。
事情を知った家族達は、私達をネタに食事をしながら、
殆どママ達3人の女性陣で盛り上がっていた。
「姉さん、5年振りだけど、本当に
‘大和’
大きくなってもう大人ね、今も格好良いけど、
大人になったら凄いイケメンになるわよ」
と景子
「体ばっかり大きくなってるけど、この子、末っ子だから優しいけど甘えん坊で、
上の息子と娘と年が離れてる分、甘やかして育てたから、まだまだ子供よ」
と、アイツの母親の博美さんが言う。
「美咲ちゃんも可愛くて、綺麗よね、学校でモテるんじゃない?。
それに、お母さんに聞いたけど、学力も優秀で、
バスケット部のキャプテンなんだって、凄~い」
と、また景子さん言い始め
「本当、凄いのね~美咲ちゃん、大人になったら絶対綺麗になるわよ、
真由美さんも楽しみでしょ」
と博美さん
「まだまだよ~、一人娘でしょ、我儘で、今、反抗期の
真っ最中で、本当に扱いにくい困った子なのよ。」
と、ママが言うと
「隣同士で並べておくと、美男・美女のアイドル雑誌の表紙ね。
本当に絵になるわお似合いだし、将来美男、美女のカップル同士で結婚したりして」
と、笑いながら景子が
「ママだめ~、大和お兄ちゃんとは美穂が結婚するの~」
と、怒って幼稚園児の美穂ちゃんが言うと、
私とアイツを除く全員が大爆笑していた。
「景子おばさんには、本当、困っちゃいますよね先輩」
と、ニコニコしながら隣に座っているアイツ。
私は、アイツと会った瞬間から、頭の中はパニックで、
周りが何を言っているのか全く聞いていない。
アイツと、いえば、ニコニコしながら私に微笑みを向けている。
‘何で、私を見て笑っているのよ、もう耐えられないわ’
「あの~、今日の朝の事なんだけど・・・」
と、思い詰めた表情で話を続け様とすると
照れくさそうに笑った、アイツは、
「ああ、やっぱり気が付いていたんですね、俺が庇った事。
俺、誰にも言いませんし、だからもう、お互い忘れましょう。」
‘ええ~、やっぱり私って気が付いていたんだ、いや~、もう死にたい~’
「ママ、私体調悪いから、家に帰るね。」
と、席を立つ。
「あ、先輩、ちょっと」
と、慌てるアイツに目も呉れず家に帰った。
思春期の中学生女子にとって、ちょっと好意を持っている男子に、
自分のオナラをした事を気付かれ、弱みを握られてしまい、
更に庇われた事に依って、頭が一生上がらなくなってしまった。
しかも、庇ってくれた相手に対し
‘有難う’
の一言も言えず怒った態度を取ってしまい自己嫌悪に陥ってしまう。
‘ああ、あの時(御免、有難う庇ってくれて)と言っておけば、
今こんな思いをする事も無かったはずよね~’
と、帰宅するBGMの流れる車の中で溜息をつく。
2度目は高校3年の時、
エスカレーター式に進級した2人は、
バスケット部の先輩、後輩としての立場、其の儘に学校生活を送ってきた。
高校生になった私は、中学時代、あんな事が有ったにも関わらず、
出会った当初、格好良い男の子位の、ちょっとした好意程度だったが、
人柄や性格を深く知っていく度に、
私はアイツの事がどんどん好きになってしまった。
今でも部活中や学校の登下校時に目が合うと、
恥ずかしくて顔を背けてしまうが、最近は5年前に比べると、
部活で多少会話が出来るようになっていた。
何時も冷たく、嫌悪感を持って接する(オナラの件でどうしても素直になれない)
私に対して、何時も笑顔で話してくるアイツと、
会話出来る時が高校生の私にとって最高の時間だった。
バスケットボールで全国大会へ出場する様になってからは、
エースとしてマスコミから注目される様になり、
最近では他校の生徒からも告白されているらしいが、
まだ誰とも付き合っている女子はいない様だ。
「先輩、夜も遅いし、一緒に帰りましょう」
高校生活最後の夏、男女共インターハイの出場が決まり、
夜遅く迄猛練習を続けている。
下校時は、バスから電車へと乗り継いで自宅迄帰り為、夜もかなり遅くなる。
女子部員達と毎日一緒に下校しているが、
最後の1人と別れた後、アイツも最後の男子部員と別れる様で、
必ず毎日電車でアイツが近寄って来て
「先輩、夜も遅いし一緒に帰りましょう」
と、満面の笑みを浮かべながら声を掛けてくる。
「別に大丈夫よ1人でも、近くによって来ないで迷惑なのよ、
ほら見なさいよ、ちょっと前に話してた、あの娘、
凄い目で睨んでるんだから、あの娘を送ってあげたら」
と、冷たく言い放つ
アイツは私が目を背けたり、冷たく応対した時には、
必ず一瞬悲しそうな表情になるが、直ぐに笑顔に変わる。
「え、勘弁して下さいよ、待ち伏せされた挙句に、
今、告白されて断って来たんですから、
最近色んな娘から告られて弱ってるんですから」
と、照れた感じで私に微笑み続ける。
「だから迷惑なのよ、彼女と思われたら心外だし、大体結城君、
今の発言自慢なの、皆が、インターハイに向けて、
一生懸命頑張ってる時にどういう事、誰にでも愛想良く笑顔振りまいてるから、
隙の有る状況に成るんじゃないの」
と、何か無性に腹が立ち、怒ってしまう。
「す、すいません先輩、でも俺、誰にでも笑顔何て振りまきませんし、
愛想何て・・・、じゃあ離れます」
と、泣きそうな顔になり、私に聞こえない位の声で、
独り言を言いながら私から離れていく。
「え、何か言った、言いたい事が有るんならはっきり言いなさい」
と、アイツの背中を見ながら言うと
「何でも、無いっす」
と、1両向こうへ去ってしまうと、
アイツに告白した女子高生も、私を睨みながら別の車両へと去っていった。
‘ああ、またやっちゃった~、何で素直になれないのかな~、
一緒に帰りながら、アイツをおしゃべりしたいのに’
と、自己嫌悪に陥る。
電車が到着し、アイツに追いつかれ無い様に、
プラットホームを走って家路に急ぐ。
駅前の繁華街を抜けて、
丘の上に有る自宅のニュータウン団地へ登る薄暗い外灯しか無い階段を登り始めた時、
柄の悪そうな2人組の男が立ちすがり絡まれた。
「よ~、可愛いねえちゃん、俺たちとイイ事しようよ~、エヘヘ、へ」
と、腕を掴まれた瞬間
私は声を出す事も出来ず立ち竦む。
「やめろ~、離せ、何してんだ!。」
と、アイツが2人組に体当たりをしたが、
喧嘩慣れしている2人組に、ボコボコにされる。
それを見た私は、生まれてから初めてと言う位の大声を出し、
「助けて~、誰か~」
と、叫んだ
運良く、たまたま通り掛かった、警察官が、逃げる2人組を追いかけていく。
階段に取り残された2人は、
「だ、大丈夫」
と、階段の上から私が、声を掛ける。
「大丈夫です、大した事無いですから、でもカッコ悪いですよね、
ヒーロー気取りで出て行ったんですけど・・・」
と、悔しがっている。
「馬鹿、もう心配させないでよ、怪我でもしたら、
インターハイどうすんのよ、結城君が、出場しなかったら絶対勝てないじゃない。
もう少しは自分の今の立場も考えなさいよ」
と、怪我をしていないアイツを見て安心する。
「え、心配するの、其処ですか、先輩の為に、体を張ったのに。」
と、何か拗ねた様にアイツが言うと
「そ、そうよ・・、ま、前から言おうと思ってたんだけど、
私の弱みを知ってるからって、慣れなれしくしないで。
私、結城君の事が苦手なのよ、貴方も何時もツンケンしている、
私の事何て、嫌いでしょ。
だから、嫌いな相手の為に、危ない事するの辞めてよ。」
と、アイツが、心配の余り思ってもいない事を言ってしまい、
居づらくなった私は、向きを変え階段を上がろうとして、
段を踏み外して体勢を崩してしまう。
ド~ン、ドシン
と凄い音がし、
騒ぎに駆け付けた近所の人達が心配そうに周りを取り囲み騒ぎ出した。
どうなったのか分からなかったが、クッション替わりに、アイツを下敷きにして、
どうやら私は怪我もせずに、助かったみたいだが、
私は自分の現在の体勢に気が付く。
あろう事か、アイツの頭は、私のスカートの中にスッポリ覆われていた。
「きゃあ~」と叫んだ瞬間。
「ぷ~、ぷ~う」
と、お腹に力が入り、オナラをアイツの顔面にダイレクトに浴びせてしまった。
素早く立ち上がった私は、呆然としてしまう。
‘また、聞かれちゃった。
しかも、今回はお尻に触れられて、
直に、オナラを浴びせちゃうなんて、
もう嫌~、生きていけないよ~’
アイツは、駆け付けた私の母親と、景子さんやおじさんに抱き起されていた。
「あ~、痛って~、せ、先輩、怪我無いですか、大丈夫ですか?」
などど、制服の汚れを手で払いながら落としながら、焦点の定まらない目で、
私の体を心配してくるが、
‘体の事なんて・・・、私の乙女心が傷だらけなのよ、’
と、思い切りアイツの胸を突き飛ばし、
「もう嫌よ、何で、何時もあんたが傍にいると、こんな事になるのよ、
恥ずかしくって、生きていけないわよ、もうあんた何か大嫌い~」
と、一刻もこの場に居たく無かった私は、お礼を言うのも忘れ自宅へ帰った。
その後、2人組の犯人は捕まり、
警察から事情を聞いた親が説明してくれた事によると、
アイツに告白していた電車の娘が私に逆恨みし、遊び仲間のチンピラに依頼し、
私を襲わせる様に指示したという事だった。
結城君の両親も、隣の景子さんも、私を心配し謝ってくれたが、
本人は、私に合わせる顔が無いと、相当落ち込んでしたらしく、
見舞いには、来れないとの事だった。
そんな精神状態の中、インターハイは男女の両エースがボロボロで、
1回戦負けしてしまい、私達3年生は、其の儘部活を引退した。
其れから、卒業する迄、アイツとの接点も無くなり、
学校や通学で会っても、私の方がアイツを避けまくった侭、卒業してしまった。
続けて3度目は私が大学3年の時だった。
私は、アイツから逃げたい一心で猛勉強に励み、
日本でも一番難しい国立大学へ進学し、
動機は不順だが、どうしても人間の心理(アイツの心)が分かる様に成りたくて、
心理学を専攻し将来は、その道の学者になりたかった。
1年の時スカウトされ、勉強と仕事の両立する為に、
好きなバスケットも辞め、忙しい日々を送っていた。
しかし、大学2年になり、親に聞いてびっくりしたが、
何と、アイツも、一緒の大学へ進学して来たのである。
学部だけは違い法学部へ進んだ様だ。
アイツも、バスケット部には入部していないみたいで、
学部の違う私達は、大学で出会う事も無く1年が瞬く間に過ぎていった。
芸能活動が忙しくなってきていた当時の私は、
講義中寝ている事も多く、当時から親友の沙織にノートを見せて貰ったり、
レポートを手伝って貰ったりと親友に大変お世話になっていた。
(その見返りに、沙織の大好きな、
アイドルのサインやライブのチケットの手配などを、強要されてはいたが・・・)
その沙織から、合コンの誘いが来た。
「再来週の金曜の夜なんだけど、スケジュール空いてる・・、
空いてるんだったら合コンに出てよ。一生に一度のお願い」
と、私を拝む様に頼んでくる。
「え、再来週の金曜、夜、今は空いてるけど、やっぱダメだよ、
マネージャーの了解取らないといけないし、興味無いもん。」
「そこを、何とかお願い、同じ大学の私が、良いなと思っている人が、
やっとOKしてくれたんだから、美咲連れて行くのが条件なんだよ、お願い。」
「何なのよ、それ、分かったわマネージャーに聞いてみる」
と、渋々了解し亜希さんに連絡してみると
「美咲、自覚あるの、最近名前も顔も売れてきてるんだから、注意しないと」
と、お小言を貰いながらも、
「まあ、気付かれ無い様にしてよ、羽伸ばしてらっしゃい」
と、了解が取れた。
当日、雰囲気の良いイタリアンのお店で、4対4での合コン。
私は、TV局の収録が長引き30分程遅刻して、そのお店に入った。
「美咲遅いよ、もう~」
と、言いながら、沙織は、お目当ての人の横でベッタリ張り付いていて、
私の事など、全く気にしていない様子。
自己紹介で、
「桐生美咲です」
と、言うと男性から、拍手と黄色い声が聞こえてくる。
「え、4対4じゃないの」
と、隣にいるゼミが一緒の娘に聞くと
「イケメンの後輩が、もう1人来るんだって、楽しみ~」
と、目を輝かせている。
「すみません、もう直ぐ到着すると連絡あったんで。」
と、テーブル越しの、斜め前に座っている男性が
「桐生さんや、女性陣に、気に入って貰える様に、
後輩なんですけど、イケメン用意しましたから、
今、格闘技の道場に通ってるんで遅れてるんですけど、
硬派な奴で、合コンも始めてみたいで、
引っ張って来るのも大変だったんです。」
と、男性が今から来るイケメン君の説明をしていた。
私は全く興味はないが聞いてる振りをしながら、
苦手なアルコールには手を付けず、食事を楽しんだ。
「その人って、今付き合ってる人とか居ないんですよね~。」
と、隣の女子が聞くと
「高校や中学時代は知りませんけど、今付き合っている彼女は、
いないと思いますよ。
アイツ司法試験目指してますから、試験勉強大変みたいで。」
「やった~、チャンス」
と、女性2人が喜んでいる。
「すいません遅れました。」
と、イケメン男子が現れた。
私は、食事に夢中で食べ続けていたが、
女性陣から甘い吐息が漏れ、席を勧められた彼は、女性2人の間に座った。
顔を上げイケメン君を見た瞬間
イケメン君と私は、
「あ、!」
と、声をあげた。
「ゆ、結城君!」
「桐生先輩!」
と、動揺し固まってしまう私
「結城、知り合いなの、桐生さんと。」
と、先輩男子から聞かれ
「先輩、俺、聞いて無いっすよ、桐生先輩が来るなんて」
「おう、だって言ってねえもん。
だいだい、今日のお前は、俺たちのダシに成るんだから、
この場を盛り上げてよ、それよか、お前、桐生さんとは何で知り合いなの」
と、聞かれ、アイツは私達の関係を当たり障り無い程度に説明した。
「じゃあ、美咲は、桐生君とは関係無いんだよね、私達の邪魔しないでよ、良い」
と、女性2人が言ってくるので、アイツに聴こえる様に
「ええ、関係ないわよ、単なる、中・高の後輩で、苦手な部類なのよ、
他聞、彼も私の事苦手みたいだし、そうよね結城君?」
と、益々イケメン度がUPし、
大人の顔つきになったアイツを見た私は、また強がってみせる。
アイツの顔の表情は一瞬悲しような顔になったが、
私を無視する様に女性や先輩男子と話し始めた。
其れからの私は、この場から逃げ出したいのを忘れる為、
苦手なワインを大量に飲み、足腰が立たなく成るまで飲んでしまう。
1次会が終わり
「美咲大丈夫、どうしたの、普段全然飲まないのに、
足腰立たなくなるまで飲むなんて!」
と、心配する沙織に
「だ、大丈夫よ、さ~お~り~、もう、私~帰る~」
と、呂律が回らない
タクシーを沙織が呼んだが、酔っ払いの私は運転手に拒否されてしまう。
その時、
「俺、家まで送って行きますよ、家も近所で、
桐生先輩の両親も良く知っていますし、任せて下さい。」
と、アイツが声を掛け沙織達に言う。
皆、酔っ払いのお守りは嫌だった様で、助かったとばかりに、
私達2人を残し、2次会へと消えていった。
タクシーを、拾い直して乗せてくれたアイツは
「先輩、大丈夫ですか、どうして、こんなに飲んじゃったんですか?」
と、心配そうに私を見る。
「うるさい、何で結城、お前が来るんだよ、会いたくないんだよ~、私は~」
と、暴言を吐きまくる。
タクシーの運転手も相当嫌だった様で、
家の近くまで、来ていたにも関わらず2人は下ろされてしまう。
気が付くと、
私はアイツに‘おんぶ’されていた。
「降ろせ~、スケベ~、どこ触ってるんだよ、結城~、
あんたの事なんか大嫌いなのよ~、おろせ~」
と、アイツの背中で騒ぎまくる。
「せ、先輩危ないから、動かないで下さいよ、
僕が‘おんぶ’しないと1人じゃあ歩けないでしょ。」
「なに~、先輩に口答えするな~、
ちょっと、私の弱みを握っているからと偉そうなのよ、
そんな奴の事、嫌いに決まってるでしょ、下ろしなさいよ馬鹿~、
本当に嫌いなんだから、うっぷ、う~、気持ち悪~い」
と、私の記憶は其処からは無く、
自宅ベットの上でパジャマに着替えた状態で朝目覚めた。
「あたたたた~、」
と、二日酔いになった私は
‘昨日どうやって家迄帰ったんだろう’
と、思いながら自分の部屋を出てリビングに行くと
ママから、こっぴどく怒られ、昨日の意識を失ってからの事情を聞いた。
私は、アイツの後頭部目掛けゲロを吐き、自宅に
‘おんぶ’されて帰った来た時は、
2人共ゲロ塗れで帰宅したのだ聞いた。
全身から血の気が引き、目眩が置きそうになりながら、
また、アイツに私の恥ずかしい所を見られてしまい、
何で、大好きな相手の前だけ、
こんな失態を犯してしまうんだろうと自暴自棄になる。
ママから、まだ、アイツが隣の叔母の景子さんの家に居るんじゃないか
と、言われ、謝罪して来いと、家を追い出される様に連れて行かれた。
玄関のチャイムをママが押すと、中から景子さんが出て来て、
「ふふ、昨日は大変みたいだった様ね美咲ちゃん。
もう大和帰っちゃったけど。」
「景子さん、すみません、迷惑おかけしました。」
と、私とママの両方が頭を下げる。
「良いんですよ。其れから、大和からの伝言で、もう、昨日の事は忘れましょう。
僕は忘れましたってと伝えてくれって言うの、
其れにあの子、凄く、機嫌が良いみたいで、何か嬉しそうにしてるのよ。
普段は明るくて良い子だけど、少々頑固で堅物でしょ、気難しいし。
そんな子が、含み笑いなんかして、気味が悪いったら無いのよ。
昨日合コンでよっぽど。いい娘でもいたの、美咲ちゃん」
と、聞かれ
「さあ」
と、答えたが、
益々アイツの事が分からなくなり。落ち込んでしまう私だった。
最後の4度目は、大学も何とか卒業し、
芸能人として大ブレイクした頃だった。
私は、自宅を離れ1人暮らしを始め、
仕事に没頭していた時期で、凄く忙しい毎日を過ごしていた。
そんな折、ママから連絡が有り、マネージャーの亜希さんから、
今日の夕方、絶対に自宅に帰る様にと、伝言が伝えられた。
普段殆ど、連絡の無い両親からの連絡と言う事も有り、
亜希さんも、心配してスケジュールを調整して呉れ、私は自宅へと向かった。
急いで向かった為か、自宅の鍵を忘れてしまい、
更におトイレに行きたくなってしまった。
ママは不在で、隣の景子さんの家族も不在だった為、
家には入れず、我慢出来なくなった私は、道路から見えない自宅の庭で、
用を足してしまうと云う暴挙に出てしまった。
おしっこを終え、ほっと一息着いた瞬間、
全身が凍り、身動き出来なくなってしまう。
何と、其処には、景子さんの家の勝手口ドアと境界ブロック間に立ち
唖然として佇むアイツがいた。
流石に、アイツも顔を真っ赤にし呆然としていたが、
「せ、先輩、下着を履いて下さい、そのままじゃ~、ちょっと」
と、顔を私から背け喋る。
私も我に返ると、直ぐにパンティーを履き直し、
おしっこの、水溜りがアイツから見えない様に立つ。
‘もう、どうして、コイツは、私が恥ずかしい事している時に必ず現れるのよ!、
もう嫌、もうだめ、もう死にたい’
流石に女の子にとって、
一番恥ずかしい排泄行為を好きな相手に見られる、
と云う有り得ない状況で、私の頭は許容範囲を超えてしまい、
呆然とアイツを見ていた。
「せ、先輩、すいません、見るつもりは無いんですけど、
此処からだと、どうしても自然に見えるんです。
其れから、今日の事、お互い無かった事にして、
記憶から消して頂けませんか、良いですね」
と、アイツが言うので
「う、うん、」
と、放心状態の侭、返事をする。
「じゃあ、話をもう変えますね。
今日は、僕の為に、態々忙しい中お祝いに来てくれて有難うございました。
司法試験何とか突破して、合格出来ましたよ。」
と、笑顔に戻り微笑んでくるアイツ
「え、え、どういう事、何なの」
と、私は話が突然変わりついて行けず、
まだ先程のダメージを引きずっている。
「え、知らなかったんですか?、
俺、先輩が、叔母が開いてくれるお祝い会に来て呉れるって聞いて、
凄く嬉しくて、こんなに早く来てしまったんですけど、
し、知らなかったんですね。」
と、落胆するアイツ
「うん、御免、ママから呼び出されて、帰ってきたのだけなの、
でも、おめでとう、良かったわね」
と、何故か初めて、アイツの前で、自分の素直な気持ちを
言葉に出来た気がした。
もう、結城大和の事を好きでい続ける事はもう止めよう。
自分の、恥ずかしい姿を何度も見られ、
幾ら、相手が好きと言って来て、もし、万が一付き合ったとしても、
自分が耐えられないと思ってしまった。
アイツの事を、恋愛対象から無理やり外しでしまった瞬間、素直になれたのだ。
そんな事を頭で考えていると、アイツが真剣な顔付きになり、
「せ、先輩、俺、来月から司法修習生として1年間寮に入るんで、
会えなくなるんです、まあ、今だって2年ぶりですけど、
だから今、正直に気持ち伝えます。
中学で最初に会った時から、好きです。大好きなんです。
司法試験にも受かって、将来も少しは光明が見えてきましたんで、
結婚を前提に付き合って下さい。先輩以外、俺には考えられません。」
と、私を凝視して、アイツは私に告白してきた。
‘え~え、どうゆうこと、私の事が好き?、何で、
あんな私や、こんな私の恥ずかしい事ばっかりを知っているアンタが、
私の事が好き?、一体どうゆうことよ’
と、中学の時から嫌われていると思っていた私は頭が混乱し、
‘今、諦めたばかりなのに、何で今言うのよ~’
と、アイツの顔を見た侭、呆然と立ち竦む。
勝手口ドアと境界ブロックで上半身だけが見えているアイツは、
「あの~、先輩、今日の俺の祝いの会が終わった後、返事を聞かせて下さい。
もし其処で断られたら、俺諦めますから、一生貴方の前に、現れませんから、
真剣に考えて下さい、それじゃあ」
と、緊張した顔で、景子さんの家に入っていった。
私と云えば、おしっこを見られた羞恥心と、
嫌われていると思っていた、大好きなアイツに、
告白された喜びとで、気が動転し、抜け殻の様になっていた。
その後、ママに、祝いの会へ出席しない旨を告げ、家を飛び出してしまう。
大好きなアイツから最悪のタイミングで告白された、
私は嬉しい半面、更に今日、今迄で一番恥ずかしい排泄行為を見られてしまい、
どんな顔をして、アイツの前に出たら良いのか分からず、逃げ出してしまった。
そして、告白の返事をしない侭、6年と言う月日が流れた。
告白された当初は、排泄を見られた恥ずかしさから、
一旦はアイツの事は、諦めようと思い仕事に没頭したが、
会え無く成ると、日増しにアイツの事ばかりが気になり出し、
マネージャーに頼んで、アイツの現況を調べて貰ったり、
地方や海外へ仕事に行く度に、おみあげをを購入し、
隣の景子さんやアイツの両親に、
ママを通じ渡して貰いながら、付き合いを続け情報を得ていた。
あれから6年が過ぎ、後継ぎの欲しい私の両親は、
見合い話を山の様に持って来たが、今迄、
芸能人や政財界の独身からのアプローチを全て断って来た私にとって、
両親の見合い話を断る位簡単な事だった。
そして、困り果てた両親は、身内の恥とは分かっていたが、
隣の景子さんに私の見合い相手の件で相談した。
景子さんは、私とアイツの微妙な関係に気が付いている様で、
姉夫婦と相談し、アイツとの見合い話を纏めてしまった。
景子さんから直接連絡を貰った私は、
「美咲ちゃん、私が段取りしたんだから、
断るなんて許さないからと、半ば強引に話を勧めてくれた。」
私の本心を知られずに、断れないから仕方無く、
見合いをすると云う立場も維持させて貰い、
6年ぶりに明後日、告白の返事をしていない大好きなアイツを会えると思うと、
正に天に登る様なとは、今の状況では無いかと思ってしまう。
‘だから今度は、素直になって、アイツ、
いや、結城君に私も好きです、結婚して下さいと言おう’
と、帰宅途中の車内の窓から眺める綺麗な都会の夜景にうっとりしながら、
人生の幸わせを感じていた。