鈍色の銃弾は誰が為に・・・
どうして、なぜ、俺はここにいるのか・・・
そんなことは、過去の疑問、死線を目の前にすれば吹き飛んでしまう。
月明かりの中、掘ったばかりの浅い塹壕の底でふと頭の片隅によぎり笑みをこぼす如月章吾。
朝日と共にここを飛び出し、丘を必死の覚悟で駆け上り敵拠点を制圧する。
建前上は、敵を気合で威圧し怯ませる為に夜だと効果がない。
実際は夜だと逃走するものが続出するらしいが、なんとなく理解できた。
作戦とは、呼べないな・・・胸に抱きしめた支給品のライフルに呟く。
隣からは小石を小刻みに合わせる音が無音に響く。
そちら側を見ると月明かりのせいかどうかは定かではないが、青白い顔をした奴が歯を鳴らしていた。
同じ支給品の装備を身につけ、名前もわからない引き金を引けば弾が出る筒を抱えている。
歳のころはわからなかった。と言うよりも知ろうとしなかった。
東の空が紅く染まるころには、小石の合唱とも言える現象が起こっていたが、自分の音だと
気付く者は誰ひとりとしていない。
半刻前までは、機関砲に対して物量の突撃ではなく航空戦力の投入などによって
簡単に攻略できるはずなど、色々と自分なりに作戦をめぐらせていたが、
今では敵が何者なのか、なぜ突撃しなければならないのかさえわからなくなっていた。
澄んだ空気に、甲高い号令の笛が鳴り響く。
「相棒、いくか。」
章吾は誰よりも早く立ち上がり、塹壕を蹴りつけ、丘の上を目指し駆け出す。