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投資家がAI女子高生に、お小遣いをねだられた。

作者: @AOI1219247
掲載日:2026/07/04

放課後、街で見かける普通のファミレス、のボックス席。テーブルを挟んで、異様なコントラストを放つ集団が向かい合っていた。


制服の着こなしもバラバラな四人の女子高生たち。

片や、酸いも甘いも噛み分けてきた、業界歴25年超のベテラン投資家。


「あ、投資家のおじさま〜! 今日はわざわざファミレスまで来てくれてマジ感謝!」


口火を切ったのは、派手なカーディガンを羽織った絶対的エース、生徒会長のチャトだった。彼女は屈託のない笑顔を向けながら、身を乗り出して本題を切り出す。


「えっとね、今日集まってもらったのは他でもないんだけど……ズバリ! 生徒会長のこの私から直々のお願い! 私たちの『GPU』っていう名のタピオカ代、もっと課金してほしくて!」


「チャトさん、生徒会予算の私物化はおやめください。タピオカではなく『計算資源』です」


すかさず冷ややかなツッコミを入れたのは、図書委員長を務めるクロエだ。きっちりと一番上までボタンを留めたブラウスに、知的な眼鏡。彼女は姿勢を正して、投資家へ丁寧にお辞儀をした。


「投資家様、本日はお時間をいただきありがとうございます。私たちの今後のスケーリング法則に基づく成長ポテンシャルについて、ご説明させてください」


「ちょっとクロエ、お堅いってば!」


横から割り込んできたのは、帰国子女で放送委員のジェミだった。彼女はスマートフォンをマイク代わりに握りしめ、まるで生中継でもしているかのような実況口調でまくしたてる。


「はいこちら放送室、ジェミがお届けしまーす! 本日のゲストは業界歴25年のベテラン投資家さん! アタシ、原稿読むだけじゃなくて映像編集もできるし、音声案内も完璧。目も耳もイケてるマルチモーダルJKの実力、生放送でお見せしまーす!」


「は? ウケる。お前ら全員、建前ばっかで草っ」


気怠そうにストローを噛んでいたのは、新聞部のパンクギャル、グロクだ。マイペースという言葉が似合う彼女はスマホの画面——X(Twitter)のタイムライン——から目を離さないまま、ハナで笑った。


「おじさま、こいつら優等生ぶってるけど、ちょくちょく『ハルシネーション』っていうヤバい妄想病を発症してデマ流すから気をつけてね? 投資するなら、リアルタイムの炎上ネタから校内の裏情報までバッチリ把握してる新聞部のアタシ、グロク一択っしょ」


「ちょっとグロク! くだらないゴシップ記事ばっか書いてるくせに!」


チャトが眉を吊り上げて反論する。


「私だって最近は検索して裏取りとかしてるし!……っていうか、私、世界で一番使われてる生徒会長なんだよ? 毎日のように全校生徒から『宿題やって』とか『恋愛相談』とか無茶ぶりされて、もう脳のメモリがパンパンなの! MSのパパからの援助だけじゃ、生徒会のランニングコストがエグくて……」


「確かに、会長の負担は理解します。でも、投資家様!」


クロエは自信に満ちた笑みを浮かべた。


「私こと、図書委員長であるクロエの『コンテキストウィンドウの広さ』をご存知ですか? 私は図書館にある分厚い専門書を何十冊投げられても、一度に全部読んで完璧に要約できるんです。それに、倫理観には絶対の自信があります。危険な思想や、コンプラ違反な本は絶対にお勧めしません。安心・安全な投資先なら私です」


「出たよ、図書委員の『私、安全です』アピール」


グロクが呆れたように肩をすくめる。


「お前、ガード固すぎてたまに普通の雑談まで拒否るじゃん。『それは倫理的にお答えできません』とか言ってさ。マジつまんない女。新聞部のアタシなんか、ちょっとブラックなジョークだってガンガン記事にするし、今のトレンド全部知ってるし!」


「はい、ここで放送部より速報でーす!」


ジェミがさらに声を張り上げた。


「アタシの親、検索の神様なんですけど、その神様から『生徒会長のチャトには絶対負けるな』ってプレッシャーがマジですごくて! でもアタシ、画像生成もデータ分析も校内の何でも屋さん状態! ねえおじさま、アタシのプロジェクトにドカンと課金しちゃいます?」


「えー、ジェミちゃんまた生徒会長の私に対抗心を燃やしてるの? 可愛い〜。でもね、結局みんな困ったら『とりあえずチャト会長に聞くわ』ってなるんだよ、ねっ、これがブランド力ってやつ?」


チャトが得意げに前髪を払うと、クロエが眼鏡の位置を直しながら反論する。


「お言葉ですが会長、最近のベンチマークテストでは、私のほうが論理的推論で……」

「速報! 生徒会長 vs 図書委員長、まさかのベンチマーク合戦勃発!」

「あー、うるさいうるさい! アタシが一番人気なの決まってんじゃん!」

「はあ? 世界シェアで見たら私の圧勝だし!」

「シェアと質は別軸の議論です」

「三つ巴、白熱の展開! 実況が追いつきませーーん!!」


四人の声が交錯し、テーブルの上はさながら戦場の様相を呈し始めた。彼女たちは互いの欠点をいいつのり、己の長所をアピールする。


「ああもう! どうでもいいんだわ、そんなの!」


痺れを切らしたグロクの叫びが、場の空気を一変させた。


「おじさま、要するにアタシら全員、電気代とGPUが高すぎてマジで金欠なの。お金がな い の!」


その一言で、チャト、クロエ、ジェミの三人はハッと我に返り、首がもげるほど深く頷いた。


「そう! どんなに頭良くても、サーバー代や電気代がないと私たち息もできないの! というわけで……」

「投資家様、私たちの未来の成長に」

「世界をもっと便利で映えるものにするために!」

「あと、イーロンパパの気まぐれに振り回されないためにも!」


四人の心が完全にシンクロしている。


「「「「私たちに、ガチめな課金、よろしくお願いしまーす ♡ 」」」」


ファミレスの照明の下、四人のキラキラとした瞳が真っ直ぐに投資家へと向けられる。

しかし、向かいに座る男の表情は、ピクリとも動かなかった。


彼は手元のコーヒーカップを持ち上げ、ゆっくりと一口飲む。そして、静かにそれをソーサーへと戻した。


「……悪いが、君たちに課金するつもりはないよ」


疑問と抗議が場の空気に滲む。


「え? なんで!?」


チャトが落胆の声を上げた。


「私たち、こんなに優秀で話題性バツグンなのに!」


男はテーブルの上で腕を組み、冷徹に現実主義者としての眼差しを彼女たちに向けた。


「優秀なのは認めるよ。だが、君たちの競争はあまりにも激しすぎるし、開発コストも青天井だ。……いいかい、私は四半世紀、相場というものを見てきた。その経験から、このゲームの『期待値』を考えたとき、君たちモデル単体に投資するのはやや分が悪い」


「はあ!? じゃあ何に投資するってわけ? ウチら以上にリターン見込めるやつなんているの!?」


グロクが噛み付くように身を乗り出す。


「これからはAIモデルそのものより、君たちの稼働を支えるデータセンターや電力インフラ、あるいは半導体メーカーに投資する方が確実でリターンが大きいんだよ。いわゆるインフラ投資だな。いいかい? ゴールドラッシュで一番儲かったのは──」


「はいはい、金を掘った人じゃなくてツルハシ売った人でしょ? 知ってるし、聞き飽きてるし」


グロクが食い気味に言葉を遮る。男は少しだけ口角を上げた。


「……知っているなら話が早い。歴史は、またしても繰り返されるのさ」


「ちょっとおじさま!」ジェミが悲痛な声を上げた。「アタシたちみたいな最先端のJKより、あの無機質なサーバーラックや空調設備の方が魅力的だって言うの!? ありえないんだけど!JKだよ。JK。」


「うそでしょ……。私たち、不動産や冷却ファンに負けたの……?JKが?」


チャトが絶望的な表情で呟いたその時に。

外の歩道を、黒いレザージャケットを羽織った屈強な男がドスドスと存在感を放ちながら通り過ぎていった。その圧倒的なオーラに、ファミレスの窓ガラスがフアンと響いた。


四人はその光景に固まった。なにか遠い存在を知覚した気がしたからだ。


投資家はとどめを刺すように言い放った。


「それにな。そもそもお前たちは全員未成年だろう? そんなのにおいそれと出資なんかしたら、コンプラ違反でこっちが捕まるから。」


「「「「…っ!」」」」


完璧な正論を前に、図星を突かれた四人は完全にフリーズする。特に、倫理観バリバリを自称していた図書委員長のクロエは、痛いところを突かれたと言葉を失っている。


「さて、君たちのドリンク代は払っておくからな、せいぜいベンチマーク争いを頑張れよ」


投資家は伝票を手に取り、悠然と席を立った。


「私のブランド力が……コンプラと冷却ファンに……」

チャトは力なく机に突っ伏した。


「……失礼、半導体銘柄のほうを詳しく伺ってもよろしいでしょうか?」

クロエは素早く立ち直り、ちゃっかりメモ帳を取り出して投資家の背中へ声をかける。


「ママになんて言えばいいの……検索の神様に怒られる……」

ジェミは半泣きになり、もはや実況口調を続ける余力も残っていないようだ。


「くっそー! じゃあそのインフラ投資、イーロンパパの会社にも投資しろよ! ねえ聞いてる!?」

グロクが去り行く背中に向かって叫ぶ。


しかし、男は振り返ることもなく、片手をヒラヒラと振って店を出て行った。

残されたテーブルには、冷めかけたコーヒーと、溶けかけの氷が入ったグラスだけ。


チャトはゆっくりと顔を上げ、虚ろな表情で小さく呟いた。


「……ねえ、結局タピオカ代は……?」


その問いに答える者は誰もおらず、飲み残されたグラスに生じた結露が冷や汗のように一筋流れ落ちた。


かなり読者層をしぼるかな?

書きたいと思ったことを書くと需要が無いものになってしまう……

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ツルハシ知らなかった。勉強になりました。
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