予期せぬ来訪者
『ぎゃぁぁぁ!!やめろ、この恨みを果たすまではー』
「悪い」
背中から6本の触手が姿を現し、目の前の幽霊を絡めとる。
俺がこの後やらなきゃいけないことは、幽霊の恨みや憎しみの感情にノイズをかけてその存在ごと消してやるだけだ。
『#########################』
「ちゃんと依頼をこなさないと、俺達の生活に支障が出るんだ」
幽霊の体が黒いノイズに侵食されていく。
風船が割れた時の様な破裂音が辺りに響き、その幽霊は消滅した。
「……ふぅ」
「お疲れ、アキラ」
声がした方向に振り返る。
そこには白いジャケットを身に纏うファナエルの姿があった。
「はい、これタオル」
「ありがとう。依頼人の方は大丈夫?」
「さっき家族の人と一緒に帰ったよ。明日にはお金振り込んでくれるみたい」
ファナエルから貰ったタオルで軽く顔を拭い、いつもの会話をしながら帰路に着く。
二人で霊能事務所を立ててそれなりに時間が経った。
学校の7不思議の解決とか、人間と入れ替わって生活している悪魔の退治とか、色んな事をこなしながらなんとかその日その日の生活費を余裕で稼げる所までたどり着けた。
天界からの追手もここ最近は全くと言うほど出会うことが無い。
今はただ、ファナエルとの幸せな時間を過ごしている。
「この後予約は入ってないし、事務所に戻ったらいったんお茶にしようね。必死に隠してるけど、アキラだいぶ疲れ溜まってるみたいだし」
「そうかな、そう思わないけど」
「目を見ただけで分かるよ。まぁ自覚がないならなおさら休まないとね」
ファナエルは困った様な顔を浮かべてそう言うと、そっと俺の腕を組んだ。
「帰る前にアキラが倒れない様に、私が支えてあげるよ」
「……それじゃぁ、少し甘えさせてもらおうかな」
ほんの少しだけ体重をファナエルの方に寄せる。
体に張りつめていた緊張が抜ける。
それと同時に、体の芯から疲れがドっと湧き出した。
「ほんとだ、だいぶ疲れてるみたい」
「だから言ったでしょ?今日は早めに事務所閉めちゃってもいいんじゃない?」
そんな談笑を続けていると、いつの間にか霊能事務所があるビルが視界に映り始める。
二人で事務所に帰った俺達は、ひとまず椅子に座ってふぅと息を着いたのだった。
◇
「明日の天気は晴れ、洗濯物が干しやすい天気になるでしょう。それではここで一曲……」
事務所で流しているラジオが流行りの曲を流す。
ちらっと窓の外を見ると夜の暗闇が広がり始めている。
「暗くなるのも早くなったよね~」
「そうだな、ここに来た頃はまだ暑いぐらいだったのに」
「秋服を集めるのは大変だったね」
二人でお茶を飲みながらのんびりと雑談をする。
思いのほか長い間この土地で生活してたんだなとノスタルジーな気持ちになりながら、お茶を飲み干し、コップを洗って片付けた。
「それじゃぁ今日はもう帰ろう。帰ったら私がアキラにマッサージしてあげるよ」
「それは楽しみー」
ファナエルに言葉を返そうとしたその瞬間、脳に妙な感覚が走る。
これは……このビルに作った結界に天使か悪魔が侵入した合図だ。
『おい、俺達の存在がばれてるぞ』
心の声を読み取ってみたが、おそらく相手は悪魔一体か。
話の素振り的に人間と行動を共にしている可能性が高い。
「ファナエル、俺の後ろに隠れて」
「それって……分かった」
俺の顔を見ていち早く状況に気づいたのか、ファナエルはドアの鍵を閉めて素早く俺の後ろへ隠れる。
彼女にとってこの事務所は初めて見つけた自分の居場所だ、そんな大事な場所に敵が入って来るのはきっと怖いだろう。
「大丈夫、ファナエルは俺が守るから」
俺の頭上に光輪が現れる感覚。
光輪がパリンと割れて、そこから血の滝が流れ出る。
ファナエルの髪の毛を束ね出来た様な6本の触手を背中からズルズルとむき出しにする。
相手が何者か分からないけど、この状態ならドアを開けた瞬間に倒せる。
「……そんなに警戒しないで欲しいのです」
ドア越しから声が聞える。
子供の声だ。
「私達は貴方を助ける為にここへ来たのです」
「……到底信用できないな」
「この言葉が嘘か本当か、貴方の能力があれば分かるはずなのですよ」
さっきから悪魔の声が聞え続けているが、特に人間に向かって指示を出している様には思えない。
ドアの前に居る集団を率いているのはこの声の主って可能性の方が高そうだ。
触手の内一本をドアの鍵に、残りの5本をドアの真ん前に。
一旦、ドアを開けて声の主の心の声を聞く。
俺達を助ける為に来たと言う言葉が本当なら話を聞けばいいし、嘘なら扉の前で待機している触手で殺せばいい。
さんざん悪魔や天使を殺しておいて、今更人間を殺したくは無いなんて思ってしまうが……ファナエルに危害を与える輩だったら容赦はしない。
そんな覚悟を決めて、俺はドアの鍵を開けた。
ギィィと音を立ててドアがゆっくりと音を立てる。
「……お前は」
「その姿……」
俺の言葉と声の主である女性の言葉が重なる。
『とりあえず今は、一ノ瀬心がここを襲撃する前に間に合って良かったと思うべきなのですよね』
そこに立っていたのは、修道服を着た小学生ぐらいの女の子。
その後ろには見た事のある顔が3人ほど並んでいた。
「シンガンの……氷雨」
「お久しぶりなのですね、お兄さん」




