Eyes Hazard
「ッ‥‥‥一体何が?!」
なにか危機的な事が起こっていると本能的に感じたその時点で堕天使の力を行使していた。
そうすればこのバスに乗っている人間全員の心を覗ける。
この状況を理解する手がかりを見つけることが出来る。
『$%&%!!!!!&$%%&』
『$$$$$$%#”!&%$%』
『??%%$&%&%!%&’&&%%$』
そのはずだった。
「何だこれ‥‥‥心の中がなにかに支配されてるみたいに」
「‥‥‥‥まさか、そんな」
「ファナエル?」
隣の席に座るファナエルは顔を強張らせて乗客達の様子を見ていた。
彼女の心は誰かに対する恐怖で埋められていて、上手く思考が回っていないように思える。
ファナエルをこの空間に留まらせるのは危険だ。
「ファナエル、ちょっとゴメン」
「えっ、アキラ?!」
呆気に取られる彼女の体を強引に抱き上げ、バスの窓を力任せに開ける。
俺は彼女の体を抱きかかえたまま、バスから強引に飛び降りたのだ。
彼女に傷がつかないように、自分の背中を地面と並行にした姿勢で衝撃に備える。
俺の体に何かがあっても、ファナエルだけはー
『そんなの駄目』
彼女の心の声が聞こえて来たその瞬間、パリンという陶器が割れる様な音が響く。
俺の背中が地面と激突するのを防ぐ様に、黒いノイズの混じった白い光が間に入ってクッションの様な役割を果たしてくれる。
ゆっくりと体が地面に着地したその時には、血の流れる赤い光輪を頭の上に浮かべたファナエルが俺の体を強く抱きしめていた。
「ちゃんと自分の体も大切にして」
「ご、ごめん」
「うん。それとありがとう、アキラのお陰で助かった」
ファナエルは立ち上がってクルリと体を翻す。
先ほど俺達が飛び出したバスの窓には大勢の乗客たちが集まっていて、こちらに近づこうと体を乗り出している。
『ハネ……ナシ』
『ミツケタ、ミツケタ』
『ハネナシ、ミツケタ』
彼等から聞こえてくる心の声は機械的に『ハネナシ、ミツケタ』と繰り返すのみ。
額には緑色の眼を催した紋章が浮かび上がっていて、ゾンビの様な動きで今にもバスから飛び出してしまいそうな勢いだった。
「今度は私が助ける番だね」
一言呟いたファナエルの周囲に黒いノイズが混じった白い光りが膨れ上がる。
それと同時に乗客たちから聞こえていた心の声にズズズとノイズが入ってゆく。
「私達に近づいてこないで」
ファナエルの放った光は一つの渦になってバスを直撃する。
ぎしゃりと金属がねじれる音が辺りに響き渡る。
視界が開けた先にはぺちゃんこになったバスと、傷一つ無い姿で地面にぐったり伸びている人々の姿だった。
「アキラ……警戒してて。まだ来るよ」
ガサリ、ガサリ。
ファナエルの言葉に応える様に無数の足音が響く。
周囲を見渡せば、遠くから虚ろな顔をした人々といつぞやの鳥頭の化け物が軍をなしてこちらに歩いてきている様子が確認できた。
その光景はさながらゾンビ映画の一幕みたいだった。
「俺の力でこの状況は切り抜けられそうか?」
右手に力を入れる。
それに合わせて右腕からファナエルと同じ銀色の髪の毛が急速に生え、俺の腕を包んで鎧の様なものへと変貌させる。
「大丈夫、あんな鳥もどきアキラの敵じゃないよ……問題は」
二人の肩を合わせて周囲を警戒する。
ファナエルはすっかり変貌してしまった緑色の空を見上げながら叫ぶ。
「わざわざ人間界に降りて来たんだね、アルゴス」
「ええ、上もようやく貴方の危険性に気づいたようで。ようやく地上に降りる許可が出ましたよ」
空から響く声。
鼓膜を刺激するようなうるさい声ではないのに、この町全体に響いているんだろうなと確信してしまう様な不思議な声だった。
緑色の空に浮ぶ一つの目がぎょろりと開く。
その目から緑色の強い光りが地面めがけて舞い落ちる。
「こうして直接会うのは二回目ですね。ファナエル・ユピテル」
光りの晴れた視界の先、俺達の目の前に一つの人影が現れる。
「牛草秋良も一緒だったとは、こちらとしては好都合ですね」
190㎝ほどの身長。
服は緑色の軍服を纏っていて、その服の至る所にギョロギョロと動く目玉が埋め込まれている。
そして、彼女の背中には四枚の大きな羽が生えている。
ファナエルがしてくれた羽の説明になぞらえると……目の前のこの女は神と呼ばれる存在で間違いない。
「そっちの人間の為に自己紹介を。私の名はアルゴス。これからあなた達を捕縛、もしくは処刑する者です」




