【短編】全員殺して解決する悪役令嬢が、ゲーム至上主義の学園を物理で潰す話
ゲーム名 ”トリックダイス”。
ルール1:2つの6面サイコロを振り、最終的な合計点を競う。
ルール2:各プレイヤーは1つのみ、マジックダイスを用いることができる。
なお、マジックダイスは込められた魔力の属性に対応して内蔵した錘が動き、狙った出目を出せる。魔力なしが1、火属性2、水属性3、風属性4、土属性5、無属性で6を出せる。
ルール3:各プレイヤーは、相手プレイヤーの合計の出目を予想し、予想した値をカードに伏せる。
ルール4:予想が的中した場合、サイコロの出目から4点を引くことができる。ニアピンならば2点を引ける。たとえば出目の合計が10、予想も10の場合、4点を引いた6点をプレイヤーの最終的な合計点とする。
ルール5:最終的な合計点の高い方を勝ちとする。
ルール6:勝負は10回行い、勝ち数が多い方を勝者とする。引き分けの場合はサドンデスの延長戦を行う。
ルール7:勝ち点の少ない側は、掛け金をレイズすることで次の勝負の勝ち点を2倍、3倍……と加算することもできる。この時の掛け金と倍率はプレイヤー間の合意により設定できる。
「説明は以上よ。この賭けに負けたらFランクに降格。分かり易く言えば奴隷落ち。勝ったら10000チップをプレゼントした上でCランクに上昇。
今のDランクよりかは待遇も一段上がるし、『上位ランカーからの賭けを月に1回まで拒絶できる』権利がプレゼントされるわ」
「はぁ…………」
後世の歴史家から希代の悪女と称されるアンヌ・ジャルダン・ド・クロード・レヴァンティン女伯爵は、呆れ顔で生返事をした。
髪の毛は鮮やかな珊瑚珠色。ランタンの光を華やかな赤橙色に反射させたそれは、濃紺のドレスと相まって人の視線を引き寄せる。細く長い眉は神秘的な印象を与え、黄土色の瞳は少女でありながら知性と威厳に満ちている。
発育のよい胸は多くの男の視線を呼び寄せ、街を歩けばアンヌが――とある事故の影響で――若返ったことを知らない者からナンパをされる日々を送っていた。
その日。
アンヌがお忍びで街を散策していると、屈強な男たちが彼女を取り囲んできた。
大幅に減ったお小遣いをやりくりして貯めたお金を懐に、名店『プティ・アンヌ』の美味しいスイーツを食べようかとうきうきしていた矢先の出来事だった。
「お嬢様がお呼びだ。来い。お前に拒否権はない」と馬車に乗るように促され、お嬢様とやらが誰か気になるのでついて行ったら……わけのわからない学園に連れられた。
『王立ヘルメス学園』
教育のコンセプトは、世界最強の魔術師を養成すること。
あらゆる状況を想定した上でその裏をかける実力者を養成するための。
成績評価、生活グレード、人としての序列――全てが、ゲームという名のギャンブルで決まる学園だという。
「さあ。命がけのゲームをしましょう。奴隷になりたくなかったら抗いなさい」
高らかに宣言したのは、くるくるとカールした縦ロールの長い金髪に、赤を基調とした豪奢なドレス姿。
名はゼオン。
ゼオン・リュシア・ルミナリア。
学園での階級は最上位のSランク。生徒会長をしており、ルミナリア公国のトップ、ヴァレン・リュシア・ルミナリア公の孫娘だという。
「あのう。わたくしの理解力の問題かもしれませんが、根本的なことがまだ分からないので教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「なに?」
「街を歩いている小娘を、屈強な男を使って無理やり連れて来たのはあなたの差し金ですよね」
「そうよ」
「そして、ゲームをしろと迫ったのもあなたで、周囲を相変わらず屈強な男で囲って、わたくしに拒否権はないとのたまってるのもあなた」
「ええ。そうね」
「どうして、よりにもよってわたくしなのですか? つまり、わたくしは誰かに狙われるような心当たりがとんとないのですけれども……」
アンヌが心底から分からないという顔で尋ね、ゼオンがキラキラとした瞳で返した。
「私は綺麗で可愛くて頭がいい女性が大好きなの。ゲームをするまでもなくひと目で分かるわ。あなたにはこの学園でのし上がる才能がある。これは入学テストってわけ。
あなたが期待外れだったら私を失望させた罪で奴隷落ち」
「ははぁ……。年端もいかない淑女を勝手に拉致して、イカサマありのゲームをしろと迫り、負けたら奴隷落ちですか。ずいぶんとまあ、理不尽な話ですね」
「イカサマ?」
「あなただけはサイコロの出目を2つとも自在に出せる上に、サイコロの出目を予想するカードにも細工がしてあって後だしで100%的中できるよう改ざんできる」
「………………」
ゼオンの顔色が変わった。
的中していたからだ。
「何の言いがかりを」
「ちょっとそのサイコロをこちらに投げていただけます?」
にこやかに、『虐殺の魔女』のあだ名を持つ女伯爵は、花のつぼみがほころぶような可憐な笑みを浮かべ、簡単なお願いをした。
アンヌを良く知る者がその笑顔を見れば、全速力で逃げ出していただろう。
ゼオンが言われた通りにする。
次の瞬間。
――パンッ!!
サイコロが弾けた。
粉々になった破片が散弾銃の弾のように吹っ飛んだ。
「な、何?」
ゼオンが自分の頬に手を当て、信じられないという顔をした。
赤い血が指先を染める。頬に、鋭い傷が走っている。
「運が良かったわね。頬をかすめた程度で」
「……まさか」
ゼオンが、藍色の瞳を見開いてアンヌを見た。
「あなたがやったの?」
アンヌが肩をすくめた。
「あなた、『ゲーム中にサイコロが偶然爆発して、破片が目に突き刺さって失明する』程度すら想定してなかったの?」
「……………」
「失明してもゲームは続行できるでしょうけど、出目が吹っ飛んだら合計値をどうやって出すの? ルールに穴があるわ。もう少し考えなさい」
マジックダイスを遠隔で爆発させるなど序の口だ。
彼女が”来い”と言えば、『首から上だけ』を召還できる。
他人の思考、心を読む能力もある。
ゼオンが提示したルール、用意していたイカサマでは、アンヌに勝ち目はない。
「わたくしはくだらないゲームには付き合わないわ。……それで、ゲームを拒絶できないって話だけど。そこらにいる屈強なお兄さんたち。
まとめて死ぬ? わたくしを通す? どちらがお好み?」
十数秒の間、危険な沈黙が流れた。
男たちが、互いに視線を交わしあう。この目の前にいる得体のしれない少女をどうすればいいのかと。
「……あなたはもしや、レヴァンティン伯爵ゆかりの方ですか?」
屈強な男の一人が、質問を口にした。
「本人よ。ちょっとした事故の影響で若返ってしまったの」
「はっ……ハァァァ!!!」
質問した男が、ジャンピング土下座をした。
「大変失礼いたしました! どうぞお通りください!! おい! お前らも何をしている。さっさとレヴァンティン伯に土下座せんか! 早くしろ、死ぬぞ!! 今すぐに土下座しない奴は俺が制裁する!!」
「ちょ。何をしているの?」
他の男たちに命令する男。
わけのわからないまま男に倣って土下座する男たち。
目を白黒とさせるゼオン。
「あなた達への沙汰は追って通達します」
「なにとぞ、家族の命だけはご勘弁を!!」
「考えておくわ」
ドレスの裾をひるがし、颯爽とアンヌは去っていった。
数日後――
アンヌはヘルメス学園の最大のスポンサー、ルミナリア公国を訪れた。
***
『虐殺の魔女』
『全員殺して解決する悪役令嬢』
『殺した後に帳尻を合わせるタイプの魔王』
一部の界隈から、アンヌはそう呼ばれている。
殺されるだけならまだいい。
滅ぼされることすらあるのだ。彼女を敵に回したら。
わずか3か月で万単位の死者を出したエルフの国のように。
幸いにして、ルミナリア公国のトップ、ヴァレン・リュシア・ルミナリア公はアンヌのことを良く知っていた。実によく知っていた。およそ40年前、アンヌに滅ぼされた国から分家してできた公国だったから。
「レヴァンティン伯爵! このような小さな国にどんな御用でしょうか!?」
平伏である。
「……ああ。思い出した。あの時に見逃してあげた坊やか。公王とは出世したものね。話が早くて助かるわ。
先日、あなたのお孫のご令嬢から無礼な真似を受けたの。これはわたくしが実際にされたこと、言われたことをまとめたお手紙よ。見ていただけるかしら?」
「拝見します!」
ヴァレンは手紙を受け取り、中身を読むと……見る見るうちに血相を変えた。
「そこに書かれている通り、あなたのお孫さん、わたくしを奴隷化すると宣言したのだけれども。わたくしはくだらないゲームに付き合わないといけないの? どうなの?」
「めっそうもない!!」
「じゃあ何。わたくし、あなたのお孫さんの差し金で拉致されたんだけど。
あなたが、わたくしを間接的に奴隷化したいってこと?」
「とんでもありません!!」
「そう……。
今回はわたくしを直接狙ってきたから手加減してあげられたけど。もしも同じ真似をわたくしの領民がされたら、なんて考えると……。
『レヴァンティン伯爵は、ルミナリア公の配下から戦争を仕掛けられている』という認識でいいのかしら?」
「めめ、めっそうもない!! すぐに孫娘は処刑します!!」
「そんな野蛮な真似はやめなさい」
(どの口が言うか……!)と、ヴァレンは考えたが言わなかった。
読心術のあるアンヌには筒抜けなのは知っているが、口にした瞬間に終わる台詞というものがこの世にはある。
「人を殺すなんて良くないわ。この件、わたくしの預かりって事でよろしくて?」
「はい。仰せのままに!」
「あの学園は廃校にします。それと、あなた以外のスポンサーを教えて。穏便に話をつけるから」
「仰せのままに!!」
そういうことになった。
***
さらに数日後。
ヘルメス学園にアンヌが再び訪れた。
「学生の皆様。これからここにいるアンヌ特別プレイヤーとのゲームに参加してもらいます。あなた方に拒否権はありません」
壮年の学園長が、淡々という。
冷や汗をびっしょりと浮かべた顔色は、蒼白になっていた。
屈強な男たちが、学園生を取り囲んでいる。
つい数日前、ゼオンの命令でアンヌを拉致した男たちだ。
種目はポーカー。
ルールはテキサス・ホールデム。
自分に配られた2枚のカードと、場の共有カード5枚から最強の5枚を組み合わせて競う一般的なものだ。
イカサマはバレない限り何でもあり。
5分以内にコール、レイズ、フォールドのいずれかができない場合は試合終了とする。
最初のプレイヤーはアンヌ1名vsSランク生徒会役員、5名全員。
勝負は5分でついた。
試合開始直後。
アンヌが”来い”を連呼。生徒会員の両腕だけが部分的に召還され、手でカードをめくる事が不可能になった。
「腕を失っても魔法でカードをめくれるでしょう。……できないの?
たかが腕を失った程度で?
なら口でめくってみれば?
そうしたら顔を潰してあげるけど。
さあ。頭を働かせなさい。働く頭がないのなら根性を見せなさい。
あなたたちは多くの学生たちをゲームで奴隷にしてきた『どんなイカサマにも対処できる』エリートなんでしょう?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい助けて!!」
生徒会役員たちは、必死に懇願した。
激痛と、失血による死の恐怖にのたうち回りながら。
(情けないわね)
アンヌが同じ状況になったら、確実にゲームを続行していただろう。
腕をもがれ、足をもがれ、顔をつぶされようとも。
潜り抜けて来た修羅場の数も、覚悟の次元も違う。
「時間となりました。ゲーム続行不能につきアンヌ様の勝利です」
「興ざめね。誰か一人でも食い下がるのを期待してたのに」
アンヌは指を鳴らす。
パチン、と音がするなり、のたうち回っていた生徒会役員の面々の悲鳴がやんだ。腕もくっついている。
というより、最初から腕をもいでなどいなかったのだ。
そう思わせただけで。
「幻術よ。
『暴力禁止』のルールには違反してないわ。そうでしょう? 審判さん」
「は、はい。問題ありません」
「まあ次は、違反してしまうかもしれないけれども……」
アンヌが流し目をくれると、生徒会役員達は震え上がった。
「それでは、敗北したあなた方へペナルティが課します。
『毎日眠るたびに今と同じ苦痛を味わう』か、『汗水垂らして働いて、これまで迷惑をかけた人に慰謝料を支払う』かのどちらかを選びなさい。完済する何年かかるか分からないけどね。
その際、違法労働に従事することや、娼館その他の施設で身体を売って稼ぐこと、親族から立て替えてもらって得たお金は慰謝料として認めません」
「そんなっ、ひどい」
「殺されないだけ運が良かったと思いなさい」
(本当にその通りだ)
いきさつを眺めていた警備隊長はそう思ったが、口にはしなかった。
その後学園生たちは学園で行ってきたいじめ行為、悪行に比例した罰を受けた。他人を奴隷化し辱めをした者は貴族の年収に匹敵する慰謝料を。軽微な事例にはそれなりの額を。
その後、ヘルメス学園は閉鎖され、ゲームによって発生した債権と債務はすべて帳消し。
『常識的に考えてやりすぎ』とアンヌが認定した案件は、被害額が算出され、学園創設時から遡って補填されることになった。
精神的・身体的な屈辱には相応の慰謝料が課された。
学園経営によって甘い汁を吸っていた王侯貴族は突然かつ巨額の出費に破綻の手前まで行き、多くの家門が没落したという。
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2/3 早朝4時に構成を整理。改稿。




