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6 乳母は猿の化け物について語るのこと

「金玉さま、大丈夫ですか? 酔ってませんか?」


 輿の外から、乳母の阿麻あーまが声をかけてきた。


「だ、大丈夫だよ……」

 金玉はいかがわしい本を隅におしやって、咳ばらいをした。


「と、ところで……お嫁さんのところには、あとどれくらいでつくの?」


 照れ隠しに、輿にかけられた布をめくって、阿麻に尋ねた。


「そうねえ、二日はかかりますかね」

「へえ、そんなに」


 阿麻は背が低く、でっぷり太っていて、かなりの年だ。

 まるで小鬼ゴブリンのような醜い姿の老婆だったが、金玉にとっては大好きな乳母だ。

 阿麻は「坊ちゃまの婿入りを見届ける」といって、寄る年波にも関わらず、ついてきたのだ。


「早く行きませんとね。このあたりは危ないですから」

「どういうこと?」


「ここからずーっと北のほうに、彭越ほうえつ山ってところがあるんですよ。

 そこに恐ろしい猿のバケモノが住んでいてね、

 ときどき、このへんに女をさらいにくるそうですよ」


「なーんだ、またデタラメばっかり」


 この乳母は金玉が小さい時から「早く寝ないと、九尾狐きゅうびのきつねがいたずらしにきますよ」だのといって、よくこわがらせにきていたのだ。


「デタラメじゃありませんよ!

 最近でも、女の子が行方不明になったそうなんですから。

 坊ちゃまだって、危ないですよ」


「食べられるっていうの?」


「それはですねえ……」

 乳母は声をひそめて、金玉にだけ聞こえるように言った。


「その猿の化け物は精力絶倫で、股の間のナニときたら、もう丸太ん棒のようなんですって。

 それで女を何人もさらって、自分の子どもを産ませるために、昼夜を問わずアレしてるそうなんですよ。

 で、次第に女たちもナニなしじゃいられなくなって、その猿を夫として仕えて、化け物の子をぽんぽんと産んでるっていうんです」


 洋の東西を問わず、誰もが思いつきそうなシチュエーションだった。


「もし坊ちゃまが捕まったら……ナニをねじこまれるだけじゃなく、アソコを拡張されて、いつしか化け物の腕をつっこまれてヒィヒィ喜ぶようになっちまうんですよ! ほーら、こわいでしょう」


「さすがにそれはないよ。ぼくは子どもを産めないんだから……」


 金玉は母から託された書物を読んだことによって、乳母が何を言わんとしているのか、うっすらわかるようになってしまった。


「いえいえ、そんな安心してはいられませんよ。

 うちの周りにだって、ヘンな男はたくさんいたでしょう。

 妖怪の世界だって、虹色に染まってるに決まってますよ。

 坊ちゃまはただでさえおモテになるんですから、十分気をつけないと……」


「ひぃぎゃあああーっ!」

 

 ――使い古しの雑巾を引き裂いたような声が響き渡った。


 以下、次号!

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