第0章 僕が魔王になった日
ただの学生が、なぜか異世界で「魔王」として召喚されることに!?
けれど、その役目はただの悪役ではなく、この世界を救うための「救世主」でもあるらしい。
勇者と戦いながら「歪み」を修正するという使命を与えられた僕は、やがてこの世界そのものが奇妙な矛盾に満ちていることに気づき始める。
これは本当に「救う価値のある世界」なのか?
そもそも、この世界は本物なのか?
運命を押しつけられた僕が選ぶ結末とは――。
ちょっと皮肉で、ちょっとダークな異世界ファンタジー。
そんな物語を、お楽しみください。
「今思うと、僕が魔王になったのは、とてもくだらない理由だったんだ。」
あれは大学帰りの夜遅く、駅の階段を降りている時だった。
特に急いでいたわけでもないし、何かに追われていたわけでもない。ただ、靴紐が緩んでいただけだ。
階段の最後の段差を踏み外し、そのまま前のめりに倒れた。次の瞬間、世界が音もなく消え、スローモーションのように景色がゆっくりと歪んでいったのを覚えている。
僕は必死で手を伸ばしたけれど、何も掴めなかった。背中から固い床に叩きつけられる感覚、そして、息が詰まるような鈍い衝撃。
その後は、妙に静かだった。「音が消えた」と言ったほうが正確かもしれない。駅の喧騒も、アナウンスの声も、すべてがどこか遠くへ消えてしまったように感じられた。
代わりに、視界の端から不思議な光が溢れ始めた。その光は、白というよりも淡い青や緑が混ざり合った、何とも言えない色合いだった。
気がつけば、僕は空中に浮かんでいた。いや、浮かんでいたというよりも、地面そのものがどこかへ消えてしまったと言ったほうが近い。その奇妙な感覚の中で、ひとつだけはっきりと分かったことがある。
――僕は、今までの世界から抜け出してしまったのだ、と。
目を開けると、そこは天井の高い大広間だった。どこからか明るい光が差し込んでいて、石造りの壁には奇妙な紋章が刻まれている。まるでゲームの世界に出てくる「異世界」そのもののような雰囲気だった。
周りには黒いローブを着た人たちがずらりと立っていて、全員が無表情で僕を見つめている。
「あなたは、この世界を救うために選ばれました」
一番前にいた男がそう言った。まるで映画のセリフのようだった。でも、どこか冷たく抑揚のない声だった。
「ただし――あなたは魔王役です」
僕は一瞬、彼らが冗談を言っているんじゃないかと思った。でも、彼らの真剣な顔を見ているうちに、それが本気だと分かった。
僕は「魔王」として召喚されたらしい。でも、同時にこの世界を「救う存在」でもあるという。どういうことだろう? 魔王と救世主なんて、どう考えても両立しない。
「この世界には『歪み』があります」
「歪み?」
「世界の根幹にあるバグのようなものです。それを修正するのが、あなたの役目です」
ローブの男が僕に一冊の本を手渡した。それは分厚い革張りの古い本だった。本を開くと、中には無数の文字がびっしりと並んでいた。まるで本が僕に直接語りかけてくるかのようだった。
その本によると、僕が魔王として召喚されたのは、この世界に存在する「歪み」を修正するためらしい。勇者たちと戦い、物語を進めることで、この世界のシステムが徐々に安定していくのだという。
僕は魔王として、歪みを修正するためにこの世界を旅するらしい。
急な出来事に戸惑いながらも、どこか冷静な僕が囁き続けている。
「この世界そのものが、そもそも偽物なんじゃないか?」と。
何が本当で、何が嘘なのか。そんなことすら分からないまま、僕はこの奇妙な舞台に立たされていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この物語を書き始めたきっかけは、「魔王」という存在に対する僕自身のちょっとした疑問でした。
異世界ファンタジーでは、魔王ってどうしても「悪役」や「討たれる側」として描かれることが多いですよね。でも、もしそんな魔王が世界を救う役目を負わされていたら、どんな葛藤や矛盾を抱えるんだろう? そう考えたのが、この物語のスタートでした。
主人公の「僕」は、ただの大学生であり、理不尽な運命に翻弄されながらも、自分なりに世界と向き合おうとしています。彼の決断や感じた矛盾が、読んでくださった皆さんの心に少しでも響いていれば嬉しいです。
次回は、さらに深い部分に踏み込んでいく予定ですので、ぜひ応援していただけると励みになります!
手に取ってくださってありがとうございます!