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第一話

昔々、あるところに。世界には魔王がいました。

魔王はすごくすごく強い魔力を持っていて、従わない魔物は生み出した土塊であっさりと消し飛ばしてしまいます。

みんなそんな魔王様を恐れていて、尊敬していました。

魔王様は人間を滅ぼしました。

魔王様は人間がひどく嫌いでした。

魔物は魔王様を崇めました。

魔王様は世界が大嫌いでした。


──ある日、魔王様は、とある魔法を作りました。


たくさんの魔力と、千年以上の歳月をかけて研究して。時間逆行の魔術を編み出します。

魔法が確かなものだとわかったその夜、魔王様の部屋に、魔王様は二度と帰ってくることはありませんでした。



✳︎



「なぁおまえ、もしかして神様のこと嫌いなのか?」

「……どうしてそう思うんですか?」


王都へ出稼ぎのため旅をしていたリィンは、道中遭遇した少年へ、手持ち無沙汰に話しかけた。

おまえ、と呼ばれた少年は、血のように真っ赤な片目をぱちくりとさせて、むず痒い敬語で聞きかえしてくる。


「や……何かさ、食前のお祈りとかしねぇし……あっでも、おまえのいた国はそういう文化圏なんかな。国が違えば神様も違うって言うし……」

「ちょっと、聞き終わる前に自問自答しないでくださいよ」


リィンは、おんなじ年頃のいない小さな村出身だ。同い年か、年下くらいの子供と話すのは初めてだから、うまく話せない。

そんなリィンを見て子供はくすくす笑いながら焚き火用の枝をパキパキと折っていく。


「一応ありましたよ、うちも。食前の祈り。でもなんか習慣づかないからやめちゃいました」

「えぇ……俺もいつかやめちゃうんかな」

「それはないですね」


リィンの微妙そうな顔に、理解できないんだろうなぁと言いながら子供は笑う。どこか浮世離れしたこの子供は、どうしてかリィンのことをよく知っているようだった。


「あなたはずっと誠実に祈るままですよ、きっと」


腹が立つほどにね。と。

怪しげな紅い瞳が、ぱちぱちと揺れる炎に照らされゆらりとゆらめく。


背筋に何かが走る。それが危機感であることをわかっていて、リィンはそうか、と頷いた。


「……なら、いいや」

「はい。もう寝ましょう、明日も朝から歩かないと着きませんよ」

「ん」


いつも見張り番を買って出てくれる彼に甘えながら、リィンはゆっくりと意識を手放していく。

王都に着いたら仕事を探して、お金を稼いで、村にたくさんお金を入れるのだ。

そうして、本好きな母さんに本を沢山買ってやろう。


そういうリィンの夢想を知ってか知らずか少年は笑んだ。これからの彼の末路を知っているものの、自嘲的で、ひどく哀しげで、何よりもどこか狂った笑顔だった。


「──おやすみなさい、リィン」

「……おやすみ、タチバナ」


タチバナは──魔王は、勇者の頭を優しく優しく、愛おしげにかき混ぜた。

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