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第五話 変化





 前回のあらすじ:

 生活魔法が使えるようになりました。









 あっという間に十一歳になった僕は自分の部屋の窓から家の外を眺めていた。

 一面の麦畑は風になびき揺れていて、まるで川の流れのように見える。

 前世での田んぼの景色が思い出されて感慨深い。


 視線を別の方向に変えると、森が目に入ってきた。

 村の石垣の外に広がる森はあまり人の手が入っていないのか、原生林のような雰囲気を醸し出している。

 猪事故のせいもあって、あの森にはあまりいい印象がないけど。

 事故を思い出して、背後で揺らしている尻尾が逆立った。


 絶賛引きこもり中の僕にも変化があった。

 と言っても、別に引きこもりをやめたわけじゃない。

 自然と変われるほど僕の恐怖心は弱くない。


 うん、自分で言っていて悲しくなってきた。

 そんなことではなくて、僕の生活の変化の方が大切だ。


 母から教えてもらった生活魔法を使えるようになってからも、忘れてしまわないように時々使うようにしている。

 母の家事のお手伝いをしたり、自分の部屋の掃除をしたりするだけで、練習した時ほど乱用はしないようにしていた。

 練習する時にはどうしても数使わないといけないけれど、一旦習得してしまえばそんなに使わなくても大丈夫だし、他の村人に見られるとよくないと考えたからだ。


 もちろんそれも僕の生活の変化の一つなんだけど、もっと大きな変化があった。

 それは今こうして窓の外の風景を眺めていることにも関係している。


 この家は比較的後に建てられたようで村の(はず)れにあって、村を囲んでいる石垣の外にある森を見ることができる。

 その森の茂みのところに最近狼がいることに気付いたのだ。

 白と灰色の体毛をしていて、外見は前世で見たことのあるシベリアンハスキーのようだ。


 普段村の狩人が出入りしている森の入口からは離れているし、村に住んでいる他の人達は遠くの森の様子に気付いていないようだった。

 もしかしたら獣人の目は普通の人よりもいいのかもしれない。


 最初見つけたときはこの世界にも狼がいるのだなと思っていたのだが、狼には他にどんな種類が存在するのか気になり父に聞いたところ、その特徴を持つのはマーダーウルフという魔物だということが分かった。


 さらに詳しく聞くと、以前猪事故が起きたあの森には、猪などの普通の動物以外にも、魔力を持ち狂暴性が高い魔物が出るということだった。

 そしてこの世界の様々なところに魔物が出現することがあるということも分かった。


 この世界に来てからのどかな田園風景しか見ていなかったので、てっきり魔物はいないものだと考えていたが、普通に存在していたようだ。

 村を囲んでいる石垣も、稀に現れる魔物が村に入ってしまわないように作られているらしい。


 だが、父の話ではマーダーウルフという魔物は単体では見かけず、普通群れを作って行動しているらしい。

 だからこそ、単体の他の魔物よりもやや危険とされているということも知った。


 しかし、僕が見つけた狼は一頭だけしかいなかった。

 父もそのことを聞いて、ならば直接刺激しなければ、村に害はないだろうと様子を見ることになった。


 そんなこんなで今もこうして窓から森の様子を眺めているわけだ。

 これまでのことを思い出していたら、例の狼が尻尾を振り始めた。

 どこかに飼い主や仲間でもいるのかと狼の周りを確認してみたが、別に誰かがいるわけではなさそうだ。


 むしろ狼はこちらを見つめているような気がする。

 狼の視力がどれくらいなのかわからないけど、獣人の僕が狼を見えているのだから、狼から僕が見えていても不思議はない。


 でも、こちらの世界で狼と関わったような記憶はない。

 前世では一時期犬を飼っていた時期があったが、犬まで一緒に異世界に来たりはしないだろう。

 前世で飼っていたのはゴールデンレトリバーで、あんなシベリアンハスキーみたいな犬種じゃなかった。


 と、すると、あの仕草はこの世界の狼の習性か、僕みたいに獲物になりそうな生き物を誘い出すための罠なのかもしれない。

 ただ、見つめ合っていると何だか懐かしいような感じを覚える。


 犬種は違っているけどもしかしたら、と……。

 かくいう僕も前世では人間だったのに、こちらの世界では猫に……、違った、猫系の獣人になってしまっているわけだし、種族が変わることも普通にあるのかもしれないと思えてしまう。


 とはいえ、これだけの理由で家を出るわけにも、狂暴な猪が跋扈(ばっこ)する森に近づくわけにもいかない。

 どうせ当分はこの世界の言語を勉強したり、どうやって今後生きていくかを考えたりしなければいけないのだからやることは十分にある。





    ◆ ◆ ◆





 そうして森の狼を観察しながら勉強する生活を送り始めてかれこれ二か月が経った。


 その間も例の狼はずっと森から僕の部屋を見つめていた。

 ここまでくると正直ちょっと怖い。

 野生のストーカーに見張られている気がしてきた。


 ちょうどこの世界の言語の勉強が一区切りついたので、窓から外の様子を見てみる。

 森の茂みにはいつも通り覗き魔が座っていた。

 そこでなんだか違和感を覚えた。


「あれ? 血がついている?」


 狼の白い毛並みには赤黒い汚れが付着していた。

 もしかして怪我をしているのかもしれない。

 少し心配になってきた。


 前世の世界でも、例え除き魔だろうと血を流していたら救急車ぐらい呼んであげるだろう。

 ただ、この世界には救急車も無いし、相手は魔物だ。

 誰も手当なんてしないだろう。



 そう、誰も助けてくれない。

 前世の僕も苦しんでいたけれど、誰も助けてくれなかった。

 そう思うと、あの狼と僕の姿が重なって見えた。


 でも、飼い犬のソラだけは僕と寄り添ってくれた。

 悲しくて、辛くて、一人で過ごしていた僕にとって一緒にいてくれるだけでどれほど救われたか。


 かなり前から飼っていた犬だったので当時すでに高齢で、彼女を病気で亡くしてからすぐに老衰で逝ってしまった。

 最後まで僕のことを心配してくれていたのか、ずっとそばを離れなかった……。

 手のひらに残っていたあの温もりを思い出して、目に涙がにじんだ。



 もし、あの狼が前世のソラの生まれ変わりなら、もしそうならば、今度は僕がソラを助けてあげないと。

 辛い時に寄り添ってくれたソラが苦しんでいるのを窓から見つめているだけなんて、とてもできない。


 それでも長らく外に出ていなかった恐怖心は僕の足を引き留めた。

 それにもし再会してしまったら、生き物である以上またソラとの別れはやって来る。

 その苦しみに耐えることができるだろうか?


 そこまで考えていて、僕の頭をある考えがよぎった。

 外の世界で簡単に傷つけられないように強くなればいいのではないか?

 (さいわ)いこの世界には魔法も存在している。


 前に猪に跳ね飛ばされた時には僕はまだ魔法を勉強していなかったし、使えるようにもなっていなかった。

 これから使えるようになって傷つけられないようにすれば少なくとも恐怖心は軽減されるのではないだろうか?


 あと落ち着いて考えてみれば、ソラは魔物だ。

 魔物って寿命あるのだろうか……?

 もしあったとしても、なんとなく前世よりも長生きしそうな気がする。


 魔力を体内に取り込んで変質した動物が魔物らしく、その魔力を使って身体能力を強化したり、中には魔法を放ってきたりするものもいるらしいから、前世の動物よりも長寿である可能性は高い。

 どちらにしても怪我をしているのならば急がなければならない。


 僕はあの狼に会いに行くために魔法を勉強することに決めた。









 なかなかお話が進みません……。





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